「要介護で家族に料理を止められる」90代女性のお悩みに91才料理研究家・小林まさるさんがアドバイス|まさるの人生相談&お手軽レシピ・第1回
91才の料理研究家として現役で活躍し続けている小林まさるさんに「相談したいこと」を募集したところ、800件を超える応募が集まった。老いや健康、親子関係のことなど、リアルな読者の悩みに答える「まさるの人生相談」。第1回は、まさるさんと同年代「90代にまつわるお悩み」。読んですっきり、心は晴々!
答えてくれた人
料理研究家・小林まさるさん
昭和8年、樺太(現在はサハリン)生まれ。70才から長男の嫁で料理研究家の小林まさみさんのアシスタントを始め、料理研究家として活躍。著書『人生は、棚からぼたもち! 86歳・料理研究家の老後を楽しく味わう30のコツ』(東洋経済新報社)ほか、小林まさみさんの著書『血糖値を下げる1か月献立』(Gakken)では血糖値を下げる企画にチャレンジ。88才でYouTubeを始めるなど、新たな挑戦を続けるシニア世代の星。小林まさる88チャンネル https://www.youtube.com/@user-tk9ur8bu8s/featured
お悩み1「要介護で危ないからと料理をさせてもらえない」
「要介護になって包丁やガス台は危ないからと、家族が料理を許してくれません。家族の愛や心配には感謝していますが、何かできることで役に立ちたいのに怪我でもしたらと思うと、尻込みする自分もいます。
どうしたら自分の自尊心(役に立ってる)と家族の安心を両立できるか教えてくださいませ」(まぁばあちゃん/90才・女性)
まさるさんの回答「声に出して安全確認から」
お母さんにひとりで料理をさせるのは危ない」と家族に心配されているけど、ご本人は料理がしたいんだね。長年担ってきた役割ができなくなるのは辛いもんだよな。要介護とのことだが、また料理ができたらいいよなあ。
俺は料理だって掃除だって、体が動く限りやり続けていくつもりだよ。息子にも、まさみちゃん(長男の嫁、料理研究家の小林まさみさん)にも、危ないなんて思われたくないから、いつもやっていることがあるんだ。
火を使う時は、「よし、火をつけた!」。使い終わったら、「よし、消した!」って、自分の行動を言葉にして、安全確認をしているんだ。
まさるさん
料理は声を出してやってみよう!
まぁばあちゃんさんも、試してみたらどうだろう?
たとえば、「今から包丁を使いますよ」と言って野菜を切り始めて、「ゆっくり包丁を使ったから大丈夫」「怪我なく安全にできた!」とか、料理をしながら声に出して安全確認していくんだ。
料理をしても安全だってことをアピールして、「お母さん、これなら大丈夫だな」と家族に思ってもらえて、それが続いていけば、料理の感覚も取り戻せるかもしれないし、また任せてくれるんじゃないかな。
俺はこの安全確認は、日常的に実践しているよ。家に誰もいなくて愛犬の散歩や買い物に行く時、「火よし!」「錠よし!」と声に出している。やっぱり年だから、忘れることもあるからね。
まさるさん
なんでも「声に出して」安全確認!
お悩み2「91才の父親が同じ話を何度も繰り返して困っています」
「まさるさんと同じ年の父は、耳が遠く、人の話をほとんど聞いていないのか、自分の話ばかり。同じことを何回も言います。つい『その話、聞いた』と、つれない返事をしてしまうのですが、もっと優しくすればよかったと気になることも…。
まさるさんは、息子さんやまさみさんから、つれないことを言われることはありますか? 父にどのような対応をするのが一番よいのでしょうか? 親子円満の秘訣を教えてください」(コージーさん/60才・女性)
まさるさんの回答「言葉じゃなくて、態度で示しては?」
俺も同じことを何回もしゃべることはあるよ。息子やまさみちゃんだけじゃなくて、知り合いにも、「その話、この前も聞きましたよ~」って言われることもある。
まさるさん
あるあるだな! 俺も同じ話をよくするよ
ただね、コージーさんも言う「その話、聞いた」という言葉はどうだろうね。昔の俺なら自尊心が傷つくし腹も立ったよ。だけど、最近は、「ああ、またやってしまった! 失敗したなぁ…」と、反省するようになったの。
俺は言葉で言われると傷つくから、態度で示してほしい。だから、親父さんが同じ話をした時は、ニヤッと笑って「ふふーん」って顔をしていればいいんじゃないかな。言葉で言わなくても、その顔を見れば「またやってしまった」と自分で気がつくこともあると思うよ。
まさるさん
親子でも「他人である」ことを忘れちゃいけないよ!
親子円満の秘訣は、たとえ親子であっても一線を引いておくことだね。家族といえどもやっぱり他人なんだから、なんでもかんでも話していいわけじゃない。相手の心に土足で入っちゃダメなんだ。
親のほうだって同じ。息子夫婦と同居するようになって俺が決めたのは「親風を吹かせちゃダメだ」ということ。
「育ててやったんだからこうしろ」「親だから言うことを聞け」みたいな考え方は絶対に持っちゃダメだ。親子の前に、それぞれひとりの人間だということを忘れてはいけないよね。
「お嫁さんとうまくやるには?」って、よく聞かれることにも繋がるんだけど、俺はまさみちゃんの家族や親戚のことには絶対に口を出さないと決めている。
家族のもめごとや愚痴は、ちょっと口をついて出たら何倍にも膨らんでしまうこともあるからね。一杯飲んで、今日のうちに忘れるっていうのが俺のやり方だな。
まさるさんの人生晴々!【まとめ】
「料理が不安なら言葉にして安全確認を! 一方で、家族円満には言葉にしないほうがいいこともある」
悩みを吹き飛ばす”うまい”一品「夏にぴったりの和えもの」
まさるさんに冷蔵庫にあるもので手軽に作れる小鉢を教えてもらった。おつまみに、副菜に、もう一品欲しいときにぜひ!
たこときゅうりとみょうがの和えもの
【材料】(2人分)
きゅうり…大1本(130g)
みょうが…2個
ゆでだこの足…100g
塩…ふたつまみ
【A】
ナンプラー…小さじ1
ごま油…小さじ1
こしょう…少量
【作り方】
【1】きゅうりは乱切りにし、ボウルに入れて塩を振り、10分置いて水気を絞る。
【2】みょうがは縦半分に切ってから縦薄切りに、たこは乱切りにする。
【3】ボウルに【1】、【2】を入れ、Aを加えて和える。
「きゅうりは塩を振ってしんなりさせてから作るとうまい! たこの旨みを引き出すために、隠し味にナンプラーを使ってみた。みょうががさわやかなアクセントになって、暑い日でもさっぱり食べられるよ」
お悩みに答えるまさるさんは豪快だが、小鉢に盛り付けをするときの所作はとても繊細で、料理をする姿は凜としていた。
――次回のお悩み相談もお楽しみに!
撮影/菅井淳子 取材・文/岸綾香
●91才の料理研究家小林まさるさんが語る戦争体験「樺太の少年時代、命がけで食糧を求め、氷点下の川で鮭を獲った」