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世界最高齢102歳の現役薬剤師・幡本圭左さんインタビュー、薬局を開業したきっかけは夫が知人の連帯保証人になったこと「“失敗”によって道が開けた」

 人生100年時代を迎え、年を重ねても元気に働く高齢者が増えている。現在102歳、幡本圭左(はたもと・けさ)さんもそのひとりだ。幡本さんは、世界最高齢の薬剤師として3年前にギネスブックに認定された。昭和27年に東京都内に「安全薬局」を開業し、現在も週に6日働く幡本さんに、薬剤師歴70年を超えるこれまでの話を聞いた。

父親のすすめで薬剤師になることを決断

――30歳からずっと薬剤師をされていますが、薬剤師としてのキャリアを選んだ理由は何ですか?

幡本さん:私は師範学校に行って、学校の先生になりたかった。それで父親に相談したらね、「僕は薬剤師のほうがいいと思う。死ぬまでお免状がついて回って、何かの時に役に立つよ」って。

 私は父親を絶対に信頼してましてね。父の言うことは間違いないと信じておりました。じゃあそうしましょうって一発で決めました。

 薬剤師の国家試験に通って、化学工場の分析室というところで働きました。戦争が始まって、男性もどんどん兵隊に行っちゃって。薬剤師だからいろいろな仕事も任されて、夢中で過ごしました。

――戦時中、大変なお仕事をされていたんですね。

幡本さん:下町が焼けて、だいぶ皆さん亡くなったでしょう。焼夷弾がざーって降ってきて。下町の人たちが、すごくたくさん死んだのよね。怖いと思いました。

 自分には使命があると思って仕事に行っていました。下町では死んでる人を見たし、隅田川で死んでる子供たちもたくさん見た。もう目つぶって通っていました。

 私が薬剤師になって何か月もしないうちに父が亡くなって、弟は兵隊に行っちゃって、私は母親と妹と、長野県の知り合いのお宅に疎開して。同じような化学工場があって、そこで働くことになりました。

戦後、夫が連帯保証人になり商売を続けられなくなり…薬局の開業へ

――そこからどのようにして「安全薬局」を開業されたのですか?

幡本さん:お勤めしていた時に終戦になって、その頃に知り合った主人と24歳で結婚して。東京に来て暮らしていて、ちょっとした商売をしていたんです。

 その頃、主人も私もすごく信頼していたお友達の連帯保証人に主人がなって……。そしたらその人が商売を続けられなくなって、結局、私たちが商売してた家が取り上げられて……。

 自分たちの小さな家が別にあったので、私たちはそこへ移って、持ってるお金で暮らしてたんです。

 終戦後だから、そんなに贅沢にどっかへ遊びに行くとか、そういうこともないけれど、普通にゆったりと時間が過ごせたのね。お琴のお稽古に行ったり、子供の幼稚園の送り迎えしたり。今考えると、人生で一番豊かな時間でした。

 薬剤師であることを忘れて、主人がなんとかしてくれるだろうと思っていました。1年ぐらいたって、主人が「友達に『あなたの奥さん、薬剤師だろ、薬局をやったらどうだ?』って言われたんだけど、きみ、やる?」って言われて。私は「やりましょう」って。

 今考えると、主人が失敗したおかげで、私の生まれながら持っていた天命というか、そういうものの道が開けたわけね。主人とそれじゃあ薬屋さんをやりましょうっていうことで。土地と家は見つかった。

 それから、ここにいい問屋さんがあるわよとか、こういう商品を扱った方がいいわよとか、応援してくださる先輩、友人、取引先などのかたに助けられました。それで、70年以上ずっとここです。

先輩たちの助言で漢方を取り扱うことに

――安全薬局と命名したのはどなたですか?

幡本さん:主人の父親が自転車の問屋さんをやってたんです。「安全自転車」って。とってもいいよねってことで、一発で決めました。

――70年以上薬剤師として過ごしてきた中で、やりがいや印象深いエピソードを教えてください。

幡本さん:お店始めたころはね、物品販売業が中心。「風邪薬をください」って言ったら、症状を聞いて、「じゃあ鼻水が出たらこっちね、頭が痛くて喉が痛いならこっちね」ぐらいの商売をしていて、少し雑貨も置いてたのね。

 それを何年かやっていましたけれど、今はもう漢方専門店になりました。どうして漢方になったかっていうと、先輩が「これからは漢方薬の時代よ。だから今からお勉強しといた方がいいわよ」って言ってくださって。それから漢方薬の勉強をしました。そのうえ、先輩が東京で1、2っていう漢方の問屋さんを紹介してくれてね。

漢方薬は1人1人に合ったものを差し上げたい

――圭左さんは長いと2時間もお客さんの相談にのることもあるそうですが、そういうところで地元に愛されている?

幡本さん:年月の積み重ねでだんだんそうなった。雑貨をやめることになり、その分の売り上げは少なくなるわね。それでも勉強する時間ができた。

 それはね、1人1人に合ったものを差し上げたいから。私が病気を治してあげるんじゃなくてね、どうしてそうなったかっていうことを追求する。たとえば、簡単なことだったら、血液の巡りが悪いとか、血液の質が悪いとか、食事が悪いとか、日常生活だったりとか、遺伝的なものとか。そういうものを差し支えてない程度に全部お聞きしていたら、時間かかる。2時間かかっちゃう。もちろん、慢性の病気だったら、医者にきちんとかかりなさいって。専門のドクターに診てもらいなさいって。

◆幡本圭左
はたもと・けさ/大正11年9月18日、長野県生まれ。昭和17年、東京薬学専門学校女子部(現・東京薬科大学)を卒業。結婚後、昭和27年に区内に「安全薬局」を開業し、現在も週に6日働く。令和4年、世界最高齢の薬剤師としてギネスブックに認定。

写真/小山志麻 取材/小山内麗香 文/高山美穂

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