<介護費用のお悩み実例>「一緒に暮らしていない母親の医療費がかさむ」娘は医療費控除を受けられるのか【FP解説】
一緒に暮らしていない高齢の母の入院費用や医療費、ショートステイなどの利用料もかさむ…。母親とは一緒に暮らしていない娘さんから「医療費控除は利用できる?」という相談を受けたファイナンシャルプランナー・行政書士の河村修一さん。実例をもとに、医療費控除の仕組みについて解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、複数の保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/
相談事例:離れて暮らす母親の医療費控除について
50代半ばの娘さん(以下、Aさん)からのご相談です。
80代前半のお母様は1人暮らしで、Aさんと一緒に暮らしていません。お母様は、少し前から軽い認知症を患っており、ある日突然、自宅で転倒して入院されました。
現在、要介護1と認定され、ショートステイ(短期入所生活介護)等を利用しています。
Aさんは「別居の母親の医療費控除は受けられるかどうか?」についてご相談に来られました。
Aさんは、お母様に生活費を毎月送金しており、医療費も支払っているそうです。この場合、娘のAさんは、医療費控除を活用できるのでしょうか。
医療費控除とは?
病気やけがなどで医療費を支払った場合、その支払った医療費が一定額を超えたときに、所得控除を受けることができ、これを医療費控除といいます。
なお、医療費控除には、通常の医療費控除のほか、医療費控除の特例(セルフメディケーション税制)があり、重複して活用することはできません。
以下で、通常の医療費控除について解説します。
【1】医療費控除の対象者
その年の1月1日から12月31日までの間、納税者が、「納税者本人」、「生計を一にする配偶者」、「生計を一にする親族」のために支払った医療費が対象になります。
■「生計を一にする」とは?
「せいけいをいつにする」と読みます。同居が要件ではなく、別居していても常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には、「生計を一にする」ことになります。
※参考/国税庁「生計を一にする」の意義
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180_qa.htm
Aさんの場合、お母様とは別居しているものの、毎月生活費を送金しているので、「生計を一にする親族」に該当します。
つまり、Aさんは医療費控除を受けることができるというわけです。
【2】対象となる医療費
医療費控除の対象となる医療費とは、診療や治療を受けるために直接必要な費用です。
■医療費控除の対象となるもの(例)
・医師または歯科医師による診療や治療の対価
・人間ドック代(重大な疾病が発見され、治療をした場合)
・レーシック手術の費用
・電車、バス等による通院費
・1人で通院できない子供や患者の付添人の交通費
・病院に支払う入院患者の食事代
・義手、義足、松葉杖、義歯や補聴器等の購入費用
・介護老人保健施設の施設サービス対価
■医療費控除の対象にならないもの(例)
・医師、看護師に対する謝礼金
・美容整形手術の費用
・健康食品、サプリメントの購入代金
・マイカーによる通院に伴うガソリン代や駐車料金等
・入院中の散髪代
・入院患者の親族、知人など付添人の食事代
・差額ベッド代(医師の指示によらないもの)
・インフルエンザの予防接種費用
※病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額が対象
※参考/国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm
Aさんのケース「医療費控除になるもの、ならないもの」
Aさんの場合、お母様が入院したときに、医療費の自己負担分、食事代、おむつ代、病衣代、差額ベッド代がかかっていました。
医療費の自己負担分や食事代は医療費控除の対象となります。
なお、おむつ代は、治療を行っている医師から「おむつ使用証明書」を交付してもらうと対象になります。
Aさんのお母様は退院後、ショートステイ(短期入所生活介護)を利用されています。お母様が、「居宅サービス計画」に基づいて、医療系サービスと併せてショートステイ(短期入所生活介護)を利用されている場合は、居宅サービス費の自己負担額が、医療費控除の対象になります。
一方、対象外となるものは、以下の通りです。
病衣代(パジャマなど)は治療とは直接関係する費用ではないので対象外です。また、差額ベッド代もお母様本人の希望だったため、対象外となります。
※参考/国税庁「短期入所生活介護の居宅サービス費」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/010131/02/08.htm
※参考/国税庁「No.1127 医療費控除の対象となる介護保険制度下での居宅サービス等の対価」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1127.htm
なお、指定居宅事業者が利用者に対して発行する領収証に、医療費控除の対象となる医療費の額が記載されていますので、確認しておきましょう。
医療費控除でどのくらいお金が戻ってくる?
・医療費控除額の計算方法
【A】医療費の実質負担額(その年中に支払った医療費の総額から、保険金等で補てんされる金額を引いた金額)
【B】10万円 もしくは 総所得金額等の5%、いずれか少ない額
【C】医療費控除額(限度額200万円)
【A】-【B】=【C】
上記の計算方法をもとに、Aさんの医療費控除額を考えてみましょう。
Aさんが支払った母親の医療費は、15万円でした【A】。
年収は500万円(会社員、給与所得者、他に収入等なし)で、源泉徴収票より総所得金額は給与所得控除後の金額である356万円になります。10万円と総所得金額の5%(17万8000円)では、10万円【B】のほうが少ない額となります。
Aさんの場合
【A】医療費の実質負担額/15万円
【B】総所得金額/356万円
【C】医療費控除額/5万円
15万円 - 10万円 = 5万円
上記の式からAさんの医療費控除額は5万円となります。
ただし、このまま5万円が戻るということではなく、所得税と住民税が控除されます。医療費控除で税金が安くなる仕組みを、以下で解説していきましょう。
医療費控除はどのように還付されるのか?
医療費控除を受けるためは、必ず確定申告が必要になります。医療費などの領収書をもとに「医療費控除の明細書」を作成し、確定申告書に添付します。確定申告後に、所得税が還付され、翌年の住民税が少なくなります。
ただし、所得税は、所得金額が多い人ほど高い税率を適用して計算されており、医療費控除額が同じであっても、所得金額が多い人ほど還付される金額も多くなります。
なお、住民税の税率は所得に関係なく一律10%のため、医療費控除額の10%にあたる金額が少なくなります。
Aさんの場合は、源泉徴収票より所得控除の額の合計額が130万円でしたので、課税所得金額が226万円となり、課税率は10%なので、確定申告することによって所得税は5,000円が還付金として戻り、翌年度の住民税が5,000円少なくなります。つまり、毎月支払っている住民税が年間で5000円安くなるというわけです。
※国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
※参考/国税庁「No.1000 所得税のしくみ」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1000.htm
※参考/国税庁「No.2260 所得税の税率」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
別居していても医療費控除は使える【まとめ】
医療費控除の対象者は、「納税者本人」、「生計を一にする配偶者」、「生計を一にする親族」のために支払った医療費が対象となっています。
同居や別居、扶養の有無、収入等の条件は関係なく、「生計を一にする」がポイントになります。
対象となる医療費も診療や治療を受けるために直接必要な費用で、治療とは直接関係する費用などでないものは対象外になります。
なお、介護保険サービスを利用したときの自己負担額は、サービスの種類などによって、一部または全部が医療費控除の対象になる場合があります。
介護が必要な人で医療費がかかっている場合はとくに医療費控除を使いこなすことで経済的負担が軽減されるケースがあります。ただし、医療費控除を受けるためには「確定申告」が必要なので、忘れないようにしましょう。
※記事中では、相談実例をもとに一部設定を変更しています。
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