「早めの要介護認定」「使える制度を最大限活用」寝たきりで困らない対策ともらえるお金&受けられるサービス一覧|自己申告と情報収集が心地よく暮らしていけるカギ
約680万人―これは介護保険制度のもと、要支援・要介護の認定を受けた人数だ。人生100年時代といわれて久しく、年を重ねてなお精力的に活動するシニアの姿が目立つ一方、晩年を病院や自宅のベッドで寝たきりで過ごす人も決して少数派ではない。寝たきりにならないように努力しても人間いつ何があるかわからない。自分や家族の身を守るために、今から知っておくべきことを専門家に伺った。
教えてくれた人
竹内孝仁さん/日本自立支援介護・パワーリハ学会理事、佐々木欧さん/秋葉原駅前クリニック医師、木村知さん/医師、岡佳伸さん/社会保険労務士、太田差惠子さん/介護・暮らしジャーナリスト
寝たきりを遠ざける、寝たきりから回復するには?
「“寝たきり”という言葉に医学的な定義はないものの、食事、トイレ、入浴など日常生活の多くの面で介助が必要な『要介護2』以上は自分で動くことが難しい状態にあります。寝たきり、またはそれに近いといえるでしょう」
と語るのは、日本自立支援介護・パワーリハ学会理事で、長年介護を研究してきた竹内孝仁さんだ。
竹内さんによれば、要介護認定を受けている人のうち、「要介護2」以上の人は約5割を占めるという。
多くの専門家は、生活習慣を改善し、しっかり歩き、目的意識を持って笑いながら仕事をすることが大切だと話すが、毎日を精一杯生きたとしても、病気やけがで寝たきりになるリスクを100%回避することは難しい。
しかし、もし寝たきりになったとしても、適切な方法を知っておけばそこから回復できる可能性も充分にある。
●施設利用の場合はおむつ利用者の割合を確認しよう
「おむつをつけた状態からでも、自分でトイレに行って食事をとれるまでに回復できるケースも珍しくありません。その度合いは、どんな病院や施設にいるかによって左右されます。もし高齢者施設に入るなら、おむつをつけている人の割合を確認してみてください。
自立への取り組みに熱心な施設では、おむつの割合がゼロということもありますが、取り組みが手薄な施設では6~7割ということもあります。在宅なら、自立支援介護に力を入れているデイサービスを選ぶといいでしょう」(竹内さん)
●病気やケガから寝たきりを防ぐには早めのリハビリが大切
身体の機能を回復させるためのリハビリにも積極的に取り組みたい。
秋葉原駅前クリニック医師の佐々木欧さんはこう語る。
「病気やけがで寝たきりになったら、なるべく早期にリハビリを開始することです。身体機能も認知機能も、使わなければ急速に衰えてしまうため、なるべく自分でできることはやるようにしましょう。ただし、自己判断でリハビリを行うのは危険です。必ず担当医や理学療法士に相談してください。また、ひとりで行うリハビリは精神的につらくなってしまうので、家族が付き添ってモチベーションを高めることが継続につながります」
もし、寝たきりなったとき、心地よく過ごすためにできること
努力のかい虚しく、回復することが叶わないこともある。そうなったときに考えるべきは寝たきりの状態でいかに心地よく過ごせるかだ。
●施設に入る場合は「人生会議」で本人の意見を聞く
同じ寝たきりでも、本人が生きる気力を失わずに毎日を過ごせるかは、どんな希望を持っているかを家族など周囲の人間がしっかりとヒアリングすることが大切。
総合診療、在宅医療に従事する医師の木村知さんが言う。
「本人のためを思って家族が行動しても、気持ちの不一致があると残念なことになってしまう。例えば認知症になると、本人が意思を伝えることは難しくなる場合もあります。事前に本人と家族らがしっかり話し合って、認識をすり合わせる『アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)』が肝要です。
自宅で最期まで過ごしたいとか、つらくなったら入院したいとか、延命治療をしてほしくないとか、ベッドをどの部屋においてほしいかなど、大まかな希望から些細なことまでできるだけ話しておくことです」(木村さん)
→終活におすすめ3つの準備| 「人生会議」「もしバナゲーム」「ITAKOTO(イタコト)」
●早めの要介護認定が大事
介護に直面すると、「施設か在宅か」の二択で考えがちだが、どちらか片方だけに決めてしまう必要はない。
「例えばまだ認知症の程度が軽いなら、いきなり施設に入るのではなく、デイサービスやショートステイをフルに使って、週に数日だけ介護するなど、介護者の負担を減らして在宅で過ごすことも可能です。地域包括支援センターやケアマネジャーに相談して、公的サービスを活用しましょう。
そのためにも、介護が必要になる兆候が見られた段階で、地域包括支援センターへ相談して、介護認定を受けておくことが大切です。すぐにサービスを利用する必要はありません。介護認定は実際に申請してから1か月くらいかかるので、早めに行動してください」(木村さん)
→ケアマネ歴20年のベテランが教える介護が始まる前に知っておきたいこと|要介護認定手続き、サービス、費用…基本のき
●介護離職は最終手段 使える制度を最大限利用しよう
寝たきりになった本人と家族が“共倒れ”しないためにも、介護離職は最後の手段にしよう。仕事を辞め、介護だけの生活になることで精神的に追いつめられ不幸な結果を招くこともある。社会保険労務士の岡佳伸さんは、制度のフル活用をすすめる。
「家族の介護で仕事を休むときは、93日まで分割して3回、給料の67%が保証される『介護休業給付』がある。また、有給休暇とは別に、介護休暇(無給または有給)を取ることもできます。雇用保険に加入していれば、正社員でなくても対象になることを忘れないでください。ベッドやトイレの手すりなど、介護・福祉用具はレンタルがおすすめです。購入してみたものの、サイズが合わないという事態も避けることができます」(岡さん)
→仕事と介護の両立を!自分らしい働き方を応援する「改正育児・介護休業法」を解説
→介護用品や福祉用具はレンタルがおすすめの理由 介護保険対象の品目や活用方法を解説
介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんも「要介護状態になったら、使える制度をどれくらい知っているかが互いのQOLを左右する」と声を揃える。
「特に医療制度は高齢者に手厚い。75才を過ぎると医療費の自己負担額は一般的な所得の場合は1割になり、一定以上の金額がかかった際にキャッシュバックがある高額療養費制度も使うことができる。自分や家族が寝たきりになったとき、最も重視すべきは『自己申告』と『情報収集』であることを肝に銘じてほしい。負担過多にならず、自滅しないために欠かせないことです」
家族や自分が寝たきりの状態になったときにもらえるお金と使える制度について下記でまとめたものも、活用してほしい。
人生100年時代のゴールを幸せに迎えるために、できることはまだまだある。