認知症は「介護者のメンタル」と「薬の適切な服用」が患者の症状に大きく影響|理由を医師が解説
長生きすれば誰もが認知症になることを覚悟すべき、“人生100年時代”を迎えた日本。認知症に「何もかもが不自由で苦しい」イメージを持ち、不安や恐れを抱く人も多いだろう。しかし、いい伴走者を見つけ、しかるべき処置をすれば穏やかかつ幸せに過ごすことは可能だ。ジャーナリストの鳥集徹さんと本誌取材班が、豊富な知見と治療経験を併せ持つ名医3人に認知症との向き合い方を聞いた。
→ジャーナリスト・鳥集徹さんと本誌取材班が徹底取材 名医5人だけが知る<認知症の名医リスト>【全国版】
教えてくれた人
西村知香さん/くるみクリニック院長
平川亘さん/誠弘会池袋病院副院長
高瀬義昌さん(※高ははしごだか)/たかせクリニック理事長
介護者の理解で症状が軽くなる
認知症の患者を支えるには、介護者の病気に対する理解も欠かせない。たとえば、もの忘れや失敗した患者を介護者が怒ったり叱ったりすれば、患者が混乱して余計に症状が悪化する。反対に、なぜ患者にそのような症状が出るのかを理解し、冷静に対応することができれば、患者も落ち着いて生活することができる。
したがって、介護する家族も診察に同席し、医師とコミュニケーションを取ることが大切だ。
西村知香医師が院長を務めるくるみクリニックでは、初診時に精神保健福祉士が本人と家族に30分~1時間ほど聴き取りを行い、医師も20~30分かけて病状説明を行う。心理検査や画像検査も実施するので、初診ではトータル2時間くらいの時間を割いている。
「介護者が病気を理解すれば、患者への接し方が改善されて、それが結果的に患者にいい影響を与え、認知症の進行を抑えることにつながる。ですから、介護者に病気の説明をして、理解してもらうことが不可欠。これは何よりも患者ご本人のために、すごく重要なことなのです」(西村医師)
しかし多くの医師は家族とのやり取りをそれほど重要視しておらず、「認知症は真面目に診てもらえないことが多い」と西村医師は嘆く。患者や介護者の話を聞くのは時間がかかるうえに、患者本人が治療を受けるモチベーションを持っていないことが多いからだ。さらに介護者もストレスがたまっていて、話が長くなりがちだ。そのため、患者が多い大病院では、“面倒くさい患者”扱いになってしまうことも多いという。
「でも、認知症は患者だけ診ていればいいわけではなく、患者と密接にかかわっている介護者もケアすべきです。なぜなら介護者のメンタルヘルスが、患者の症状にも大きく影響するからです。精神症状が強く出て不穏な状態になった患者の家族に話を聞いてみると『介護うつ』で、介護者が患者に暴言を吐いたり、ひどいケースでは殴ったり蹴ったりしていたこともありました。
そうした場合には介護者のメンタルケアを行い、必要ならうつ病の治療も受けてもらいます。それでも介護者がうまく接することができず、疲れ果てているときには、訪問介護やデイサービスを利用して患者と距離を取り、家族には最低限の介護だけに絞ってもらう。それだけで患者の精神症状が改善することも多いのです」(西村医師)
「認知症治療薬の適切な服用」が明暗を分ける
介護者のケアと同様に患者の明暗を分けるのが、薬を適切に服用できるかどうかだ。
認知症治療では多くの場合、認知機能低下やうつ状態、暴言や興奮などの症状を抑えるため、薬が処方される。中でも多用されているのは、’99年に世界初の認知症治療薬として発売されて以来「アルツハイマー型認知症」と診断された患者に処方するのがスタンダードとなった「ドネペジル」だ。だがこの薬には問題も多かった。誠弘会池袋病院副院長の平川亘医師が話す。
「当時、認知症と闘える“武器”となるような治療法がなかったところにドネペジルが登場したので、『これで認知症がよくなる』と医師たちがこぞってこの薬を使い出したのです。すると逆に、患者さんの認知症が明らかに悪化していることに気づきました。さらに、怒りっぽくなる人や落ち着きのない人、被害妄想になる人が増えた。歩けなくなる、食べられなくなる、脱水症や誤嚥性肺炎になる人もいました。それらが、ドネペジルをやめたら改善するのです」
平川医師が調べたところ、投与する量を製薬会社が定めた規定量(開始量3mg、維持量5mg)ではなく、半量(同1.5mg、2.5mg)にすれば症状が改善する人が増え、悪化する人が減ることがわかった。
「これをきっかけに、認知症治療薬の適切な使い方を調べるようになりました。現在、認知症治療薬は4種類出ていますが、原因となる病気や個人によって、それぞれ向いている薬や適切な量が異なります。認知症治療薬はもの忘れがあるからといって安易に処方するのではなく、必要な人に使うこと、効いたらそれ以上増量しないこと、副作用が出たら減量すること、何より副作用に気づくことが大切です」(平川医師)
「薬の併用」が認知症に悪い影響も
高齢者は認知症の薬以外にも、睡眠薬や抗不安薬、降圧薬、コレステロール低下薬や糖尿病治療薬、痛み止めなどさまざまな薬をのんでいることが多い。
それらが認知症に悪い影響を与えることもある。認知症の在宅医療のスペシャリストとして知られる、たかせクリニック理事長の高瀬義昌医師(※高ははしごだか)が話す。
「高齢の認知症患者はほぼ例外なくほかにもさまざまな病気を抱えていて、複数の薬をのんでいることが多い。1日10種類以上の薬をのんでいる人もざらにいます。
でも、薬が6種類を超えたら、害の方が強く出る人が増えると考えた方がいい。ですから、訪問診療の初日に私は患者さんがのんでいる薬の整理をし、そこから『薬の最適化』をめざして、丁寧に減らしていきます。そもそも、認知症患者は薬をなくしたり落としたりしますし、ご家族や看護師、介護職員も薬をのませるのが本当に大変なんです。
ですから、高血圧や糖尿病があるなら運動の習慣をつけてもらうなどして、病状の安定を図ります。こうした病気を診てもらうために、循環器科の医師ともいいつきあいをすることをおすすめします」
※参考/東田勉『「認知症」9人の名医』(ブックマン社)
写真/PIXTA
※女性セブン2024年9月26日・10月3日号
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