「突然始まる介護の備え」看護師でケアマネの神戸貴子さんがダイソーのエンディングノートを愛用する理由
離れて暮らす自分の親や義理の親――介護は突然やってくる。介護の基本は介護する側が自分の生活を守ることだ。移動で疲弊したり金銭的な面で困窮すると、介護うつを引き起こしかねない。介護で疲弊しないためにも、介護が始まる前に知っておきたい心構えや困難の乗り越え方、自分が介護をされる側になる前にやっておきたいことを経験者に聞いてみた。
教えてくれた人
神戸貴子さん/看護師、ケアマネジャー。N.K.Cナーシングコアコーポレーション合同会社、遠距離介護支援協会代表。介護、育児をサポートするサービス「わたしの看護師さん」を運営している。
太田差惠子さん/介護・暮らしジャーナリスト。仕事と介護の両立や介護とお金、遠距離介護などをテーマに執筆、講演。著書に『親の介護で自滅しない選択』(日経ビジネス人文庫)ほか。
工藤広伸さん/介護作家。自身の介護経験を綴ったブログ『40歳からの遠距離介護』が話題に。著書に『親が認知症!? 離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)ほか。
自分が倒れて介護が必要になる前にしておいた方がいいことは?
介護は突然やってくる分、常に起こる可能性のあるトラブルを想定しておく必要がある。
「老老介護をしている人も多いですし、40~50代で介護している人もいます。いまは介護している人が元気でも、いつ病気で倒れて介護される側になるかはわかりません。
残された人は、複数の介護をすることになるので、金銭面や治療方針、退院後の生活拠点をどうするかなど、さまざまな選択を迫られることになり、大きな負担を背負うことになります。
そんなときのために、私は30~40代でもエンディングノートを書くことをおすすめしています」(鳥取県で看護師・ケアマネジャーをしている神戸貴子さん・以下同)
エンディングノートにはつきあいのある人たちの連絡先、かかりつけ医、自分が亡くなったときにパソコンのデータやSNSはどうしてほしいかなど細かく書いておくといい。
「私が愛用しているのはダイソーの『もしもノート(じぶん)』です。病気になって回復が見込めないときにどうしたいか、連絡する人の名前とその人との関係まで書き込めて、110円で買えるとは思えないクオリティー。エンディングノートは元気なうちから書き始めましょう」
シチュエーション別!知っておきたい介護のポイント3選
突然起きる家族の介護。離れている家族の介護だけでなく、別居中の両親や子供のいないきょうだい、未婚のおじ、おばなどを同時に介護する「多拠点の介護」や、親を介護している間に配偶者が倒れてしまい、どちらも介護が必要になる「同時多発介護」が社会問題になりつつある。困難に立ち向かうためにはどうしたらよいのか。介護経験者のアドバイスを紹介する。
【1】遠距離介護の場合
「認知症の親と離れて介護することは、親にとっても悪いことばかりではない」と介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんは言う。
「近くに住んでいる人が介護している場合、何でも手を出しすぎて、親は何もしなくなり、かえって認知症の症状が進んでしまうことがあります。
一方、遠距離介護の場合は子供がそばにいないので、親はデイサービスなどの介護保険サービスを拒否することなく利用してくれ、なおかつ買い物や料理なども自分でこなそうとがんばるため、それが認知症の進行を遅らせたり、筋力を保つことにつながるケースもあるので、悪いことばかりではないんです」(太田さん・以下同)
【2】同時多発介護の場合
親の介護をしているときに、配偶者が倒れて介護が必要になった。そんな複数の人を同時に介護することになった場合に、頼れるのは地域包括支援センター(以下、包括)だ。
「包括は、細かな相談にものってくれます。とにかくできないことはできない、無理なことは無理と正直に伝えて力を借りましょう」
【3】多拠点介護の場合
「別々の地域に暮らす人たちを同じ時期に介護することになったら、とにかく親戚一同を巻き込むしかない」と、神戸さんは言う。
「いとこなど普段連絡を取っていない親戚でも、近くに住んでいる場合は、緊急事態が起こったら、駆けつけてもらうようにお願いしておきましょう」
ただ、これは親類縁者との関係が良好であることが前提だ。
「介護が始まって、いきなり『頼みます』ではもめる原因になるのは当然です。できれば、多拠点で介護が必要になる可能性が見えてきた段階で、その人たちが元気なうちに連絡を取り、頼れる人たちをリストアップして良好な関係を築いておくことも必要です」(神戸さん)
取材・文/廉屋友美乃 イラスト/田中斉 写真/PIXTA
※女性セブン2024年4月25日号
https://josei7.com/
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