「まだまだ現役でいたいのに若い人に役割を奪われる」と嘆く74才男性に毒蝮三太夫がズバリ辛口の進言「マムちゃんの毒入り相談室」第52回
人は、いくつになっても「自分は役に立つ存在だ」と思いたい。相談者は、長く市民運動に携わってきた74歳の男性。最近、いろんな役割を後輩に“奪われている”と感じている。「まだまだ自分がいないとダメだ」と意気軒高だが、マムシさんは「何事も引き際が肝心だ。これからは自分のために生きればいいよ」と、やさしく肩を叩く。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:市民運動で周囲が年寄り扱いして役割を与えてくれない
10月30日に放送された俺が出てる『徹子の部屋』(テレビ朝日系)は、見てくれたかな。17日に放送する予定だったんだけど、谷村新司さんのご逝去で延期になった。
カミさんとの馴れ初めやら結婚60年を超えても仲良く暮らしてることやら、要はさんざんノロケ話をしてきたんだけど、なかなか評判よかったみたいだ。最近は相手への不満や悪口ばっかりで、堂々とノロケるヤツは珍しいのかもしれないな。実際、俺にとって最高のカミさんなんだからしょうがない。おっと、またノロケちゃったかな。ハハハ。
今回の相談は、74歳の男性からだ。なるほど、年寄り扱いされるのが嫌だって話か。
「若い頃からある市民運動に関わってきました。かつてはメンバーも若く、話し合いにせよ街頭でのビラ巻きにせよ、とても活気がありました。しかし、メンバーはどんどん減っていき、若い人もなかなか入ってきません。
『自分もまだまだがんばらなければ』と思っているのに、最近、いろんな役割を後輩に奪われます。『いつまでも〇〇さんに頼るわけにもいきませんから』と言われますが、自分から見るとまだまだ未熟な後輩に任せるのは不安です。
会議で意見を言っても、『時代が違いますから』と言ってまともに取り合ってくれません。自分にはもう用はないということでしょうか。自分の経験やこれまでの実績は、若い人たちのこれからの活動に役に立つはずなのに、なかなかわかってもらえません。
もう辞めてやろうかとも思いますが、自分がいないとダメだと思っているのに、辞めるのがいいとはどうしても思えません。身の処し方をご教示いただけたら幸いです」
回答:「はっきり言うぞ。このままなら、迷惑な老害まっしぐらだ」
そうか、自分では「まだまだ役に立つ」と思っているのに、周囲はそう扱ってくれないわけか。はっきり言わせてもらうと、残念ながら「潮時」が来たってことだよ。
「そんなことはない」と言いたいかもしれないけど、自分が若かった頃を思い出してみよう。自分たちが始めた活動なんだったら、年長の先輩はいなかったかもしれない。会社でもいいや、70を超えた先輩が「俺はまだまだやれる」「役に立つ話をしてやるから、みんな聞け」と張り切っていたとしたら、どう見えるかってことだ。
これからあなたは、後輩に役割をひとつずつ譲っていくことを考えたほうがいい。何事も「引き際」が肝心だ。これまで頑張ってきて、今なら後輩たちに「頼りになる先輩だったな」と思い出してもらえる。でも、引き際を間違えると「面倒臭い先輩だったな」になっちゃうかもしれない。煙たがられてるのに居座っていたら、迷惑な老害まっしぐらだよ。
今まであなたは市民活動を一生懸命にやって、世の中のため人のために生きてきた部分が多いと思う。これからは自分のために生きてもいいんじゃないかな。利他から利己への方向転換だ。相談の中には奥さんの話は出てこないけど、奥さんがいるんだったら、いっしょに老後を過ごすパートナーを大事にしなきゃ。どうせ今まで、ほったらかしだったんだろ。
そりゃ、あなたから見れば後輩たちは未熟に見えるに違いない。だけど、自分が若い頃だってけっして完璧じゃなかったはずだ。前に俺が20代30代の若いヤツについて批判めいたことをこぼしたとき、カミさんに「あなたの若い時だって、たいして立派じゃなかったわよ」って言われたことがある。たしかにそのとおりだ。
過去は美化されるし、若い頃は自分が見えてない。いいことばっかりじゃなくて、失敗や考え違いだっていっぱいあったはずだ。若いヤツは若いヤツで、あなたがそうしてきたように、あちこちに頭をぶつけたりもがいたりしながらちゃんと成長していくよ。
ミュージックプレゼントのキャスタードライバーの女性だって、昔は地図の本がボロボロになるまで読み込んで、一人前になっていった。でも、今はカーナビを使いこなすほうが大事だ。時代もやり方も変わったんだから、あなたが教えられることはそう多くはない。まったくないとは言わないけど、「自分がいないとダメだ」と思うのは勘違いだ。
いろいろ言っちゃったけど、あなたも10歳以上も年上の俺に「引き際」を諭されるのは、納得いかないよな。もちろん俺だって、常に「引き際」は考えてる。だけど声がかかるうちは、多少なりとも役に立ってるってことだ。時代に迎合するつもりはないし、現役にしがみつく気持ちもいっさいない。世の中のニーズがなくなったら、ただ消え去るのみだ。なんて言いながら、そう簡単にはくたばらないから、引き続きよろしく頼むよ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時台に放送中。87歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊『失礼な一言』(新潮新書)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。