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認知症の母との食事中に息子がお皿を片付けながら食べるようになった3つの理由

 作家でブロガーの工藤広伸さんは、岩手盛岡に暮らす認知症の母を遠距離介護している。ここ数年で認知症の症状がじわじわと進み、「食べ方」を忘れてしまっているようだ。食卓の工夫をしているが、最近では、母と一緒に食事をするときには、お皿を片づけながら食べるようになったという。食べ方を試行錯誤してきた工藤さんがたどりついた対策とは?

認知症の母と食事をするときの工夫

 母と一緒に食事をする際には、いろいろと注意が必要です。

 例えば餃子を食べるために用意した酢醤油の使い方を忘れてしまって、ほうれん草のおひたしに使ってしまいました。餃子をどう食べたらいいのか、分からなくなってしまったようです。

 認知症の症状の中には「失行※」があって、箸やスプーンの使い方が分からなくなったり、料理の食べ方が分からなくなったりする方もいます。身体的な機能の衰えが理由ではなく、一連の動作を忘れてしまうために起こります。

※パターンや順序などを覚える必要がある作業を行う能力が失われること。

 今年の夏に、そうめんの皿とめんつゆの入った器を分けて提供したのですが、母はそうめんの食べ方を忘れてしまっていて、そうめんの皿につゆを全部かけて食べようとしました。

 また、母が混乱しないようにするため、複数の料理を一度にテーブルの上に並べるのではなく、コース料理のように1品ずつ出す日もあります。最初からフルーツやデザートも並べてしまうと、そちらから食べてしまって、おかずを残してしまうこともあるからです。

 料理の食べ方や順番が違っていたからといって、命に関わるわけではありません。母ひとりのときは自由に食べていますが、せめてわたしが一緒に居るときぐらいは、一般的な食べ方を思い出して欲しいと思い、工夫を重ねています。

 最近は料理を食べ終わった皿を、母の見えない場所へ片づけながら食べるようになりました。なぜそのような手間が必要になったのでしょう? 3つの理由をご紹介します。

品数に圧倒されてお腹がいっぱいになるから

 1つ目は、母が食事を完食しなくなるからです。

 ワンプレート化やコース料理のような食事の提供を、毎回できるわけではありません。テーブルに並んだ料理の品数が多いと、母は見た目だけでお腹いっぱいになってしまうようです。

母:「わたし、こんなに食べられないかも」

 そう思ってしまうと、母の食事は進みません。食べるのを途中で諦めてしまいます。しかし2時間ほどすると母は、

母:「あれ? わたし夕ご飯食べたかしら?」

 と、お腹が空いた様子で、「何か食べたい」と言い出します。

 かといって、食べかけの皿がテーブルの上に多く残っていると、食べるのを諦めてしまう場合もあります。

 そのため母が食べ終わった皿をわたしが片づけていくと、見た目にもスッキリするし、目の前の一皿に集中すればいいので、最後までご飯を食べてくれます。

皿の片づけを始めてしまい食事に集中しなくなるから

 2つ目は、母自身が食べ終わった皿を片づけ始めてしまって、そちらに集中するがあまり食事を疎かにしてしまうからです。

 若い頃の名残なのか、母は食卓をきれいに保ちたがります。食後であればありがたいのですが、食事中に食べ終わった皿を重ねて、台を拭き始めるのです。そして、最後まで食事をせずに、そのまま片づけ始めてしまいます。

 完食しないと、「わたし、ご飯食べたかしら?」と食べたことを忘れてしまうので、そうならないために、わたしが先手を打って食べ終わった皿を片づけていくというわけです。

 母の目の前に片づける皿がないと、食事に集中してくれるのでなんとか完食してもらえます。

料理の食べ方を忘れてしまっているから

 3つ目は、残っている皿が多いと料理の食べ方が分からなくなり混乱するためです。

 例えば刺身用のわさび醤油を残しておくと、味がついていて醤油をつける必要のない料理にまで、わさび醤油を付けて食べようとします。まるで取り皿のような感じで、肉じゃがに、餃子に、わさび醤油を付けてしまうのです。

 刺身を食べ終わったらわさび醤油の皿を片づけておけば、使うことはありません。母が混乱しないよう、食卓は常にシンプルにしておかなくてはなりません。

自分は落ち着いて食事ができなくなってしまった

 このように母の食事の様子を常に観察していないといけないので、わたしはゆっくり食事ができなくなってしまいました。

 そのため、疲れた日は丼ぶりやカレーライスなど、器が1つで済む料理を提供しています。そうすると母も混乱せずに食事ができますし、完食率も高くなります。

 工夫を重ねた結果、なんとか母は快適に食事ができているのですが、もっと大きな問題は、介護者のわたしのレパートリーの少なさです。たくさんの品数を提供できるほど、料理ができないのです。

 手の込んだ料理はカレーライスぐらいで、あとは魚を焼いたり、冷凍餃子を焼いたりするくらいしかできません。認知症になる前に母が作っていた料理のレベルには、到底及びません。

 母はまだ箸を使って自分の力で食事ができているので、あれこれ言わずに食事を楽しんで欲しいと思っているのですが、一方できちんとした食べ方を思い出して欲しいという思いもあり、日々葛藤しています。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

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