《店を譲るのは死んだとき》1日7時間店頭に立つ98歳のうなぎ職人・金本兼次郎さんが明かす健康の秘訣「毎日ボウルいっぱいの生野菜」「フランス通い」「毎朝の仕込み」
創業200年を誇る東京・東麻布の老舗うなぎ店「野田岩 麻布飯倉本店」。五代目店主の金本兼次郎さんは、98歳を迎えた現在も1日7時間ほど厨房や店頭に立ち続けている。生涯現役を貫く健康の秘訣を聞いた。【全3回の第3回】
98歳でも1日6~7時間は店に立ち続ける
――98歳で、うなぎ職人として現役でいられる健康の秘訣を教えてください。
金本さん:働くこと、そして体を動かすことです。私にとって、仕事をするということは体を動かすということなんですよ。もちろん、昔のように1から10まで全部はできません。でも、若い人たちに交じって仕事をして、自分の役割を果たす。これが今の私にとって、一番幸せなことです。
――朝起きてから、必ず行う習慣はありますか?
金本さん:毎日仕事をするものだと決めていますから、朝起きたら店へ行って仕込みをします。体を動かすことが何よりの健康の秘訣ですからね。厨房に立ちっぱなしというわけではありません。店が始まれば玄関のところでお客さんをお迎えします。ずっとそうしていますよ。そうやってお客さんの前に立って接客している時間を合わせると、1日6~7時間くらいは仕事をしていることになります。
――お食事について、健康のために気をつけていることはありますか?
金本さん:体調が悪くない限りは、みんなと一緒に賄いなどを食べますし、ボウルいっぱいの生野菜は毎日、絶対に食べるようにしています。私の家内は昔、帝国ホテルに勤めていたことがありましてね。「外国人は生野菜をちゃんと食べますよ。あなたも食べてください」と家内によく言われて、健康のために取り入れた習慣です。
反対に、あまり刺激の強いものは食べないようにしています。食は太いほうです。私はフランス料理が大好きですから、コース料理だって最後までしっかり食べきりますよ。食べなきゃ力が出ないし、元気に働けませんからね。
――ご自身もうなぎは頻繁に召し上がるのでしょうか?
金本さん:食卓で食べているわけではありませんが、気になったときには必ず試食するようにしています。「このうなぎはいつもと違うな」と思ったら、実際に口にして確かめるんです。うなぎは獲れる場所によってみんな味が違いますし、脂の乗り方も違います。そういう些細な違いが気になったときは、食べて味を確かめています。
嫌なことは考えない。ストレスをためずに気分を切り替えるのが長生きのコツ
――健康のために続けている運動はありますか?
金本さん:よく歩きます。歩くのが好きだから、ちょっとした用事でも必ず歩くようにしているんです。1日に何歩歩くとか、何分歩くとか、そういうルールを決めているわけではありません。そのときの気分で歩き回っています。
――日常生活で落ち込んだり、腹が立ったりしたときに、気持ちを切り替える方法はありますか?
金本さん:ストレスをためないよう、やたらと腹を立てないようにしています。長く生きていると色々なことがありますが、私は自分で気持ちをパッと切り替えて楽しくできるタイプなんですよ。
睡眠については、特別なことは何もしていません。毎日疲れてバタンキューです。夜はだいたい10時~11時くらいの間には寝て、朝は4時半に目が覚めることもあれば、7時くらいになることもあります。気分がよければ、パッと起きてすぐに何か始めますね。
「ただ生きているだけじゃなく、仕事がしたい」98歳から描くフランスへの夢
――登山や旅行が趣味だとお聞きしましたが、今はどういった時間が楽しみですか?
金本さん:できるなら、やっぱり山に登りたいですね。旅行には今でも行っています。特にフランスが好きで100回以上行きました。昨年も支店の視察も兼ねて孫と行きましたよ。最近だと先週、娘たちと一緒に京都へ行きました。新緑がとてもきれいでした。
――98歳という年齢になり、年をとることについてどのようにお考えですか?
金本さん:年をとるということは、ごく当たり前な話です。「年を取ったらこうだ」とか、そんな風に特別に考えることはありません。成り行きですよ。大切なのは健康です。健康さえ維持できれば、ここへ行きたいと思ったときに、パッと行くことができますからね。だからこそ、日々の健康管理には気をつけています。
――この先、挑戦したいことや叶えたい夢はありますか?
金本さん:ずっとこの仕事を続けたいですね。そして、体が許す限りフランスに通いたいです。
――金本さんは30歳ごろにお店を継ぎました。次世代に譲って休まれる予定はありますか?
金本さん:店を譲るのは、私が死んだときですね(笑い)。元気なうちはまだまだ頑張りますよ。
◆野田岩五代目・金本兼次郎
かねもと・かねじろう/1928年1月1日、東京生まれ。寛政年間創業のうなぎ屋「野田岩」四代目の長男として生を受け、13歳で修業に入り、1957年に五代目就任。2007年、厚生労働省より「卓越した技能者の表彰(現代の名工)」に選出。「ミシュランガイド東京2026」にてメンターシェフアワードを受賞。98歳を迎える現在も焼き場に立ち、生涯現役を貫く。
撮影/小山志麻 取材・文/小山内麗香
