倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.62「夫の看取り。最期を自宅で迎えた理由」
漫画家の倉田真由美さんの夫、叶井俊太郎さんが「もって1年半です」と余命宣告されたのは2022年初夏のこと。宣告された1年半を超えて2024年2月に旅立だった叶井さんは、最期の瞬間まで自宅で過ごした。その経緯を振り返る。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
「病院がいい」と言っていた夫
夫は希望通り、自宅で息を引き取りました。
最期までの日々を、慣れ親しんだ自宅で過ごせました。
でも、最初から自宅での看取りを決めていたわけではありません。病気が発覚してからの最初の一年は、「いつか緩和ケア病棟に入るんだろう」と、夫も私も思っていました。
現在の日本では、亡くなる人の大半が医療施設で最期を迎えます。「自宅で死にたい」と思っている人は全体の8割近くといわれているのに、それが叶うのは一部です。
一時期よりは増えたとはいえ、在宅死の割合は今も2割に満たないままです。
スウェーデンやオランダでは病院での死亡率は半数以下、アメリカでも数年前には在宅死が病院死を上回っていて、日本は他国と比べても病院で息を引き取る人が圧倒的に多い現状です。
だから当然、「自分が死ぬ時は病院で死ぬんだろう」というイメージを持ちがちです。夫もそうだったし、私もそうでした。むしろ夫は、最初のうちは「自宅で死にたくない、病院のほうがいい」と言っていたくらいです。
緩和ケアとホスピスは違う
「ホスピスのこと、調べておいてよ」
宣告された余命を過ぎた辺りから、夫に何度か言われていました。
「うん、わかった」
気持ちは複雑でしたが、いざという時急にバタバタ調べるより、先に調べて準備しておいたほうがいいはずです。この時初めて、「緩和ケア」と「ホスピス」が同じものではないということも知りました。
病棟にはいつ頃から入れるのか。
入院環境は。
費用はどれくらいかかるのか。
家から遠くない緩和ケア病棟がある病院のホームページを見てもよくわからないこともあり、一度夫と訪問してみようかと思っていました。さらに知り合いの医療ジャーナリストに夫ががんであることを相談すると、
「最近は終末期前でも緩和ケアの相談にのってもらえますよ。どこに入院するかも、早めに決めておいた方がいいと思います」
とアドバイスをもらいました。
夫婦ともに、「終末期、いよいよになったら入院して最期を迎える」という方向に意識は向かっていました。でもこれが、ある時期から「絶対に病院で死にたくない」に変わります。
(次回に続く)
倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」を1話から読む
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。