倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.63「最期は家か病院か?緩和ケア問題」
漫画家の倉田真由美さんの夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)は、すい臓がんの闘病中「終末期、いよいよになったら入院して最期を迎える」と考えていた。緩和ケアやホスピスは視野にあったのだが――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
ホスピスか、緩和ケアか
病気が発覚してから一年以上、夫は「最期は病院で」と考えていましたし、私もきっとそうなるのだろうと思っていました。
「家で死ぬのは嫌だな。痛い時に、すぐに痛みをとってもらえないのは困るし」
「あと、俺が弱っていくとこ、ココ(娘)に見せたくないよ」
当初から、そう言っていた夫。同じ気持ちは私にもありました。痛み止めの処置は病院の方が迅速に行えるだろうし、夫が痛かったり苦しかったりするのを見るのは私も辛いです。娘にはその辛さを味わせたくないと思うのは、親として自然な感情でした。
夫は私に入院できるところを調べるように頼み、それを受けて私は病院を探しそこで行われる治療について調べたり、医療に詳しい知人にホスピス、緩和ケアについて聞いたりしていました。
「一度、緩和ケア病棟のある〇〇病院に行ってみたほうがいいのかも」
どれだけ調べても、実際に行ってみて様子をみないことには具体的なイメージは湧きません。そして行くなら私だけではなく、当事者である夫も行ったほうがいいに決まっています。もちろん、ただ外から様子を眺めるだけではなく、医師から詳細なアドバイスを聞くのがベストです。
緩和ケア問題
緩和ケア病棟を抱える病院は、家からさほど遠くないところにありました。行こうと思えばいつでもすぐに行ける距離です。
でも、なかなか行く気になりませんでした。
「早ければ半年、どんなに長くても一年」と宣告された、その一年を越えた頃も夫は毎日会社に行けるほど元気でした。最期のことを考えなければいけない状態とは思えず、そして何より最期のことなんてなるべく考えたくなくて、夫が改めて言い出さないのをいいことに緩和ケア問題はずるずる後回しにしてしまっていました。
そうしているうちに、夫の気持ちが180度変わる出来事がありました。
「絶対に病院で死にたくない」
夫は最期まで家にいることを決めました。きっかけは、一昨年初秋の入院でした。
(次回に続く)
倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」を1話から読む
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。