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兄がボケました~認知症と介護と老後と「第26回 兄がコロナ陽性者になりました」

 ライターのツガエマナミコさんの兄は認知症。昨年から特別養護老人ホームで暮らしています。毎週会いに通っているマナミコさんですが、自身の体調不良でしばし面会を控えていました。ようやく回復したと思ったら、施設にコロナ感染者が出たとのお知らせが。そして、なんと今度は兄が感染したと電話が入ったというのです…。

 * * *

最期を誰に託せばいいのか問題

 少し前、兄のユニットでコロナ陽性者が出て「面会はしばらくご遠慮ください」とご連絡があったばかりですが、その4日後、再びお電話があり「今朝、37・5度の発熱があって調べたら、コロナ陽性の反応がありまして…。管理が不十分で申し訳ございません」とのことでございました。

「5日間はお部屋で療養していただくのですが、それで問題なければ面会も解禁になりますので、その時はまたご連絡します」とのお話でした。

 その際「で、ご相談なのですが」と切り出されたのが薬のお話でした。「抗ウイルス薬があるのですが、自費で9000円かかります。どうしますか?」と訊かれたのです。

 必要なのか、不要なのか、素人に判断はできません。こういうときわたくしが使う必殺技は「みなさんはどうしていらっしゃいます?」の一言でございます。すると「そうですね、ご高齢のご家族の場合、処方を希望されることもありますが、ツガエさんはお若いのでおそらく薬ナシでも大丈夫かと…。これまでも重症化した方はいらっしゃいませんので」というお答があり、ある程度納得できたので「薬ナシ」の判断をいたしました。決して9000円が惜しかったわけではございません。なるべくならお薬に頼りたくないわたくしの主義でございます。

 電話の最後にも「管理不足で申し訳ございませんでした」と謝っていただいて本当に恐縮いたしました。「こちらこそ任せ切りで申し訳ございません」なのですから。

 その6日後、「無事に回復されました。熱もすぐに下がりましたし、ユニットの厳戒態勢も解除になりましたので、どうぞいつでもご面会にいらしてください」とお電話をいただきました。ということで早速面会に行ってまいりました。

「来たよ~、ちょっと久しぶりだね」と言いますと、しばらくわたくしの顔を見て「何してんの?」と言うので「顔見にきたんだよ。元気そうでよかった」と言ってみましたが、特に反応はありませんでした。叔父叔母と会ってきたことや、祖父母の家がゴミ屋敷になっていたこと(第25回)などを話してみると、数少ない語彙の中から「すごいね~」を選んで連発し、この日はどんな話も「すごいね~」と言いながら聞いてくれました。何もわかっていないと思いますが、わたくしはそれで満足しております。

 母方の祖父母はボケることなく90歳半ばまで生きたのに、その娘息子たちは80歳代で4人中3人が認知症。孫である兄も若くして認知症発症とはどういうことなのでございましょうか。わたくしの知る限り父方の親戚には認知症がいないので、願わくば、わたくしは父方の血と母方の祖父母の血を多量に受け継いでいることを願うばかりでございます。

 でも現実問題として自分が認知症になることを視野に入れて終活しなければならないことはわかっております。そうなるとぶち当たるのが、「子どものいない老人は誰に何を託せばいいのか」問題でございます。

 法律上、従弟や従妹に財産を残すことはできないけれど、せめて葬儀やマンションの処分にかかる費用や手間賃などは自由に使えるようにしておかなければならないな~とぼんやり考えております。遺影写真や着せてほしい服や棺に入れてほしいものなどもリストアップしておくといいと聞いたことがございます。従弟や従妹が混乱しないように、死後の希望を書き残す作業……やっておいた方がいいとはわかっていても、なんとなく気乗りのしないものでございますね。

 せめて処分するものを少なくしておくことが今できる前向きな作業と思われます。

 先ほど、テレビを観ておりましたら、「断捨離で洗濯機を捨ててバスタオルも全部捨てた」と俳優・磯野貴理子さんがおっしゃっていました。さすがに洗濯機なしで生活することは、まだ想像できない境地ですけれども、確かにフェイスタオルがあれば生活できそうだとハッといたしました。

 でもやはり、今あるバスタオルは使いきるのが礼儀といいますか、「もったいない」精神には勝てないといいますか、まだ使えるバスタオルを断捨離のために捨てるのは忍びない。

 風呂敷に収まるだけの小さな荷物を残して逝くのがわたくしの理想なのですが、なかなか遠い道のりになりそうでございます。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性62才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現66才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。

イラスト/なとみみわ

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