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倉田真由美さん「すい臓がんの夫・叶井俊太郎さんとの余命宣告後の日常」を綴る連載開始|Vol.1「カップ麺と涙」

 漫画家の倉田真由美さんの夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(56才)は、現在すい臓がんで闘病中だ。2022年6月に病が発覚し、余命宣告を受けたその後ー―。病とともに生きる夫に寄り添う、くらたまさんが日々の想いを綴る連載エッセイをスタートする。第1回は、食事にまつわる“もめ事”の話だ。

執筆・イラスト/倉田真由美さん

漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。近著『夫のすい臓がんが判明するまで:すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』、お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)など。「夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版」は現在無料で公開中。

余命宣告を超えた日常

「悪ければ半年、もって1年です」

 夫・叶井俊太郎がすい臓がんの診断を受け、余命宣告をされたのは2022年の6月でした。

 発覚のきっかけは全身が黄色くなる「黄疸」です。

 最初の病院、2軒目の病院では原因がわからず3軒目の国立病院でようやくすい臓がんが原因で黄疸が起きていることが判明しました。

 セカンドオピニオン、サードオピニオン、何軒も病院を回りましたが、はっきりしたのは「すい臓がんはがんの中でも最も質が悪く、生存率もとても低い」ということでした。

 だったらもうがんとは闘わず、対症療法だけで余命をまっとうしたい。

 夫はこう結論を出すまで、それほど悩みませんでした。

 そんな夫と、余命宣告を受けた日からもう1年半以上経ちます。体重は30kgくらい減っているし、先月から腹水が溜まり始めて満身創痍ではありますが、夫は今もいつもの座椅子で寝そべりながら雑誌読んだりしています。

よりによって「カップ麺?」

 普段、一番の揉め事は食事のこと。

 昨年の夏、癌が十二指腸を圧迫したため胃と小腸をつなぐバイパス手術をした夫。それ以降「食べ過ぎるとしばらくして激しい胃痛がくる」という症状に悩まされています。

 医師からも前のようには食べられないし食べたらいけないと言われているのに、しょっちゅう食べすぎて苦しんでいます。

 腹水が溜まり始めてからはますます食べられなくなり、痛みも激しくなっているのに、いまだに同じことを繰り返してしまいます。それなりの量、食べること自体はできてしまうんですよね。で、数時間後に悶絶する。何度も何度も何度も同じ光景を見ました。

「食べたいものを食べたいように食べてほしい」とは思っているしそう言っているけど、「学習しないなあ」とあきれる思いもあります。

 先日、朝起きると夫がお腹を抱えて苦しんでいて、聞いてみると「早朝、お腹が空いてカップ麺食べた」と。

 よりによってカップ麺…。思わずため息が出ました。

「背中をさすって」という夫の背をさすりながら、「もう二度とカップ麺なんて食べないで」と強めに言ってしまいました。

 痛くて苦しいのをかわいそうに思う気持ち、「またか」というあきれ、そして「どうせ食べるなら栄養バランスいいものを食べてほしいのに」という苛立ちがない交ぜになって、自分でもなかなか感情を制御できませんでした。

 その後、少し落ち着いた夫を置いて、私は仕事のため家を出ました。

 電車の中、吊り革につかまりながら夫が苦しむ姿を思い出し、不憫で不憫で涙が溢れて止まりませんでした。

「カップ麺、食べたかったから食べたんだもんね。ごめんね、強い言い方して」

 いつも、いつでも優しくしたいのに、そうできない時がある。イライラしたり、不満に思ったことが態度に出てしまうことがある。

 自分でわかっていて、改善したいのに、なかなか変えられません。何度も繰り返してしまいます。夫のこと、いえませんね。

 思い出したらまた胸が苦しくなってきました。今日は浮腫んだ夫の足を、念入りに揉んでやりたいと思います。

次の話を読む▶

●西城秀樹さんの闘病・介護…共に歩んだ妻・美紀さんが明かす家族のこと<第1回>

●八千草薫さん がん闘病で「隣人介護」を選んだ生き方

●『こまどり姉妹』84才で現役!末期がん危篤状態から奇跡の回復、元気の秘訣は「食事と散歩」

コメント

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この記事へのみんなのコメント

  • 大和

    自分だったらと思わずにはいられない。身に余る不幸は、ある日、突然やって来る。人生なんて、まるで、薄氷を踏むようで、毎日がロシアンル-レットをやっているようなものだと思う。それが人生なら、どういう生き方が出来るんだろう。啄木は白いペスト、つまり確実に死へとつながる結核に翻弄されながら、あれだけの美しい詩句を後世に残している。だけど、それに何の意味があったのだろう。啄木は自身にとどまらず、母、妻、子どもすべてが結核に根絶やしされる悲惨な人生を過ごしている。

  • KR

    私の母は癌で数年前に亡くなりました。母は叶井さんと同世代です。体調が悪くても無理して家のことをして更に体調が悪くなってしまう母に何度も声を荒げてしまった事があります。その時のごめんねと言って一回り小さくなった身体を丸めて座っていた母の姿を思い出すととても悲しくて、不憫で、そして自分が許せません。この記事を読んで今も涙が止まりません。お母さん強く言ってごめんね。謝りたかったけど結局謝る事ができませんでした。母に出来るだけの事はしたつもりですが思い出すと自分は後悔の気持ちばかりです。

  • しいたけこ

    「カップ麺、食べたかったから食べたんだもんね。ごめんね、強い言い方して」 この倉田さんの一言にもらい泣きしそうでした。 亡くなった父と母に『食べられんやろ?ダメだよ』と言うばかりでした。 バナナぐらい『いいよ』って言えれば良かった。

  • ななちゃん

    私の妹が膵臓癌で先月両親の元へ旅立ちました。 4年半前にステージ4。肝臓にも転移。余命数ヶ月でした。 抗がん剤が合いまして通院しながら普通に食べていました。 昨年の8月に数値が4桁になり新しい抗がん剤になりましたが 副作用が酷くてやめました。昨年の4月の伊香保温泉が最後に なりました。

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