息子が認知症の母のために何度もカレーを作る深い理由
盛岡に住む認知症の母の介護を、東京から遠距離で続けている工藤広伸さん。父、祖母の介護経験もある。サラリーマンだった工藤さんは、介護離職し、現在は自身の介護経験を書籍、ブログなどに執筆し、介護にまつわる様々な情報を広く発信している。
ひと月の3分の1は盛岡の実家に帰り、母と暮らす工藤さん。盛岡では、自ら調理し、もともと料理上手だった母にふる舞うことも増えてきたという。食卓によく登場するのは「カレー」だ。
工藤さんが、たびたびカレーを作るのには理由があるのだが、それは認知症介護と大きな関わりが…。
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男性介護者で特に苦労するのが、家事全般です。掃除や洗濯が苦手という方や、料理が苦手という方もいます。
わたしも男性介護者ですが、掃除や洗濯は苦になりません。フリーランスで家に居る時間が長いわたしのほうが、妻よりむしろ、部屋・トイレの掃除、洗濯(妻の分も含め)をしているくらいです。
しかし、料理は苦手です。自分ひとりで食べる料理は作ることができても、誰かに食べてもらうレベルの料理を作ることはできません。それでも、料理のレシピサイトを見ながら料理をすれば、母に食べてもらえるレベルにはなります。
母の認知症の進行とともに、わたしが母のために料理をする機会が増えてきました。その中でも、よく作る料理がカレーです。
なぜ、わたしはカレーをよく作るのか?認知症介護にも深く関係しているお話です。
母が冷蔵庫にある野菜の管理ができない
認知症の母は、冷蔵庫の中にある野菜、卵、牛乳、調味料などの賞味期限の管理ができません。
卵や牛乳、調味料に関しては、賞味期限の日付が書いてあるので、わたしが定期的に廃棄をしているのですが、野菜に関しては日付がないので、目視や匂いで判断することもあります。
特にタマネギ、ニンジン、じゃがいもなどが冷蔵庫に残っていることが多く、わたしはそれらを捨てるか食べるかで、いつも悩みます。
生の状態では食べられない、でも、煮込んだり、カレーにしたりしたら、食べられるかもという考えから、カレーを作って、冷蔵庫の整理をしています。
母がご飯を炊きすぎて炊飯器の中でカピカピになってしまう
母に米を炊くようにお願いすると、必ず3合分の米を研ぎます。
「親子2人で3合食べるのに、3日はかかるよ」「毎日少しずつ米を炊いたほうが、炊き立てを食べられるからおいしいよ」と、母に6年間言い続けたのですが、「3合の米で炊かないと、おいしく炊きあがらない」と信じて疑いません。
初日はおいしいご飯を食べることができても、10年前以上前の炊飯器で保温したご飯は、時間経過とともに、状態が悪化します。2日目からはカピカピのご飯になり、3日目は硬すぎて食べられず、捨ててしまうことすらあります。
認知症の母の行動は変えられないので、わたしはカピカピのご飯にカレーをかけて、食べています。正直、あまりおいしいとは言えませんが、白飯としてご飯を食べるよりも、ましなので、わたしがカレーを作る機会が増えています。
先日、わたしのTwitter(@40kaigo)に、「ご飯を冷凍するといいですよ」というアドバイスを頂き、そんな当たり前のことに気づいていなかった自分に驚きました。
母がルーを入れる分量の目安がわからなくなった
料理が得意だった頃の母の作るカレーは、わたしにとって日本一のカレーでした。しかし、認知症が進行するにつれ、2人分のカレーを作るための分量が理解できなくなってしまいました。
特にカレーの「ルー」の分量が分からないようで、母にカレーを作ってもらったときは、カレールー1箱まるごと、鍋に投入してしまいました。ルー1箱は10人分、なのに野菜や水は4人分だったので、ドロドロのカレーが完成しました。
それからというもの、わたしがカレーを作ることになったのですが、適量のカレールーを準備さえしておけば、母も通常のカレーを作ることができます。
母が「カレーは久しぶり」と必ず言う
賞味期限の切れた野菜と余ったご飯の両方があった場合、カレーでごまかすことが多いです。わたしと母で生活しているときは、野菜の賞味期限もご飯の量もうまくコントロールできるのですが、母がひとりで生活している期間は、コントロールできません。
その調整のために、わたしがカレーを何度も作ることになるのですが、母は決まって「カレー食べるの、久しぶりじゃない」と言います。
もし母が認知症でなかったら、「あんた、またカレーなの?」と文句を言うはずです。しかし、カレーを食べたことを忘れてくれるので、簡単に作ることができるカレーを作ってしまいます。
母がデイサービス帰りは疲れている
母はデイサービスから疲れて帰ってくるから、わたしが料理をするという理由もあります。
疲れている日に母に料理をさせるのもなぁ・・・という思いから、簡単なカレーを作る機会が増えています。
母がいずれ料理を全くできなくなる
母の料理のレパートリーは、全盛期の1割程度です。その1割も、あと何年維持できるか分かりません。いずれヘルパーさんに料理を作ってもらったり、宅配弁当を利用したりすると思うのですが、わたしも少しは料理を覚えて、母に食べてもらおうと思っています。
本当はもっとレパートリーを増やしたいのですが、面倒になってしまい、ついカレーに逃げてしまいます。
少し焦げていても、少し味がおかしなことになっていても、母は必ず「あらおいしいわね、あんたセンスあるわ」と言ってくれるのが、唯一の救いです。
→関連記事:認知症の母、どんどん料理ができなくなる…現実と受け止め方
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)
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