世界最高齢102歳の現役薬剤師・幡本圭左さん「私にとって、仕事は生き甲斐」「自分がやってることに誇りを持っていれば、人生損はない」
102歳になった今も現役の薬剤師として薬局の店頭に立つ女性がいる。3年前に世界最高齢の薬剤師としてギネスブックに認定された、幡本圭左(はたもと・けさ)さんがその人だ。昭和27年に区内に「安全薬局」を開業し、現在も週に6日働く幡本さんは「私にとって、仕事は生き甲斐」と笑顔で語る。幡本さんに仕事に対する信念を聞いた。
100歳を超えて2度目の認定をもらう
――ギネスブックに認定された時のお気持ちを教えてください。
幡本さん:孫が「薬剤師で90いくつの人がギネスに載ってるんだけど、おばあちゃん知ってる?」って言うから、なんかちょっと聞いたことあるけれど、ぐらいでした。
でね、「おばあちゃんの方が年上だから申請してみるよ」って。それで、「じゃあ1回やってみようか」って言って申請したのが、初めて認定された99歳と292日の第1号のとき。
恥ずかしいから認定書を調剤室に置いたんですね。そしたら「見せて」っていうお客様もいて、それで表に出したの。
そしたらね、「100歳を超したことでパンチが効くから、もう1回やんなさいよ」って知人に言われて、2回目の認定をいただきました。
――認定証はどうやって届いたのですか?
幡本さん:2回目は、額もついてきて、会社の人がわざわざうちまで届けてくださり、おめでとうって言われました(笑い)。
それはね、100歳超えたからだと思う。国内だけじゃなくて、海外からも取材申し込みがあってね。お断りしていたら相手が「差別するのか」って怒ってしまったとお友達に話したら、「あなた、ギネスということは世界一っていうことなのよ。そう言われるのは当たり前のこと」って。
私、当たり前だと思わなかったの。「あら、えらいことになっちゃった」って言ったら、笑ってましたけど。
自分はそんなに、世界一になるような実力があるわけじゃないし、世界一の素晴らしい店ではないし、いろんなことで私には不似合いだと思って。家族は「おおおばあちゃんおめでとう」と言ってくれました。たけど、本人は、「もったいない、申し訳ない」と思っています。
趣味をやってる暇がない
――趣味とか休日の過ごし方は?
幡本さん:趣味やってる暇がない。世の中が変わっていて、病気も変わっていて、なんだか知らないいろんなことが起きて、私の頭ではついていかれない。だから、仕事に必要な本、資料を読むことに忙しい。新聞はほとんど夜に読みます。
朝は7時頃に起きて、7時半ぐらいから家族3人でゆっくりテレビを見たりしながら食事をして。その後、ゆっくり9時半までお話をして過ごします。一日で一番ゆったりとした時間です。
休日は残った仕事、私事の片付けなど。でも、時にはひ孫たちが遊びに来ますので、楽しい一日を過ごします。
――人生で最も困難だった時期は?
幡本さん:戦争中ですね。私ね、天命があると思っています。機銃掃射にあって、死に損なったこともあって。「この仕事をして、頑張んなさい」っていう天命があってこうなったと思います。
職業に貴賎はない
――102年生きてきて、若い頃と今で気持ちの変化や価値観の違いはありますか?
幡本さん:それは大いにあるけれど、よくわからない。私化石みたいで。でも、不思議なことに、お付き合いさせていただいてる方、みんないい人ばっかりなのね。こうやってお付き合いさせてもらってる方、皆々様ありがとうなの。
――人生の中で最も感謝していること、誇らしいことは?
幡本さん:この仕事は、友達の連帯保証人になってしまった主人の失敗がきっかけだったけれど、そのおかげで私はこういう仕事ができてるわけでしょ。それはすごい。もし、あの世で会えることがあったらば、お父さんありがとう、と言いたいです。
――より良く生きるためのアドバイスをください。
幡本さん:職業に貴賤はないし、自分がやってることに誇りを持っていれば、年を取ってからでも、あんなことをして面白くなかったとかっていうことはないと思います。
必ず一つの仕事をしなくてはいけないのではない。自分が決めていちばん良かったことをして、もしもそれが良くなかったとしても、それは何かの知識になっているんですね。人生損はないと思います。
◆幡本圭左
はたもと・けさ/大正11年9月18日、長野県生まれ。昭和17年、東京薬学専門学校女子部(現・東京薬科大学)を卒業。結婚後、昭和27年に区内に「安全薬局」を開業し、現在も週に6日働く。令和4年、世界最高齢の薬剤師としてギネスブックに認定。
写真/小山志麻 取材/小山内麗香 文/高山美穂