《血管・心臓のエキスパートである医師が解説》血管をしなやかにするには“息が上がらない程度”の軽い運動「ストレッチや軽いウォーキング」
「血管の壁そのものをしなやかにする薬は、今のところ存在しません」──血管・心臓のエキスパートとして国際的に活躍する医師・高橋亮氏は、そう断言する。
血管が完全に硬くなってしまうと、どんな名医でも元に戻せない。しかし、その一歩手前なら、まだ間に合う。「打つ手ナシ」と見放された患者の血管をよみがえらせた実績を持つ高橋氏によれば、筋肉を伸ばすとNO(エヌオー=一酸化窒素)という血管を広げる物質が発生し、血管がしなやかさを取り戻すという──。
高橋氏が、血管を広げるメカニズムを解説し、スマホやテレビを見ながら、椅子に座ったままでできる方法をまとめた『血管の名医が薬よりも頼りにしている狭くなった血管を広げるずぼらストレッチ』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成してお届けする。
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一度固まれば戻らない──血管の残酷な真実
血管というのは、ただのチューブのようですが、その実態はとても繊細です。
外科医として長年手術をしていると、血管の状態がその人の生活や年齢を物語っていることを痛感します。
若い人の血管はやわらかくてぷるぷるですが、生活習慣が乱れている人の血管はまるで別物です。
場合によっては針が通らないほど硬くなっていることもあります。
そうした血管を前にすると、医師としての限界を感じます。
どんなに腕の立つ外科医でも、石のように固くなった血管を元の状態に戻すことはできないのです。
血管が硬くなる原因はさまざまですが、そのステップには2段階があります。
第1段階が、血管の壁が厚くなり、弾力を失う「動脈硬化」。
第2段階が、カルシウムが沈着して石灰化してしまう「血管の石灰化」です。
前者の動脈硬化は、取り返しがつく段階です。生活習慣の改善や運動で、ある程度は柔軟性を取り戻せることもある。
しかし、後者──「石灰化」が始まってしまうと、話は別です。
血管がまるで陶器のように硬くなり、縫っても裂け、針を通しても割れてしまう。まさに「元には戻らない」状態です。
血管の硬化の背景には「炎症」があります。
炎症というと、熱が出たり、腫れたりすることを思い浮かべますが、血管の中で起きているのは、目に見えない“小さな火事”のようなものです。
本来、血管はぷるぷるとしたやわらかさを持ち、流れてくる血液の衝撃をしなやかに吸収しています。ところが、この小さな火事が長く続くと、血管は次第に傷つき、やがて弾力を失っていくのです。
脂っこい食事、ストレス、喫煙、睡眠不足──こうした生活習慣が続くと、血管の内側に細かな刺激が常に加わり、内皮が傷つきやすくなります。
その傷を修復しようとして、体はせっせと材料(脂質やカルシウム)を運びこみます。ところが、火を消さないまま修理を続けるようなもので、修復が終わらないうちにまた炎症が起き、さらに厚みを増していくのです。
この“慢性的な小さな火事”こそが、血管を少しずつ硬くしていきます。
プラークが付着する場所では、いつもその火がくすぶっています。
やがて脂質やカルシウムが何層にも重なり、石のような壁を作ってしまう。これが血管の石灰化であり、「炎症の痕跡」が固まった状態なのです。
私は手術中に血管を開いた時、内側がまるで木の年輪のように層をなしているのを見たことがあります。
これはまさに長年の生活の履歴そのもの。毎日の食事、運動不足、ストレス、喫煙──そのすべてが血管の「年輪」になるのです。
また、動脈硬化が起こってもある程度までは柔軟性を取り戻せる、とお伝えしてきましたが、これにもひとつ大切なポイントがあります。
