「母親の有料老人ホーム代が毎月40万円」長引く介護の費用をどう捻出したらいい?実例相談をもとにFPが解説
介護はいつまで続くかわからないだけに、介護費用もどのくらい用意しておけばいいのか漠然とした不安を感じる人も多いのではないだろうか。「80代の母親の有料老人ホーム代などで毎月40万の赤字、これがいつまで続くのか」というリアルな相談事例をもとに、介護費用の捻出法や対策について、ファイナンシャルプランナーで行政書士の河村修一さんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、内外資系の生命保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/
相談事例:いつまで続くかわからない親の介護費用が心配
介護は突然始まることが多く、そしていつまで続くかわからないものです。よく言われるのは、育児と違って介護は終わりが見えないこともあり、「一体いくらお金がかかるか不安…」ということ。こういったご相談は、実際、私のところにもよくあります。
50代のAさん(娘さん)からのご相談も「親の介護費用がかかって毎月赤字。いったいいつまで続いてどのくらいかかるのか心配」というものでした。
82才のお父様、80才のお母様、夫婦で年金額は年間約300万円強あります。また、預貯金約500万円と、すぐに売却できそうなご自宅が資産としてあります。
現在、要介護5のお母様はすでに有料老人ホームに入居中で毎月約40万円の利用料がかかっています。お父様は現在ご自宅に暮らしていますが、今後は自宅を売却して、ケアハウスに入居を希望されています。
月約40万円の支払いと生活費を合わせると、月々20数万円の赤字で、親の預貯金から取り崩して支払いをしている状況です。
いくつかのパターンで介護費用を試算してみる
元気だったお母様は入居中の老人ホームが合っていないようで日に日に元気がなくなっているそうです。
そこで、Aさんは、お母様が気に入った有料老人ホームを探し、転居させたいという強いご希望がありました。入居費用は以前より5万円ほど安くなるとのことでした。
介護にかかるお金は、キャッシュフロー表を作成して“見える化”することで、ある程度先々のお金のことを把握できるようになるので、おすすめしています。
まずは、Aさんのお母様が以前よりも5万円安い老人ホームに転居した場合について考えてみましょう。
月35万円(年間420万円)の施設費用と父親の生活費を加えると、年間約550万円の支出が続きます。
キャッシュフロー表を作成してみると、月40万円から35万円の有料老人ホームに転居したとしても、2年後には預貯金は枯渇し、後は赤字が大幅に増えていくだけということがわかります。
父親がケアハウスに入居後、自宅の売却をした場合
父親はケアハウスの入居を考えているため、Aさんはその後、自宅を売却することを検討されていました。
ご自宅が3500万円で売却できたと想定すると、ご両親の施設介護代(父親10数万円、母親35万円/年間約550万円)がかかったとしても、資産寿命を約12年延ばすことができます。
介護は終わりが見えないとはいえ、自宅などの資産を売却できると考えれば、気持ちに余裕が生まれることもあります。
しかし、資産寿命が伸びたとはいえ、その後の介護期間はどのくらいになるのかということも気になります。
客観的なデータから介護期間と費用の目安を考える
介護はどのくらい続くのか――介護の終わりとは要介護者との別れを意味し、悲しみを伴うものです。とはいえ、介護状態が続き長く生きるほど介護費用がかかるのも事実。
個々の状況や医療環境の進歩などにより、介護期間は予測できるものではありませんが、Aさんの「介護費用はいつまでかかるのか」という相談に対して、公的な機関などの客観的なデータを用いて、考えてみましょう。
介護期間はいつまで続く?
生命保険文化センターの調査によると、介護を始めてからの期間(介護中の場合は経過期間)は平均61.1か月(5年1か月)となっています。
介護期間は「4年以上~10年未満」が31.5%と最も多く、次いで「10年以上」が17.6%となっており、ともに前回の調査より期間は伸びています。最低でも介護期間を4年以上で見積もり、10年以上続くことも念頭に入れておく必要があるでしょう。
※生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」
https://www.jili.or.jp/files/research/zenkokujittai/pdf/r3/sokuhoubanR3.pdf
施設に入所している日数はどれくらい?
厚生労働省の資料によると、介護老人福祉施設(以下、特養)の入所者の平均在所期間は、約3.5年となっています。特養は、有料老人ホームと同じ「終の棲家」で、原則、要介護3以上のかたが入居する施設です。
Aさんのお母様は要介護5ですが、この調査をふまえると、入所者の平均年齢なども踏まえておおよそ4年程度は続くと考えておくといいでしょう。
※社保審-介護給付費分科会「 第183回(R2.8.27)介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000663498.pdf
平均余命はどのくらい?
厚生労働省の「令和4年簡易生命表の概況」から、平均余命を考えてみましょう。平均余命とは、「ある年齢の人が平均あと何年生きることができるか」をあらわしたデータです。 平均余命は、0才の男性は81.05年、女性は87.09年となっています。
80才のお母様の場合、女性の「平均余命」は11.74年で約92才と見積もることができるでしょう。
※厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況・主な年齢の平均余命」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life22/dl/life22-15.pdf
介護期間は余裕をもって資金の準備を【まとめ】
Aさんは、お母様の年齢、介護状況、主治医の見解などお母様自身の状況のほか、客観的なデータなどから総合的に判断して概ね10年分の資金は必要と考え、資金計画を立てることにしました。
介護がいつまで続くのかは誰にもわかりませんが、介護期間を短めに見積もって資金不足になるのが最も注意が必要です。
私の両親の場合は、母親は60才で要介護3に認定され、約10年後に要介護5、介護期間はトータル約17年間に及びました。
一方、父親は70代後半で要支援を受けてから徐々に介護度が上がり要介護2と介護期間は約6年でした。
<介護費用キャッシュフロー表>クリックするとエクセル版がダウンロードされます
※介護の経過年数・収入・支出・預貯金を入力するとグラフに反映されます。
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前述の通り、介護期間は人によりそれぞれですが、終わりが見えないからこそ、ある程度続くことを念頭に入れ、資金がショートしないように考えておきたいものです。
漠然とした不安を抱えているなら、見える化シートを活用するなどして、少し先の状況をわかっておくだけでも、今後取るべき対策が見えてくるかもしれません。ご紹介したデータを参考にしてご自身で納得できる介護資金の計画を立ててみてはいかがでしょうか。
※記事中では、相談実例をもとに一部設定を変更しています。
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