倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.66「闘病中の夫が一番苦しんだ”痛み”」
漫画家の倉田真由美さんの夫、映画プロデューサーの叶井俊太郎(享年56)さんが、すい臓がんにより自宅で静かに息を引き取ってから明日でちょうど1年。叶井さんが「家で死にたい」と考えるきっかけになったのは、昨夏から秋にかけて1か月ほどの入院期間に味わった、度重なる手術、そして激しい痛みだった。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
再手術が成功したと思った矢先
2023年9月12日、外に胆汁を排出している管を体内に入れる、今回の入院中最後の手術になるはずだったこの日の15時半頃、「手術に失敗した」という夫からの電話がありました。
「まだ管はついたまま。めちゃくちゃ痛い」
前日まで元気で近いうちに家族旅行に行こうなんて話していたので、急激な変化に仰天しました。兎にも角にも、大急ぎで夫のもとに向かいました。
ベッドでぐったりしている夫に触れるととても熱く、熱を測ったら39.6度もありました。朦朧とする中、「コーラが飲みたい」と言うので売店に買いに行き、コップに移して夫の頭を支えて飲ませました。
「あー、美味しい」
冷たいコーラを少し飲んだ夫は目を閉じ、震えながら言いました。これほど苦しそうで状態が悪い夫を見るのは、この時点までで初めてでした。
「ママがいなかったら死んでたよ」
いつになく弱気な夫。「まだまだ死なないよ」と励ましますが、内心は不安でいっぱいです。じりじりしながら医師の回診を待ちます。
しばらくして主治医のF先生が来ました。
「手術はうまくいきませんでした。昨日までより状態は悪化しています」
F先生はこの失敗した手術の執刀医ではありませんが、状況を説明してくれました。古いステントが新しいステントと体内で絡んでしまい、新しいステントも位置がズレてしまっているそうです。そのため胆汁が体内で漏れて炎症を起こし、発熱していると。
「再手術ですか?」
私が聞くと、「時期は未定ですが」とF先生は頷きました。
こうなったら一刻も早く今の状態を改善する再手術をしてもらいたいのですが、患者は夫だけではないので日程調整は簡単ではないのでしょう。そして再手術が上手くいくかどうかもわかりません。
「かなり難しい手術」というのは聞いていたので、途方に暮れる思いでした。私はただ「なんとか早く再手術をしてあげてください」とだけお願いしておきました。
痛くて痛くて…
医師が部屋を出ていき、夫と二人きりになりました。「トイレ」と言うので身体を起こすのを手伝い、支えながら部屋を出ました。
振動でますます痛むようで、夫はよちよちとゆっくり歩を進めます。
トイレから戻り、夫にねだられ冷えた小さなみかんを一つ、一房ずつ口に入れてあげました。夫は美味しそうに完食しました。しばらく目を閉じているので寝たのかと思ったら、「痛くて眠れない」と。私はどうしてあげることもできません。18時頃、後ろ髪を引かれながら私は病室を出て自宅に戻りました。
その1時間後、
「痛くて痛くてもう死にたい!飛び降りるために今、10階に向かってる」
という夫からの電話がありました。
(つづく)
倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」を1話から読む
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。