倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.40「時間薬の効き目」
漫画家の倉田真由美さんの夫、叶井俊太郎さんは、すい臓がんにより今年2月に帰らぬ人となった。7月には叶井さんを偲ぶ会が行われ、旅立ちの日から半年あまり。4度にわたる余命宣告を跳ね返し、生きた夫を想い続ける妻の心境とは。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
毎日ふとした瞬間に思い出す
夫がいなくなって、半年が経とうとしています。
「時間薬が効いてきた」という感覚は未だありません。毎日ふとした瞬間に「面白い人だったなあ」と彼の姿や声や一挙手一投足を思い出して、泣けてきてしまいます。
近い身内を亡くしたことはこれまでもあったけど、こんな気持ちが継続するのは初めてで戸惑っています。夫がいた頃といなくなってからでは、私自身大きく変わってしまったようです。
人に会うと気が紛れます。なるべく外に出るようにしているし、たまにはお酒を飲むことも。私にとってお酒は美味しいと味を楽しむものではなく、気分を高揚させるためのものです。普段家で飲むことはありません。人といて、雰囲気を味わうために飲みます。まあまあ量は飲めるし、時には泥酔することもあります。
でも、お酒の力で上がった気分の反動は、飲まない時より大きいんですよね。飲んで帰る時の家路は、孤独が際立ちます。
さっきまで夫のことを忘れて楽しく過ごしていたのに、一人になった瞬間、今から戻る家に夫がいないことが重くのしかかって私を苛みます。強引に上げていたテンションが、上がった時よりも勢いよく急激に落ちていきます。
涙に濡れながら歩く道。
いつになったら、泣かずにいられる日が来るのかなあ。
「時間薬しかいない」と言うけれど…
忘れたいわけではないし、夫のことを考える時間をもっと減らしたいわけではないんです。
でも、こんなに悲しい気持ちと共に思い出に浸るのはもう、つらいんですよね。もっと明るく思い出したい。涙なく夫のことを想いたい、話したい、伝えたいんです。
「時間薬しかない」と皆が言うし、私もそうなんだろうと思っています。でも、それはいつ頃なのかなあと今、その兆しがまだ見えなくて呆然としてしまいます。
「あんた、まだ泣いてんの」
夫に知られたら笑われると思います。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』