兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第216回 兄の体重減少に財前先生(仮)は…】
食事を一人で摂ることができなくなった若年性認知症の兄。一緒に暮らし生活全般をサポートするライターのツガエマナミコさんは、排せつの世話や片づけに加え、兄の食事介助もしなければいけなくなりました。食が細りやせてしまった兄の体調も気になる中、久しぶりに主治医・財前先生(仮)の受診日がやってきました。
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相変わらずモヤモヤする財前先生(仮)の対応
最近、兄のベランダでの排せつ問題が減ってまいりました。それはベランダの窓の鍵をときどき開けられなくなってきたためだと思われます。それに伴い、ベランダでのお唾吐きも鳴りを潜めております。ところが先日、リビングの自分の椅子で、まるで子供が電車の窓に向かってちょんと座るように、背もたれに向かう姿勢になったかと思ったら、唇を突き出してゆっくりお唾吐きをなさったのです。仰天でした。わたくしには想定できないことだったので、兄のお唾さまが床に落ちるまで見続けてしまったくらいでございます。
認知症の人に怒ってはいけないと、どんな本にも書いてありますが、理不尽だなぁとつくづく思います。もとより兄ぐらいまで進行すると物事の良し悪しがつかないのですから、怒ったところで改善は望めませんし、怒られたという嫌な気持ちが更なる問題行動につながりかねないので、介護者のためにも「怒らない方がいい」と言われるのでございましょう。でもぐっとこらえる度に心身が蝕まれていくような気がしてしまいます。
きっと会社員の方々も日々お仕事で強烈なストレスを感じていらっしゃるでしょうから、介護者が特別ではないことはよくわかっております。「それがイヤなら施設に入れればいい」という逃げ道があるだけ介護は気楽かもしれませんね。ありがたや、ありがたや。
先月のことですが、兄の診察日で「食が細くて4カ月前には体重が64キロだったのに、今は60キロまで落ちました」とご報告すると、こんな感じのお声が返ってまいりました。
「そうですか。でもお兄さんの身長ならそのくらいがちょうどいいんじゃないですか? 前回、幻覚の症状があるとのことでしたが、幻覚の薬に食欲を増進する副作用があるものもありますけど、どうしますか? まぁ、次回まで様子をみて、このペースで体重が落ちるようならちょっと考えましょうか」
こう言われてなんとなくモヤモヤしてしまいました。やっぱりお薬を処方することだけしか考えていないのでございます。でも何を言ってほしいのか?と自問自答すると何も出てきません。
「それは心配ですね」とか「食事介助頑張ってみてください」と言われたいわけではございません。否、そういう慰めを言ってほしいのでしょうか?
ついでに施設入居を考えていることもお伝えしました。そうなっても通院は続けるものでしょうか?と伺ってみますと、「施設にドクターがいるならそちらでいいですし、施設近くの病院に変えてもいいですよ。気分転換に少し遠くても通院を選ぶ方もいらっしゃいます」とのこと。往復2時間の今の病院へ通うのは先々不可能になるのは目に見えております。ただ、病床のある大きな病院の方が何かあったときに入院させてもらえるチャンスが高いとケアマネさんから聞いたことがございます。「何かあったときに」という不確かなもののために歩けるギリギリまで遠くの病院に通うべきかどうか、考えどころでございます。
この夏も猛暑と水害に見舞われた日本列島でございます。世界的にも異変が見られ、「地球も住みにくくなったな」と思っております。その原因は人間の営みがもたらした急速な温暖化もさることながら、宇宙の営みによる地球の変化が影響しているとも言えそうでございます。先日、新聞記事で「大西洋の循環 止まる恐れ」との見出しがございました。海水は、何千年もかけて地球全体を循環する流れがあるそうですが、その中のひとつである大西洋の循環がここ数年弱まっているそうな。研究チームはこのまま進めば、早くて2025年、遅くとも2095年には大西洋循環が止まる可能性が高いとお示しになっております。日本の夏が年々暑くなっているのも無関係ではないでしょう。
海の変化と関係しているかどうかはわかりませんが、天体にも変化が観測されているそうで、空の月は毎年4センチほど地球から離れていっているそうでございます。人が地球に住める時間は限りがあるようですね。
わたくしが地球に住めるのは、あと何年でございましょうか。その前に、これだけはやり遂げたいと思っているのが、兄の施設入居と円周率小数点以下100桁覚えようチャレンジの達成です。
3.1415926535897932384626433832795028841971693993751058209749445923078164062862・・・
はい、76桁まできました。あと24桁! 先が見えてまいりました。達成した暁には、自画自賛で何か自分にご褒美を上げたいと思います。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現64才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ