93歳の心療内科医が語る、病気を治す“漢方の知恵”「体に合う薬を選ぶ」ことはなぜ大事なのか
16万部を超えるベストセラー『ほどよく忘れて生きていく』(サンマーク出版)の著者、93歳の心療内科医・藤井英子医師は、漢方の知恵をこう語る。「同じ風邪でも、違う薬を。違う症状でも、同じ薬を」──。安易な選択ではなく、自分に合った薬とどう出会うか。最新刊『ほどよく孤独に生きてみる』(同)より一部抜粋、再構成してそのメッセージをお届けする。
教えてくれた人
心療内科医・藤井英子さん
漢方心療内科藤井医院院長。医学博士。現在も週6で勤務する93歳の現役医師で、精神科医、漢方専門医。1931年京都市生まれ。京都府立医科大学卒業後、同大学院4年修了。産婦人科医として勤めはじめる。結婚後、5人目の出産を機に医師を辞め専業主婦に。育児に専念する傍ら、通信課程で女子栄養大学の栄養学、また慶應義塾大学文学部の心理学を学ぶ。計7人の子どもを育てながら、1983年51歳のときに一念発起しふたたび医師の道へ。脳神経学への興味から母校の精神医学教室に入局。その後、医療法人三幸会第二北山病院で精神科医として勤務後、医療法人三幸会うずまさクリニックの院長に。漢方薬に関心を持ち、漢方専門医としても現場に立ってきた。89歳でクリニックを退職後、「漢方心療内科藤井医院」を開院。初めての著書『ほどよく忘れて生きていく』(サンマーク出版)は世代を超えて大反響を呼び、ベストセラーとなる。
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「同病異治」と「異病同治」
<漢方は同病異治であり、異病同治でもあります。患者さんの体質に合う薬を見つけ出していくのが私の仕事です。>
漢方医学には、同病異治、異病同治と言う考え方があります。
西洋薬は、基本的にひとつの症状に対してひとつの薬を処方するのですが、漢方薬は違います。同病異治とは、同じ症状でも違う処方で治療するという意味で、異病同治というのは、違う症状でも同じ薬で治療するという意味です。
たとえば、同じ風邪でも、漢方薬の場合は、体力のある患者さんには葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)などを処方しますが、虚弱体質の患者さんには、香蘇散(こうそさん)や桂枝湯(けいしとう)などを処方します。これが、同病異治です。
逆に、風邪薬として処方される葛根湯は、肩こりや中耳炎などにも処方されますし、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、不妊症の女性や、頭痛、冷え性などにも処方されます。これが、異病同治です。
なぜこのようなことが起きるのかというと、表面に現れている症状ではなく、患者さんの体質や体力、症状の現れ方を総合的に判断する「証(しょう)」を診ているからです。
体質や病気の進行状態を判断する「陰陽」、体力の充実度や抵抗力を判断する「虚実」、体内の気と血、水の流れ「気血水」を総合的に判断し、必要な漢方薬を処方しています。
現在、ドラッグストアなどでも気軽に漢方薬が手に入りますが、自分の証に合わない漢方薬を飲んでも効果がないということもよくあります。
「自分に合う」ってどういうこと?
<漢方薬も人生も、自分に合わないものでは、よくなりません。誰かを改善した方法が、自分にも合うかどうかはわかりません。>
最近は、ドラッグストアでも漢方薬が気軽に買えるようになりました。
女性の不調に効果的、イライラするときに、など効能が書いてありますが、自分の体質や現在心身に出ている症状を見極めないまま、なんとなく飲んでも効果がないこともよくありますし、自然の生薬とはいえ薬ですから、からだに負担になることもあります。
以前、ダイエット目的の女性が診察にいらして、「友人が、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)という漢方薬を飲んですごく痩せたので、私もそれを飲みたいです」とおっしゃられました。防風通聖散は比較的ふくよかな体型の方に向くお薬ですが、その方は、胃腸が弱くて疲れやすい虚弱体質でしたから、薬が合わないとお伝えしました。
確かにダイエットにも漢方薬は効果を発揮しますが、それは、漢方薬が体質を改善していくからです。代謝が悪くエネルギーの消費がうまくいかないことで太りやすくなったりするところを改善していきます。むくみや便秘、過食、肩こり、疲れやすさなどが同時に改善されることもあり、有効ですが、それも、やはり、体質に合ったものを選んでこそ効果があるのです。
自分に合うものを選んでいくことが大切です。これは、人生全般にも言えることかもしれません。誰かにとってよかったものが、自分や自分の人生によいものとは限りません。必要なものを見極めて、自分で選択していくことを意識してほしいと思います。