「ヒステリックな妻は小生を介護してくれる?」70代男性の悩みに91才料理研究家・小林まさるさんがアドバイス|まさるの人生相談&お手軽レシピ・第2回
91才の料理研究家・小林まさるさんが、読者のリアルなお悩みに答える「まさるの人生相談」。第2回は「老後の不安」について寄せられた70代男性2名からの相談だ。90代のまさるさんから見た70代の悩みとは? 読んですっきり、心は晴々!
答えてくれた人
料理研究家・小林まさるさん
昭和8年、樺太(現在はサハリン)生まれ。70才から長男の嫁で料理研究家の小林まさみさんのアシスタントを始め、料理研究家として活躍。著書『人生は、棚からぼたもち! 86歳・料理研究家の老後を楽しく味わう30のコツ』(東洋経済新報社)ほか、小林まさみさんの著書『血糖値を下げる1か月献立』(Gakken)では血糖値を下げる企画にチャレンジ。88才でYouTubeを始めるなど、新たな挑戦を続けるシニア世代の星。小林まさる88チャンネル https://www.youtube.com/@user-tk9ur8bu8s/featured
お悩み1「妻は自分の介護をしてくれるのか心配」
「75才になる妻とは金婚式を迎えました。我が家には15才になる老犬がいるのですが、お漏らしをしたり食事をバラまいてしまったりと粗相が増えています。
そのたびに妻はヒステリックに怒り散らします。
その様子を見ていると、フレイルになりかけの小生は、自分の介護を想像すると落ち着いてはいられません。施設に入りたくても金はない、妻に怯えて自宅で介護を受けるのか、サゼッションお願いします」(フレイルじいさん/77才・男性)
まさるさんの回答「普段から感謝の気持ちを伝えよう!」
奥さんの老犬への態度を見て「自分も…」と心配になっているんだな、うんうん気持ちはわかる。年をとれば老後の不安は誰だってある。しかし、ちょっと考えてみてほしい。フレイルじいさんは、日頃奥さんにどんな態度で接しているだろうか。
老犬が粗相した時に片付けを手伝っているのであれば、フレイルじいさんの気持ちを察すると辛いよな。しかし、妻に心無い態度をとっていたり、ろくに手伝いもしていなければ、「いずれしっぺ返しがくる」と不安に思うかも知れないな。
普段から奥さんを手伝ったり、優しくしたりしていれば、困った時にはきっと助けてもらえるはずだ。
俺のおっかあ(妻)は体が弱くて入退院を繰り返していたから、10年くらいは俺が家事をやっていたんだ。
よく夫婦喧嘩もしたけど、そのうち喧嘩するのにも飽きてきて、口を出すより手を動かした方が早いと思って、料理も掃除も子育ても一生懸命やってきたよ。
俺は黙って毎日家事をこなしていたから、妻と老後を迎えたとしても、しっぺ返しが来ることはないだろうって、こっそり思っていたよ。だけど俺が57才の時、おっかあは53才で亡くなったから、老後を共に過ごすことはできなかったなあ。
まさるさん
俺はおっかあの代わりに家事も育児もしていたよ!
困った時はお互い様だ。あの時に助けてもらったから、今度は自分が助けようって、自分のしたことは自分に返ってくるんじゃないかな。
1年に1度でもいい、たまには金がある時に「今日は俺が飯でもご馳走しようか?」って、何かおいしいものを奥さんと食べに行くといいよ。誕生日だったら高価なものじゃなくても、千円くらいのプレゼントを買って、「いつもありがとう」って感謝の気持ちを素直に伝えたらどうだろう? 奥さんの態度も少しずつ和らぐんじゃないかな。
誕生日といえば、いまじゃあ息子とまさみちゃん(義理嫁、料理研究家の小林まさみさん)は毎年祝ってくれるんだ。俺たちの時代は、誕生日のお祝いなんて貧乏で何もできなかったから、ありがたいよね。
毎朝床の拭き掃除、風呂も便所も掃除して、家族のためにできることは何でもやって、普段から家族に恩返しをしているつもりだよ。普段から自分のできることを言葉や行動で示していれば、「何かあったら後は頼むわ」って、奥さんに言えるような夫婦関係になるんじゃないかな。
まさるさん
日々の行いは、すべて自分に返ってくる
お悩み2「人生の最期に備えて、どんな心掛けをしたらよい?」
「子ども達も巣立って夫婦二人で過ごしています。小生74才、妻69才です。自分の周りの先輩、後輩に何人も旅立たれ、自分もいつそうなってもおかしくない年になっていると痛感しているこの頃です。
家族には“ピンコロで迷惑をかけないようにするからね”とは言っていますが、いざという時のために、どのような心掛けをしておけばよいのでしょうか。
晩酌が健康のバロメーターと公言して“毎日の晩酌”を楽しんでいますが、まさるさんの健康のバロメーターは何ですか?」(進撃の老人/74才・男性)
まさるさんの回答「70代はまだハナタレ小僧、人生はこれからだ!」
長く生きていると、友人を先に見送ることも増えてきて、寂しいもんだよな。俺もおんなじだよ。そして最期は“ピンピンコロリ”が一番! それは誰もが思うことだ。
「誰の世話にもならずに朝起きたら死んでいた」。それが一番いい気がするが、人間そううまくはいかないもんだ。
いまは元気でも、介護が必要になった時は、家族に見てもらうことになるかもしれない。だけど、家族にはそれぞれ事情があるし、頼れない場合もあるよな。
介護施設に入ることを考えるなら、役所に行って相談するとか、どんな施設がいいのか調べておくとか、自分の頭と体が動くうちに準備したほうがいいだろうな。そういうのを「終活」っていうんだろうが、実は俺は終活はやっていない。
息子やまさみちゃんには申し訳ないけど、いまの俺の考えは、「死ぬだけの金があればいい」「葬式代さえあればいい」。あとはもう頼むぞ!って、そんな気持ちだよ。
先のことをあれこれ心配して悩むよりも“いま”が大事。自分の体が動くうちは仕事でも家事でもなんでもやる。普段からそういう気持ちで暮らしているよ。
まさるさん
先のことを心配せず、いまを生きているんだ
老いていくにつれ、物事を悪い方へ悪い方へと考えてしまう人もいるよな。でも、「そんな考えは捨てちまえ!」と言いたいね。考え過ぎて鬱々とするより、元気ないまのうちに趣味のひとつでも作ったほうがいい。俺が70才の頃といえば、まさみちゃんの料理アシスタントになりたてで、毎日一生懸命働いていたから、先のことなんて考える余裕もなかったよ。
74才なんてまだまだハナタレ小僧、人生はこれからだ! いざというとき備えておくべきなのは、体力とやる気なんじゃないか。頭と体が動く限り、何でもやってみようっていう気持ちで生きてみようじゃないか。
まさるさん
74才、人生はまだまだこれからだ!
最後に、健康のバロメーターは俺も「酒」と言いたいところだけど(笑い)、ほどほどにな。
健康のためには、腹八分目でよく食べる、よく歩く、そしてクヨクヨ考えないこと。旨いつまみを作って一杯やって、気分良く1日を終えたいものだよ。
まさるさんの人生晴々!【まとめ】
「家族への感謝の気持ちを忘れずに。葬式代くらいはなんとか残して、日々自分がやれることをやっていこう!」
悩みを吹き飛ばす”うまい一品”「調味料いらずのパパッとおつまみ」
「70代はまだまだこれから!」と、笑顔で話すまさるさんの元気の秘訣は、何と言っても料理をすること。手先を動かすことは、脳の刺激にもってこい。今回はまさるさんがよく酒の肴に作っているという手軽な一品を教えてもらった。
さきいかと明太子の和え物
【材料】(2人分)
明太子…1/2腹(30g)
青じそ…3枚
さきいか…40g
【作り方】
【1】明太子は薄皮に切れ目を入れ、中身をしごき出す。青じそは細切りにする。
【2】ボウルにさきいか、明太子を入れて和える。よく混ざったら、青じそを加えてさっと和える。
「さきいかと明太子の味だけで調味料は不要、パパッと作れるから友人が飲みに来る時にもよく作るんだ。花見などの宴会にも作って持っていくこともあるね。大葉とか香りのあるものを加えると、味が引き締まっておいしくなるぞ。しょうがやみょうがを入れてもいいね!」
ひと口食べると、さきいかに明太子が絡んでお酒のお供にもぴったり。「旨いつまみを作って晩酌する時間は、俺の明日への活力になっているな」
――次回のお悩み相談もお楽しみに!
第1回「要介護で家族に料理を止められる」90代女性のお悩みに91才料理研究家・小林まさるさんがアドバイス|まさるの人生相談&お手軽レシピ・第1回
撮影/菅井淳子 取材・文/岸綾香