血管年齢若返り|ゴースト血管を作らない!毛細血管力を高めるストレッチ法
がん、認知症、心筋梗塞、動脈硬化、高血圧、脂質異常症、しわ、骨粗しょう症、薄毛…。私たちを悩ませる病気や老化の原因は、すべて「血管年齢」と関係していることが最新の知見で明らかになりつつある。
裏を返せば、「血管年齢」だけケアすれば、万病を遠ざけられるということだ。
血管が原因で起こる主な病気
本来はしなやかな大動脈や頸動脈などの「血管の壁」は、加齢によって次第に硬くなる。その進行度合いを、「血管年齢」と呼ぶ。最近の研究では、血管年齢は老いるだけでなく、若返らせることができることも、明らかになりつつある。
●脳
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、脳血管性認知症
●目
糖尿病網膜症
●胸部
肺血栓塞栓症、急性大動脈解離、胸部大動脈瘤
●心臓
狭心症、心筋梗塞
●腹部
腹部大動脈りゅう、腎硬化症、急性腎不全、虚血性大腸炎
●胸、脚
閉塞性動脈硬化症、下肢静脈瘤
●その他
急性動脈閉塞症
上記のように、血管が老いることが直接的な原因となり、引き起こされる病気は数多い。それらで命を落とす「血管死」は、日本人の死因の実に4分の1を占める。
血管トラブルで死に直面した経験談
実際に「血管死」に直面した人の貴重な経験談もある。
埼玉県に住む会社員の平川あかねさん(46才・仮名)はフルタイムで働くかたわら、小5、小3の2人の息子の子育てに追われる忙しい日々を送っていた。
「今思えば、職場の健康診断は一応受け、何の異常もなかったので油断していたのでしょう。3食しっかり食べた上、子供のおやつとして買ってきたポテトチップスをつまんだり、夫の晩酌につきあって缶ビールを毎日数本飲んだり…。忙しいから湯船につかることはまれで、ほぼシャワーだけ。車通勤で事務職のため歩くことも少なく、運動も特にしていませんでした」
そんな平川さんは、ある月曜日の朝、みぞおちに突然の激痛を感じて職場で倒れてしまう。救急搬送された病院で告げられた病名は「心筋梗塞」。かろうじて生還したものの、再発に怯える日々だ。
『怖い「血管死」を防ぐ 食事&トレーニングメソッド』(幻冬舎)の著書がある、サクラクリニックの野田泰永院長が解説する。
「生活習慣の乱れにより血管が硬化し、血管年齢が引き上がった結果、発症する動脈硬化も、心筋梗塞を引き起こす1つの要因です。動脈硬化は高血圧とも密接にかかわっており、音もなく忍びよって突然命を奪うことがある。それゆえ血管死は“サイレントキラー”と呼ばれています」
実際、突然死の7割以上は血管に由来する「循環器疾患」が占めている。特に冷えて血管が収縮する冬は、女性にとって大敵。さらに週の初めである月曜日は休日が終わったあとの緊張感から血管もこわばりやすく、特に危険だというデータもある。
なぜ血管年齢の高齢化で命にかかわるのか
どういったメカニズムで血管が人を死に追いやるのか。工藤内科副院長の工藤孝文さんが指摘する。
「血管年齢が高齢化すると、血液の循環が悪くなり、重要な臓器に栄養が届かなくなって死を招く。しかしながら、その直前まで痛みや苦しみといった自覚症状がないのです。だからこそ、普段から自分の血管年齢を把握し、高齢化しないようにケアする必要があります」
それだけではない。血管年齢を若く保てなければ、全身のあらゆる病気に罹患しやすくなることも、最新の研究によって明らかになりつつある。
2018年、フランス国立保健医学研究所が9000人以上の高齢者を対象とした調査では、心臓、血管などの循環器の健康状態が良好な高齢者ほど認知症の発症リスクが低く、認知機能の低下速度も緩やかであることがわかっている。
「つまり、血管年齢が若いほど認知症になりづらいというわけです。脳の末端にいくに従って、血管は細くなり、老化しやすい。そこが根詰まりすれば認知症の原因である『βアミロイド』が排出できず沈着してしまう。つまり、認知症で最も多いアルツハイマー型認知症を発症しやすくなるのです」(工藤さん)
がんとも密接な関係がある。
「血管が老化し、栄養が行き渡らない状態になれば、全身の細胞が不健康な状態になる。細胞の老化はもちろん、新陳代謝のサイクルの中で、新しい細胞をつくる際にエラーが起きやすくなる」(工藤さん)
つまり、がん細胞が生まれる原因の1つになるということだ。
「がんや認知症のほかに、高血圧や脂質異常症も血管年齢の老化に起因します」(工藤さん)
逆にいえば、血管年齢にさえ気をつければそれらの病気を回避できる可能性がぐんと上がるということだ。
ゴースト血管の怖すぎる正体
「血管」というと頸動脈などの太い動脈や、採血でおなじみの腕の静脈が頭に浮かぶ人も多いだろう。しかし、細胞環境に大切な役割を果たしているのは、「毛細血管」である。
金沢医科大学准教授の赤澤純代医師が説明する。
「血管の約9割は毛細血管であり、心臓の血流量の3分の2は毛細血管がまかなっているといわれます。目立たないながら、毛細血管は体のすみずみに栄養素や酸素を送り届け、老廃物を回収している。毛細血管こそ、もっとケアしてあげるべき血管であり、血管年齢の引き下げにおいて、大きなカギを握っているのです」
しかし、気がつかないうちに「血管年齢」の要である毛細血管が消えてしまう「ゴースト血管」と呼ばれる状態になっている人が少なくないというのだ。
「毛細血管の流れが滞り、機能が停止してしまう状態のことを、道路があっても人がいないゴーストタウンになぞらえて『ゴースト血管』と呼びます。医学的には『無機能血管』といい、血管自体はあるのに、中に何も流れていない“さや”のような状態です。血流がなくなった血管の周りにある組織は細胞が消失してしまい、血管年齢の大幅な引き上げにつながります。ゴースト血管は45才くらいから増えていき、60代になると30代の時と比べて毛細血管が30%減少するというデータもあります」(赤澤さん)
“縁の下の力持ち”である毛細血管が消えると、どんな結果が待ち受けているのか。
「病気以外にも、冷えやしわ、骨粗しょう症の原因になるほか、皮膚のターンオーバー(生まれ変わり)に悪影響を与えて、目にくまができたり、肌のキメが失われたりします。また、髪の毛が薄くなるなど、美容面にもさまざまな弊害が表れます」(赤澤さん)