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「自分の話題だけ話す」「知っていることしか話さない」人は認知機能が低下している兆候? 脳の機能を向上させる会話メソッド【専門家解説】

 記憶力の低下のみならず、「会話」にも認知機能低下の兆候は表れるという。日本で唯一、「会話による認知症予防」を研究する科学者が、その知見をもとに「脳の機能を向上させる」会話メソッドを解説する。

教えてくれた人

大武美保子さん/理化学研究所ロボット工学博士、認知症予防研究者。NPO法人「ほのぼの研究所」所長。認知症を予防する会話支援手法「共想法」を開発。約20年、のべ1万人が参加している。近著に『脳が長持ちする会話』(ウェッジ)がある。

「脳の使い方の偏り」が認知機能を下げる

 認知機能低下のサインは言葉が出てこないだけではない。認知症予防研究者の大武美保子さんが説明する。

「自分の得意な話題に持っていこうとする人、逆に、黙って聞いているふりをする人の脳は、いつも決まった場所だけが働き、ほかはサボっている状態です。実は、会話におけるこのような『脳の使い方の偏り』が、認知機能の低下を招く恐れがあるのです。若い頃は『性格の問題』で片づけられても、年を重ねてからは『脳の問題』になりかねません」

「脳の使い方の偏り」は、なぜ起こるのか?

「年とともに、脳には膨大な言葉や体験、情報が蓄積されていくため、当然、それらを取り出すのは大変になります。言葉がすっと出なくなるのはそのためです。そこで『仕方がない』とあきらめ、楽をして同じ記憶ばかりを取り出していると、仕舞い込まれた記憶はますます取り出せなくなり、いつも同じ会話になる。これが『脳の使い方の偏り』です。脳は、放っておくと勝手に『サボりモード』に切り替わる習性があるのです」(大武さん・以下同)

 長年の思考の癖もあり、脳をまんべんなく使えている人はほとんどいない。だからこそ、誰もが気をつけるべきだと大武さんは言う。

「体の筋肉は、若いうちは少々運動不足でも減る量は少ないですが、50代からは大きく減少するため、以前のように動きたければ、意図的に運動をプラスしないと維持できません。脳も同じ仕組みで、使えばある程度維持されますが、使わなければ衰える一方です」

脳をサボらせないようにする

 どうすれば偏らない脳の使い方ができるのか?

「言葉が出てこないからとあきらめて黙ってしまったり、得意な話にすり替えたりするのをやめ、脳のいろいろな場所から記憶を取り出すイメージで、あの手この手で何とか思い出す努力をし、脳をサボらせないようにするのです」

“むなしい努力”に思えるかもしれないが、脳には努力に応える驚くべき力があるのだという。

「脳には約860億個もの神経細胞があるといわれており(※1)、神経細胞同士がつながることで物事を記憶しています。一部の神経細胞はやがて死んでしまいますが、それで終わりではありません。残った細胞を使って新しく回路をつなぎ直し、生まれ変わるのです」

 たとえば、ある言葉を記憶する神経細胞が死ぬと、しばらくはその言葉を忘れてしまうが、思い出そうと頑張るうちに別の神経細胞が働いて新たな迂回路ができ、翌日、突然思い出すというようなことが起きる。

「つなぎ直しを繰り返すと『神経細胞同士のつながり』の数がどんどん増え、いつでも記憶が取り出せる状態になります。脳がすごいのは、肉体が衰えても回路のつなぎ直しは可能な点です」

 アメリカに、修道女を対象にした興味深い研究(※2)があるという。

「シスター・バーナデッドという修道女は、80代半ばに受けた認知機能検査の成績も高く、日常生活を送る上での介助も必要ありませんでした。ところが、彼女の死後に脳を解剖してみるとアルツハイマー病と同様の変化が脳に起こっていたのです。研究者は驚きましたが、どうやら『神経細胞同士のつながり』が残っていたことで、症状が出る前に天寿を全(まっと)うできた。そして、彼女のように症状が出ない人と出る人の差は『言語能力』にあったというのです」

こんな話し方は要注意!

 こんな話し方していませんか?

□自分がしたい話ばかりする

□少し前に聞いた話を忘れる

□「ふ~ん」と適当にあいづちを打つ

□「そうじゃなくて」と相手の話を否定する

□「私たちの頃は~」をよく口にする

□他人に判断を委ね、自分の考えを言わない

 大武さんの調査研究にも、言語能力と認知機能の関連性を裏付ける結果があった。

「たくさん話すほど語彙(使われる言葉の種類)が増えていく人は認知機能が高く、たくさん話しても語彙(ごい)が少ない人は、認知機能が低いという結果が出ています(※3)」

 語彙を増やすには、「知っていることしか話さない」という会話スタイルから改める必要がありそうだ。

※1:理化学研究所 2018年3月26日「ヒトの脳全体シミュレーションを可能にするアルゴリズム」より。

※2:75〜106才までの678人の修道女を対象にした、アルツハイマー病解明のための疫学研究「ナン・スタディ」より。

※3:出典:Abe MS, Otake-Matsuura M(2021)Scaling Laws in natural conversations among elderly people.PLoS ONE 16(2): e0246884.

感情が動くと脳も動く

 語彙を増やし、脳をまんべんなく使う会話スキルに必要なのは「話す」だけでなく「聞く」力、つまり出力と入力のスキルだという。

 大武さんが開発した認知予防のための「共想法(きょうそうほう/※4)」も、入力と出力スキルを磨くための手法だ。

「『共想法』は、複数の参加者が1つのテーマに沿って『話す』『聞く』『質問する』『答える』を等しく行うもので、最初は話したり、質問したりするのが苦手なかたも、続けるうちに脳のいろいろな場所を使いながら双方向の会話を楽しめるようになっていきます。

 語彙を増やすためには、人の話をよく聞き、知らない言葉はそのままにせず、その場で聞くか、後で調べましょう。覚えた言葉は誰かに話すなど、出力することで記憶が定着します。新しい言葉を覚えて使えるようになったとき、脳には新しい回路が生まれているはずです」

 いつも同じような会話に陥らないために、日頃から「新しいネタ」を探しておくことも重要なポイントだ。

「それには、感情が動く新しい体験をすることです。といっても、『いつもと違う料理を作る』『情報番組で見た店に行く』『ふだん着ない色の服を着る』のような日常のことで充分。自然の中に身を置き、いつもとは違うにおいや音を感じるだけでも細胞が目覚めます」

 感情が動くと脳も動き、記憶に残りやすいという。面白いと感じるものを積極的に探してみよう。

「面白そうなことが見つからないときは、幼い頃に夢中になったこと、憧れていたことを始めるのもおすすめです」

 年をとれば、ある程度忘れっぽくなるのは当たり前。それでもめげずに新しい言葉や体験をインプットし、忘れたらまた入れる。この繰り返しで「神経細胞のつながり」は確実に増え、話のネタも増えていく。気づいたら「あなたの話は楽しいわ」と言われるようになっているかもしれない。

※4:共想法は、加齢とともに低下しやすい「体験記憶」「注意分割機能」「計画力」を使うコミュニケーション法で、介護にも役立てられている。

取材・文/佐藤有栄 イラスト/☆まかりな☆

※女性セブン2025年9月25日・10月2日号
https://josei7.com

●ボケない睡眠方法とは?認知機能と眠りの関係を専門医が解説「昼寝は30分以内、寝室の環境や食生活も大切」

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