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暮らし

最期を自宅で迎えるための準備や心構え「24時間以内の通報ルールは過去の話」医師に聞く在宅医療と看取りの最新事情

「最期まで自宅で暮らしたい」「住み慣れた我が家で看取ってほしい」。介護が始まるといずれは直面する最期のことが気になるという人も多いのではないだろうか。自宅で最期を迎えるためは、どんな準備が必要なのか。介護を検討する際に一緒に知っておきたい「在宅医療」、そして「在宅看取り」について専門医に伺った。

教えてくれた人

医療法人社団「貞栄会」理事長 医学博士 内田貞輔さん

2015年32才の若さで静岡市に静岡ホームクリニックを開院。翌年、医療法人社団「貞栄会」を設立し理事長に就任し、東京・千葉・名古屋・横浜にもクリニックを開設。「動く総合病院」という独自のコンセプトを掲げ、看取りを重視した質の高い医療の提供に尽力している。動画配信、ラジオ出演、ブログなどを通して、在宅医療の普及活動にも取り組んでいる。著書『家族のための在宅医療読本』(幻冬舎メディアコンサルティング)など。https://teieikai.com/

最期まで自宅で過ごすために準備すべきこと

 90代の母を介護する記者は、訪問診療や訪問看護を活用し、在宅医療を受け始めている。

「最期まで自宅で暮らしたい」と願う母のために、在宅医療についてより詳しく知っておきたいと思い、『家族のための在宅医療読本』などの著書がある医師の内田貞輔さんに、「在宅医療」、そして「看取り」についてについてお話を伺った。

在宅医療の現場ではさまざまなことが起こる

「高齢者の場合、誤嚥による肺炎から入退院を繰り返されるかたもいらっしゃいますが、そういうかたには在宅医療をおすすめしたいです。

 在宅医療とは、ご自宅や入居されている施設などで、病院のように診察・治療を受けられること。必要があれば、医師が毎日訪問して、自宅で病院に入院しているのと同等な診療や治療を提供することもできます。

 病院に入院していると、毎日のように医師や看護師がベッドに来て、体の状態のチェックや診察、薬の処方もしてもらえますよね。大きな検査や手術以外はご自宅にいながらできるわけです」(内田さん、以下同)

 在宅医療は、医療保険(健康保険)対応となる。費用は月2回で約7000円(1割負担の場合)が目安となる。終末期など毎日利用したとしても、高額療養費制度で自己負担分を抑えることもできる。

→「90代の母の通院介助が大変」<在宅医療>にいつから切り替えるべき?活用法を専門医に直撃

 自宅でも病院と同じように、毎日訪問して入院時と同等の医療を提供してくれるというのは家族としてもありがたい。

「医療の提供とともに、患者さんの暮らしをチェックし、生活支援も実施しています。つまり、病気だけではなく生活まで診させていただきます。我々が提供している在宅医療は、ある意味、病院での入院以上のケアを実践しているので、我々は『在宅入院』と呼んでいます。

 医療が必要なご本人とご家族が、安心してご自宅で過ごすためのサポートもしているのです」

在宅での看取りを支える在宅医

「在宅での看取りという方針を決めた後でも、ご家族は不安や緊張が高まるものです。

 当クリニックでは、患者さんの終末期、看取りの段階に入った場合には、原則毎日訪問させていただきます。

 医療行為はせずに、ご本人やご家族に寄り添ってお話を聞くだけのときもあります。医師や看護師がそばにいるというだけで、ご本人やご家族の不安な気持ちをやわらげることができればと思っているのです。

 私たち医療従事者と違って、看取りというものは、ご家族にとっては初めて向き合う場合もありますよね。懸命に介護された先のことなので、精神的な負担は大きいと思います。

 1970年代から自宅ではなく病院で看取る比率が高まり、家族をご自宅で看取る経験をされているかたも少なくなりました。そのため、自宅で看取りたいと思っても、情報はまだまだ少なく、誰に相談したらいいかわからないということもありますよね」

 なお、内田さんの静岡ホームクリニックでは、年間の患者数は1000人を超えるが、そのうち看取り率は8割前後。看取り率とは、「患者が望む場所で最期を迎えられたか」を数値化したもので、一般的に、平均55%とされている。

「終末期を病院ではなく自宅で過ごしたいかたは、慣れ親しんだ家に帰りたいだけではなく、家庭とか社会の和に戻りたいと感じていらっしゃると思います。在宅医療を活用していただくことで、ご本人の希望を叶えて差し上げることができるのです」

看取りの実例「在宅療養をしていた要介護5の男性」

 糖尿病だった70代の男性が、脳出血により寝たきりになってしまい、在宅医療を選択され、高齢の奥様と近くに住んでいる長女一家が、協力して介護やサポートをされていました。

 この男性は、ほぼ寝たきりではありましたが、頭ははっきりされていました。そこで、お孫さんが下校途中に立ち寄って、顔を見せるようになりました。『毎日小学生のお孫さんの音読を聞いてあげる』という役割ができ、笑顔になられていました。

 このかたは、在宅でお看取りをされ、もちろんお孫さんも付き添われていました。

 亡くなった後、お孫さんが看取りの経験を作文に書かれ、私たちも読ませていただきました。

『人が亡くなる瞬間に立ち会って怖かったけれども、おばあちゃんが励ましてくれて心強かったこと。これからは遺されたおばあちゃんのそばにいて励ましてあげたい』などの内容が書かれていました。お孫さんも看取りの経験を通してさまざまことを学ばれたようです。

 この作文に書かれていた言葉は、我々在宅医療チームにとって宝物になりました」

 内田さんたちは、遺された家族に寄り添うグリーフケアも行っているとのこと。グリーフとは、身近な人を亡くしたときなどに陥る喪失による悲しみのこと。

「ご遺族が精神的・身体的にダメージを受けられていた場合、必要に応じてご自宅に伺い寄り添いお話を聞くというケアをさせていただきます」

在宅での看取りで注意すべきこと

「ご自宅で看取る場合、昔は『24時間ルール』というものがありました。これは亡くなったかたを医師が24時間以内に診察していなければ、警察に報告するというルールです。

 ケースによっては、事件性の確認のため検死になってしまうこともありました。

 しかし、最近では、在宅医療を受けていて、亡くなった原因がその病の延長上にある、または老衰などの判断ができれば、事件性は問われないことがほとんどです。

 虐待の可能性があるなど事件性がある場合はもちろん通報が必要ですが、医師が診療していた場合には、自然死や病死という扱いになり検死などはされません」

 在宅医療クリニックによっては、24時間対応や看取りをうたっていても、実際にしっかり対応できていないケースもあると聞く。良いクリニックを見極めるにはどうすればいいのだろうか。

「クリニックの経験値や評判をチェックしてください。在宅医療は医療機関と患者様の家の距離が半径16キロメートルの地域での診療と決まっています。ですので、ケアマネジャーさんや訪問介護さんなど、地域の評判を聞いてみるといいと思います」

***

「大好きなこの家で最期を迎えたい」という母の希望を叶えるために、今後の指針となる貴重なお話を伺うことができた。

写真提供/医療法人社団 貞栄会 取材・文/本上夕貴

●新田恵利さんが明かす母の介護と看取り「フルマラソンを走りきった充実感」後悔しない最期の迎え方

●“看取り士”という職業 今、求められる「旅立つ人とその家族が温かい最期を迎えるために寄り添う」人たち

●プロが教える在宅介護のヒント 在宅医・鈴木央さん<第1回>

 

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