健康寿命を延ばす食生活ルール「ライ麦パン1日2枚」ほか<老化&フレイル予防が期待できる食材リスト10付き>
2022年、2023年の「厚生労働省」の資料によると女性の平均寿命は87.14才だが、健康寿命は75.45才と10才以上も異なる。人生の質を高める健康寿命は、バランスのとれた食事によって延ばせることが最新の研究で分かった。すぐ取り入れるべき新常識を解説する。
教えてくれた人
今井伸二郎さん/代謝機能研究所所長、東京工科大学名誉教授、山田陽介さん/東北大学大学院医工学研究科スポーツ健康科学教授、樋口満さん/早稲田大学スポーツ科学学術院名誉教授
長寿の遺伝子とも呼ばれる「サーチュイン遺伝子」
健康寿命とは、病気で寝たきりになることなく命をまっとうできることをいう。人生の質を左右する健康寿命は、60才以降も延ばせるのだろうか?代謝機能研究所所長の今井伸二郎さんが説明する。
「科学的に寿命は、テロメアの長さによって決められると考えられています。テロメアは細胞の核の中にある染色体の末端にあり、細胞分裂のたびに短くなることが知られています。テロメアの長さは細胞の寿命を表し、老化により短くなると体の機能が衰え、がんや動脈硬化などの病気にかかりやすくなる。いくつもの研究で、テロメアの長さは生活習慣を見直すことで復活することが明らかになっています」(今井さん・以下同)
テロメアの長さを復活させる鍵となるのが、長寿の遺伝子とも呼ばれる「サーチュイン遺伝子」の存在だ。
「サーチュイン遺伝子が活性化し増加すると、テロメアの長さが伸び、メタボリックシンドロームや認知症の予防にもつながるといわれています。そして、バランスのとれた食事によって活性化します」
では、具体的に何をどう改善すべきなのか?
<食事編> 年を取るほどたんぱく質を意識し、フレイル予防を
【ルール1】糖質制限はしない
代謝機能研究所所長の今井伸二郎さんは、「糖質制限は摂取カロリーの減少につながり、サーチュイン遺伝子の活性化を誘導するため寿命が延びるとされますが、欠点も多い(※1)」と指摘する。
「果物や全粒穀物、豆類など糖質の多い食べ物には、食物繊維やビタミン、ミネラル、抗酸化物質などが豊富ですが、糖質制限をするとこれらの供給が減少します。特に食物繊維は消化を促し、血糖値をコントロールする役割があるため、不足すると消化器系の健康が損なわれます。糖質制限は結果的に脂質過多になり、免疫力低下やがん発症のリスクを上昇させます」(今井さん・以下同)
※1出典:2020年ハーバード大学医学部研究発表による
【ルール2】ライ麦パンを1日2枚食べる
穀物の中で、優れた働きが認められているのがライ麦だ。
「アルキルレゾルシノールという成分が含まれており、サーチュイン遺伝子の発現を促進する働きがあります。私が行った実験(※2)で、ショウジョウバエにアルキルレゾルシノールを混ぜた餌を与えたところ、平均寿命が10日間延びました。人間に換算すると10〜15年程度に匹敵します。アルキルレゾルシノールはライ麦パンを1日2枚程度食べると充分な効果を発揮することが期待できます(※3)」
※2、3出典:2017年東京工科大学 今井伸二郎応用生物学教授、山梨学院短期大学食物栄養科の萱嶋泰成准教授ら共同研究による
【ルール3】ザクロジュースを1日1杯飲む
サーチュイン遺伝子の活性化にはザクロも有効だ。
「ザクロにはエラグ酸やプニカラギンなど複数のサーチュイン遺伝子を活性化させる成分が含まれています。市販されているザクロジュースにも100mlあたり30ml程度のエラグ酸が含まれているので、1日1杯程度飲むことで充分な健康効果が期待できます(※4)」
※4出典:ザクロ由来ポリフェノールの抗老化機能とその分子基盤に関する研究/著者:趙冲、片倉喜範
【ルール4】コーヒーを飲んでサルコペニア予防を
「筋トレなどの運動を週2〜3回しながら、1日の中で2杯以上のコーヒーを飲むとサルコペニアの発現頻度が低いことがわかっている(※5)」と言うのは早稲田大学スポーツ科学学術院名誉教授の樋口満さん。
「コーヒーに含まれる成分は筋肉の合成を促すとともに、たんぱく質の分解を抑制すると考えられています。コーヒーはいつ飲んでも効果は同じのようですが、カフェインが含まれており、睡眠にも影響が出るので夕方は避けた方がいいでしょう」(樋口さん・以下同)
※5出典:Kawakami et al.:Br.J.Nutr.,2022
【ルール5】豆類とウオーキングで骨密度を守る
骨粗しょう症予防には、カルシウム以外にイソフラボンが効果的(※6)だ。
「女性ホルモンと似た働きをする『イソフラボン』は、閉経後の女性の味方になる成分ですが、ウオーキングと併せて摂ることで骨密度低下に大きな抑制効果があることが明らかになっています。朝食に豆乳や納豆をプラスするだけでも効果は期待できます」
※6出典:ウォーキングと大豆イソフラボン摂取の併用による骨密度と体脂肪量の改善効果 出典:石見佳子:ビタミン、2016
【ルール6】65才を過ぎたら、たんぱく質を多めに
65才以上は筋肉の合成が衰えるため、たんぱく質を多く摂る必要がある(※7)。
「1食あたり青魚1尾、牛乳ならコップ1杯程度、卵1個などを朝昼晩の食事でバランスよく取り入れましょう」(東北大学教授の山田陽介さん)
※7出典:2014年南カリフォルニア大学 ヴァルター・ロンゴ博士ら国際研究による
【ルール7】健康寿命を延ばす効果が期待できる食材10
<1>ライ麦
「アルキルレゾルシノールが、長寿遺伝子であるサーチュイン遺伝子を活性化します」(今井さん・以下同)
<2>ザクロ
「ザクロに含まれるエラグ酸が、腸内細菌によってウロリチンAに変換され、サーチュイン遺伝子の活性化を促します」
<3>食用菊
「ビタミンやミネラルが豊富に含まれており、抗酸化作用や解毒作用、体調を整える効果が期待できます」
<4>ブロッコリー
「ビタミンC、ビタミンK、ビタミンE、β-カロテン、食物繊維などさまざまな栄養素を豊富に含み、抗酸化作用があります」(山田さん)
<5>カカオ
「ポリフェノールや脂肪酸トリプタミドといった成分が、抗酸化作用やサーチュイン遺伝子を活性化する働きがあります」(今井さん)
<6>さば
「DHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸が脳の機能活性化に役立つ。ビタミンDやビタミンEは骨粗しょう症予防に」(山田さん・以下同)
<7>緑茶
「緑茶に含まれるカテキンやテアニンなどの成分には抗酸化作用があり、老化予防の効果が期待できます」
<8>トマト
「リコピンやカリウム、ビタミンCなどの栄養素が豊富で、抗酸化作用や生活習慣病予防が期待できます」
<9>ナチュラルチーズ
「たんぱく質と乳酸菌を含み、腸内環境の改善効果がある。カルシウムやビタミンB群が豊富で骨粗しょう症予防も期待できます」
<10>豆腐・豆類
「大豆は良質なたんぱく質や食物繊維、ビタミンE、イソフラボンなどが含まれ、フレイル予防も期待できます。ウオーキングにプラスして」(樋口さん)
取材・文/廉屋友美乃 イラスト/藤井昌子 写真/PIXTA
※女性セブン2025年7月24日号
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