電動車いすにリモート操作機能があると、「介護保険対象外」? 厚労省が時代に応じた制度見直しを検討
福祉用具のジャンルにも、ICTの波が訪れている。リモート操作ができる電動車いすや、スマホなどに呼び出し通知を送ることができる介護用ベッド(特殊寝台)など、通信機能を備えた福祉用具・グッズの開発は、超高齢社会に突入した日本にとっては心強い。
だが、これらの用具を使うにあたり、現状の介護保険では賄いきれない壁があるという。現行の介護保険制度では福祉用具の本体部分と通信機能部分が物理的に分離できない場合、本体部分も含めて丸ごと「介護保険の給付対象とならない」のだ。現在、「認知症老人徘徊感知機器」については本体機能と通信機能が区分できる場合、本体部分についてだけ介護保険給付の対象とされている。
例えば自宅のドアを開けて外に出ようとするとブザーがなる感知器は「本体機能」で介護保険対象だが、それにGPSを付加してパソコンやスマホから居場所を特定する「通信機能」は実費負担となるイメージだ。利用者の立場から考えれば、徘徊による事故や行方不明になることを防ぐにはスマホへの通知や現在地確認は必須機能に思える。だが、技術の進歩やニーズの多様化に介護保険制度が追いついていないのが実態と言えよう。
他の福祉用具についてもICTを導入する機運が高まっているが、通信機能を「物理的に」分離できない場合は介護保険対象にならない。この現状について、福祉用具を開発する会社から“開発の方向性を制約する”と見直しを求める声があがっており、厚生労働省は運用見直しを進めている。
物理的な分離が難しい一体型の機器でも、通信機能部分にかかっている費用が明確に分けられるならば、保険給付対象に含める方向で検討しているのだ。
電動車椅子、特殊寝台、ポータブルトイレまで広がる通信機能の実態
では、通信機能を持つ福祉用具にはどのようなものがあるのか。代表的なケースと、介護保険給付のOK/NG事例を見ていこう。
1.電動車いす
スマートフォンで遠隔操作ができる電動車いすがある。ただし、これは電動車いすの“本来機能”とは違うという考え方で、介護保険を使うことはできない。一方、機器の情報を収集してメンテナンスに対応するBluetooth機能がついている電動車いすは介護保険給付対象となっている。
2. 介護用ベッド(特殊寝台)
スマートフォンでベッドのリクライニング操作をしたり、緊急時の呼び出し通知をスマートフォンや専用端末で受けることができる特殊寝台がある。本体と受信端末は分離することができるため、本体は介護保険を使うことができる。前述の通り、通信機能部分は適用外だ。
3. ポータブルトイレ
Wi-Fiを介して排泄状況(着座時間や排泄重量)を介助者に伝える機能を備え、ケアの質の改善に関する情報を介助者が取得できるポータブルトイレ。これは介護保険の適用外だ。
4. 電動アシスト付き歩行支援用具(歩行器)
利用者の位置情報や活動量を測定し、異常時に緊急通知を送信する機能が搭載されている歩行支援用具。GPSなどの通信機能部分が一体化されているため、現行制度のもとでは保険適用の対象外となる。
利用者・介護者双方の負担軽減への期待
このように利用者、介護者にとって便利なICT機能を備えた福祉用具であっても、介護保険適用外であるため使用に二の足を踏むのが現状だ。もし制度が見直され、通信機能が物理的に分離できなくてもコストだけ分けられれば「本体部分は介護保険給付対象」となったら、もっと様々な便利機能を備えた福祉用具が登場する可能性は高い。
今後の検討会の議論を経て、新たな福祉用具の評価基準が整備されれば、利用者・介護者双方の負担が軽減されることだろう。
構成・文/介護ポストセブン編集部