花はなぜ介護する人にもされる人にもいい効果をもたらすのか?研究者が解説する花による癒やしとストレス低減効果
介護の現場で近年注目されている「花」。介護する人にもされる人にもさまざまな効果をもたらす。花を見ると癒されると感じるのは、気のせいやイメージではなく、脳の動きに裏付けられた現象だという。農研機構で花と人間の心理・生理反応を研究している望月寛子さんが、花がもたらす癒やしの効果について教えてくれた。
教えてくれた人
望月寛子(もちづき・ひろこ)さん/国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 食品健康機能研究領域健康・感覚機能グループ グループ長補佐。東京大学大学院総合文化研究科 生命環境科学系修了・博士。心理学・脳科学・農学と複数の分野にかかわりながら、豊かな生活の実現を目指して研究を行う。
花を見ると脳はどう変わるのか
望月さんは、花がもたらすのは脳の緊張をゆるめる環境刺激だと語る。介護の現場に置かれたとき、その作用は受け身になりがちな高齢者だけでなく、支える側のストレスケアにもつながるという。
花の癒しの正体は「脳の反応」
私たちは花を見ると「かわいい」「きれい」「落ち着く」と言葉で表現する。だが望月さんはその奥で起きている見えない変化に注目してきた。その鍵になるのが、脳の中にある扁桃体(へんとうたい)という部分だ。
「扁桃体は、恐怖や不安などのネガティブな感情に反応する場所です。例えば、虫の写真や事故の映像など不快刺激を見ると、ここが強く反応し、血圧やストレスホルモンが上昇します」
しかし実験では、その不快刺激のあとに花の写真を見るだけで扁桃体の反応が目に見えて下がったという。望月さんの研究によると、花にはネガティブに傾いた脳のバランスを整え、血圧をスムーズに下げる働きがあるそうだ。
「花を見る前の状態と比べると、扁桃体の反応が低くなるんです。不快な気持ちをゼロに戻すというより、落ち着いた状態に戻すという表現のほうが近いですね」
生花だからこそ期待できる癒しの効果
では、なぜ花を眺めるだけで癒し効果があるのか。
「例えば、仕事で自分のミスではないのに怒られたとします。そういった納得できないことが起きたとき、帰宅しても思い出してイライラする経験がありますよね。このように、人間は目の前にストレス要因がなくても、思い出すことで血圧が上昇することがあります。脳のメカニズムで、注意がネガティブな方向に向きがちなんです。ネガティブな対象に注意が向くと、扁桃体の活動量が増加し、血圧も上昇します」
花はそういったネガティブな気持ちから、注意を散らしてくれるのだという。
「そこに花がある、昨日とは少し咲き方が違う、香りがある。すると、脳は花に注意を向けます。ディストラクション効果というのですが、嫌なことに注意が向きがちなときに、花に注意が向くことで嫌なことが頭の中から薄れて、同時に血圧も下がるんです」
花の癒し効果というのは、このように注意をコントロールしてくれる効果によるものだ。造花やドライフラワーもいいが、変化のある生花だからこそより高い効果が期待できる。
花は介護する側のストレスも和らげる
こういった脳の反応は、介護現場では、介護される側だけでなく、する側にも効果があると考えられるという。
「介護の現場にいる方は、世話をする場面で疲れたり、うまくいかないことがあってストレスが溜まり、血圧が上がることがあるでしょう。すると先ほどの通り、介護から離れた場面でも、血圧が高い状態が続くことがあります。
そういった後々にも続いてしまうような高い血圧も、花の癒やしがその上昇を抑えてくれるかもしれません。血圧の安定化の効果というのもデータで示されています」
実験では、不快刺激の後に花を見ることで、血圧がなだらかに下がることが確認されているという。
「下がるだけではなく、再び上がりにくい状態になるんです。つまり、花はストレスからの回復を手助けし、その後の揺らぎを防ぐような働きをすることが期待できます」
取材・文/イワイユウ
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