認知症が進行する母の「カレーライス」の不思議な食べ方 息子が考えた盛りつけの工夫と対策
岩手・盛岡で暮らす認知症の母を東京から通いで介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。毎月2週間ほど実家に滞在して母と過ごし、食事を共にしているが、認知症の進行とともに「食べ方」を忘れてしまうことが増えてきた。あるとき母と一緒にカレーライスを食べていたら、母が不思議な食べ方をして―――。認知症介護における食事の工夫と対策を教えてもらった。
執筆/工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(80才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。
著書『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)など。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442
認知症の母が「食べ方」を忘れてしまう
母の認知症が進行してからは、食事中にお皿を片付けながら食べるようになりました。以前、ブログや介護ポストセブンの記事にも書いたのですが、母と食事をする際、盛り付けや配膳でいくつかの工夫をしています。
例えば餃子を食べるために用意した酢醤油の皿を、母がほうれん草のおひたしにかけてしまうので、あらかじめ餃子にかけた状態で出すようにしています。
また、刺身で使い終わったわさび醤油を残しておくと、必要のない料理にまでつけて食べるので、すぐに片づけるようにしています。
→認知症の母との食事中に息子がお皿を片付けながら食べるようになった3つの理由
認知症の症状のひとつである「失行」は、パターンや順序など覚える必要がある作業を行う能力が失われることを言います。
母が餃子の食べ方を忘れてしまったのも、麺つゆを使わずにそうめんを直接食べてしまったのも、パンに塗るジャムを目玉焼きに乗せてしまったのも、すべて失行が原因だと思っています。
そして問題は「カレーライス」。失行を防ぐために、どんな工夫をしているのでしょう?
母と一緒にカレーを食べる機会が多い理由
私が帰省するときはカレーが食卓に多く登場します。母はひとりのときにもご飯を3合も炊いて残してしまったり、賞味期限の管理ができずに野菜を腐らせてしまったりするため、カレーにすればご飯や食材をたくさん消費できるからです。
かつて料理が得意だった母ですが、今はほとんどできません。代わりにわたしが料理をするようになったので、ご飯や野菜が余ることはなくなったのですが、介護のほうが忙しくなってきたため、週1回はレトルトカレーも活用しています。
カレーが多くなるもう1つの理由は、ワンプレートで提供できるからです。皿数が増えてしまうと、母は混乱します。
母:「わさびは何に使うの? この酢醤油はどれに使うの?」
ひと口食べるたびに質問されるので、母もわたしも落ち着いて食事ができません。ワンプレートであるどんぶりやカレーなら、迷うことなく目の前の食事を口に運べばいいので、自然とカレーが多くなっていきました。
カレーなら安心して食事ができると思っていたのですが、母はわたしの想像を超える食べ方を始めたのです。
認知症の母のカレーの不思議な食べ方
わたしは皿の半分にご飯を盛って、もう半分にカレーのルーを盛ります。母は福神漬けが好きなので、ご飯の横に添えればカレーは完成です。
お店もこの盛り付け方で提供されるケースが多いので、同じようにしていたのですが、どうやらこの盛り付け方がよくなかったようです。
母はご飯だけを食べ進めてしまい、残ったルーをスープのように飲みました。おそらくスプーンでご飯とルーを混ぜながら、食べる手順を忘れてしまったのだと思います。
また別の日は福神漬けをご飯のお供にしながら食べ進め、またルーを残してしまいました。不思議な食べ方を見たわたしは、
わたし:「ちょっと!カレーの意味ないでしょ!たくあんをおかずに、ご飯を食べているみたい」と声を荒げてしまいました。
母にとって福神漬けは、カレーの付け合わせではなく、ご飯のお供の漬物だったのでしょう。だから、こんな不思議な食べ方になってしまったのだと思います。
いずれも命に関わる話ではないのですが、せっかく用意したカレーを母においしく食べてもらいたいので、わたしはカレーの食べ方について母に伝えてみました。
わたし:「スプーンを使って、こうやってご飯とルーを混ぜて、ちょっと福神漬けを添えて食べるとおいしいよ」
母:「あら、そうなの?」
母にカレーの食べ方を繰り返し伝えたのですが、認知症は重度まで進行しているので、教えてもすぐに忘れてしまいます。何かいい方法はないかと考え、ある工夫をしてみたのです。
母のために考えた新たなカレーの盛り付け方
今まではご飯とカレーのルーを分けて盛っていましたが、始めからご飯の上にルーをかけた状態で提供してみることにしました。
さらに福神漬けは、添えるように盛り付けるのではなく、ご飯全体にパラパラとかけ、その上からルーをかけるようにしたのです。
この盛り付け方なら、母がスプーンでどこをすくっても、ご飯とルーと福神漬けを一緒に口の中へ運べます。ただ福神漬けは見えないので、不思議に思ったのでしょう。
母:「このパリパリとしたものは、何なの?」
わたし:「福神漬け」
不思議な食べ方をしていた頃と比べて、母はカレーが好きになって、完食してくれるようになりました。
「カレーライス」か「ライスカレー」か?
母はカレーライスの名前が出てきませんが、たまに思い出したときには「カレーライス」ではなく、「ライスカレー」と言います。
わたしが小学生だった40年くらい前は、たしかに「ライスカレー」と言っていた記憶もあったので、久しぶりに聞く呼び方だなぁと思いました。おそらく直近の記憶よりも、昔の記憶のほうが鮮明なので、母は突然「ライスカレー」と言い出したのだと思います。
気になってインターネットで調べたところ、一説では日本に伝わった明治時代は「ライスカレー」と呼ばれていたけど、次第に「カレーライス」に呼び方が変わっていったようです。
これからも母が安心して完食できる、カレーの盛り付け方を意識したいと思います。余裕があるときには、手作りのカレーを作って食べてもらうつもりです。
今日もしれっと、しれっと。
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