差額ベッド代は払わなくていいケースがある「親の入院費が経済的にキツい」実例相談にFPが解答
「差額ベッド代を支払うのが経済的にキツい」という50代女性からの相談を受けたファイナンシャルプランナーで行政書士の河村修一さん。実は、差額ベッド代は払わなくてもいい場合があるという。相談者と河村さんご自身の父親の実例から、差額ベッド代の支払い時に注意すべきポイントについて、アドバイスいただいた。
この記事を執筆した専門家
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、複数の保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/
相談事例「高齢の親が入院、差額ベッド代が負担に…」
50代半ばの娘さん(以下、Aさん)からのご相談です。80代前半の母親が少し前から軽い認知症を患っており、ある日突然、自宅で転倒して入院しました。その後、要介護1と認定され、現在は退院してショートステイ等を利用されています。
病院の退院時には、差額ベッド代が請求されました。これは支払う必要があったのか、疑問を感じていらっしゃるようでした。また、今後、入院した場合にも支払わなければならないとすると、経済的に厳しいとのことでした。
Aさんの場合、入院時に差額ベッド代についての同意書にサインをしていたため、この場合は支払い義務が生じます。
しかし実は、差額ベッド代を支払わなくていいケースもあります、以下で解説していきましょう。
差額ベッド代とは?
差額ベッド代とは、病院の大部屋などから個室や少人数の部屋を希望した場合、その差額が請求される料金のこと。病院によって料金設定が異なります。
差額ベッド代のことを正式には「特別療養環境室料」といいます。この特別療養環境室は、次の【1】から【4】までの要件※を満たす必要があります。
【1】特別の療養環境に係る病室の病床数は4床以下であること。
【2】病室の面積は1人当たり6.4平方メートル以上であること。
【3】病床ごとのプライバシーの確保を図るための設備を備えていること。
【4】特別の療養環境として適切な設備を有すること。
※厚生労働省の通知(保医発0304第5号令和4年3月4日)より。
差額ベッド代は年々じわっと上昇している
特別療養環境室を利用した場合、1日あたりどのくらい費用がかかるのでしょうか。
厚労省の「主な選定療養に係る報告状況」によると、令和4年では、1日あたり平均で「6620円」かかっています。しかも過去6年間でじわじわと上昇していることがわかります。
■差額ベッド代の推移
部屋|H28年|H29年|H30年|R元年|R2年|R3年|R4年
1人室|7,797|7,837|7,907|8,018|8,221|8,315 |8,322
2人室|3,087|3,119|3,099|3,044|3,122|3,151|3,101
3人室|2,800|2,798|2,853|2,812|2,851|2,938|2,826
4人室|2,407|2,440|2,514|2,562|2,641|2,639 |2,705
合計|6,144|6,188|6,258|6,354|6,527|6,613|6,620
※金額は1日あたり平均徴収額(推計)、単位:円。
差額ベッド代は全額自己負担
さらに、悩ましいのは、差額ベッド代は、高額療養費(医療費の自己負担限度額を超えた分が還付される制度)の対象外のため、全額自己負担となります。入院日数が長期化すると費用負担が重くのしかかってきます。
例えば、令和4年を参考にすると、14日間特別療養環境室(1人室)に入った場合、差額ベッド代として116,508円の全額が自己負担となるのです。
※参照/中央社会保険医療協議会 総会(第548回)会議資料全体版70/212、中央社会保険医療協議会 総会(第466回)会議資料全体版324/339
【重要!】差額ベッド代を支払わなくてもいいケースがある
差額ベッド代に関する厚生労働省からの通知によると、
「特別の療養環境の提供は、患者への十分な情報提供を行い、患者の自由な選択と同意に基づいて行われる必要があり、患者の意に反して特別療養環境室に入院させられることのないようにしなければならないこと」とあります。
また、差額ベッド代の負担を求めてはいけない場合として、以下のような具体例が挙げられています。
【1】同意書による同意の確認を行っていない場合
【2】患者本人の「治療上の必要」により特別療養環境室へ入院させる場合
【3】病棟管理の必要性等から特別療養環境室に入院させた場合であって、実質的に患者の選択によらない場合
「病院側の事情で本人が希望していない」
上記【3】の具体的には以下のような例※があります。
「MRSA等に感染している患者であって、主治医等が他の入院患者の院内感染を防止するため、実質的に患者の選択によらず入院させたと認められる者の場合」
「特別療養環境室以外の病室の病床が満床であるため、特別療養環境室に入院させた患者の場合」
上記のような具体例から、大部屋が満床で空きがないという理由から、「本人が希望もしていない差額ベッド代を請求してはならない」と読み取ることができます。
「明確な説明がない」「他の病院をあたるように言われた」
また、厚労省※から次のような不適切な事例としても紹介されています。
特別療養環境室以外の病室の病床が満床だった場合、
「特別療養環境室の設備構造、料金等についての明確な説明がないまま、同意書に署名させられていた」
「入院の必要があるにもかかわらず、特別の料金の支払いに同意しないのであれば、他院を受診するよう言われた」
このようにしっかりとした説明がないまま差額ベッド代が請求されている事例もあるので注意が必要です。
※参考/厚労省「疑義解釈資料の送付について(その6)平成30年7月20日」、厚生労働省の通知(保医発0304第5号令和4年3月4日)。
病院から差額ベッド代の同意を求められたときの対処法
Aさんのように親が突然入院して、気が動転しているなか、しかも、病院側から病状の説明や多くの書類を渡されている状況下において、上記の厚労省の通知などを冷静に思い出すことができるのでしょうか。
実際に、私自身も親が突然入院したときに気が動転している中で、次のようなことを言われました。
「個室に入ることに同意しないのであれば、どこか他の病院を探されるのですか?」
一瞬、私自身、頭が真っ白になりました。まずは、経済的な理由で個室を希望しない旨を伝えたうえで、ようやく厚労省の通知を思い出し、確認を求めました。
その結果、翌日、差額ベッド代は「必要なし」となりました。
当時、担当のかたから言われたのは、差額ベッド代が不要になるのは「感染症の場合」のみで、大部屋が満床で個室に入る場合には、差額ベッド代が必要になると誤って認識していたとのことでした。
このように医療関係者でも正確な情報を把握していな場合があるため、差額ベッド代を支払いたくない場合には、まずは、「個室を希望しない」ことを伝えましょう。そして、差額ベッド代に対する同意書はすぐにサインをせず、翌日に持ち越すなどして、まずは、病院側に厚労省の通知を確認してもらうといいでしょう。
差額ベッド代は払わなくていいケースがある【まとめ】
入院したときの費用のうち、医療費は、高額療養費制度により自己負担額の上限が決まっていますが、その他に実費で支払わなければならない費用もあります。たとえば、食事代やおむつ代等は、入院日数や頻度等によって変わってきます。さらに個室を希望すれば、差額ベッド代が必要となり、入院が長期化すれば経済的負担は重くなります。
突然の入院で気が動転しているときに、冷静に入院時の書類を丁寧に読み込むことは難しいでしょう。個室を希望しない場合は、はっきりと病院側にその旨を伝え、同意書にサインをその場でせずに、ぜひ厚労省の通知について確認してもらうことをおすすめします。