高齢の親が入院したらいくら必要?医療保険は必要か見直すべきか相談実例【FP解説】
「介護はある日突然やってくる」とはよく聞く言葉だが、「高齢の親が入院」という不測の事態から、介護が始まるケースは多い。入院費はどのくらいかかるのか?民間の保険で備えるべきか。実例相談を交えながら、FPの河村修一さんに解説いただいた。
親が入院!高齢者の平均在院日数は?
厚生労働省「令和2年患者調査の概況」※1によると、65才以上の平均在院日数40.3日、75才以上では45.0日と長くなっています。令和2年だけではなく、どの年の調査でも、後期高齢者になると前期高齢者よりも平均在院日数が長いことがみてとれます。
年|総数|64才以上|75才以上
令和2年|32.3|40.3|45
平成29年|29.3|37.6|43.6
平成26年|31.9|41.7|47.6
平成23年|32.8|44|49.5
平成20年|35.6|47.7|54.2
また、傷病によっても平均在院日数は違っており、例えば、介護になる原因の多い「脳血管疾患」の場合、75才以上では93.2日と、45.0日を大きく上回っています。
※1厚生労働省「令和2年患者調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/20/index.html
参考/内閣府「令和4年版高齢社会白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/html/zenbun/s1_2_2.html
1日あたりの入院費用の平均は約2万円
生命保険文化センターの調査※2によると、過去5年間に入院した人の1日あたりの自己負担費用は、平均で2万700円となっています。
これには、治療費・食事代・差額ベッド代などのほか、交通費(見舞いに来る家族の交通費も含む)や衣類、日用品なども含まれています。
調査は18才~79才の男女個人が対象となっており、高額療養費制度を利用した場合は利用後の金額となっています。
費用分布を考察すると、「1万~1.5万円未満」が 23.3%と最も高く、以下「2万~3万円未満」(16.0%)、「5000円未満」(13.8%)、「4万円以上」(13.2%)の順となっています。
※2 2022(令和4)年度生活保障に関する調査<速報版> 生命保険文化センター
https://www.jili.or.jp/files/research/chousa/pdf/r4/2022hosho.pdf
「差額ベッド代」は支払わなくていい場合も
「差額ベッド代」とは、公的な医療保険の対象外になるため、全額自己負担になります。正式には「特別療養環境室料」といい、1日あたりの平均は6354円※3になっています。
差額ベッド代
1人部屋 8018円
2人部屋 3044円
3人部屋 2812円
4人部屋 2562円
平均 6354円
例えば、1人部屋に入ると1日あたり8018円となり、全額が自己負担のため、入院日数が長期化すると費用負担が重くのしかかってきます。ただし、「差額ベッド代」は、次の場合には支払う必要はありません※4。
1.同意書による同意の確認を行っていない場合
2.患者本人の「治療上の必要」により特別療養環境室に入院する場合
3.病棟管理の必要性等から特別療養環境室に入院した場合(実質的に患者の選択によらない場合)。
3.については、例えば、特別療養環境室以外の病床が満床だったので、病院側の都合で特別療養環境室に入院した場合などを指します。
このように病室が満床であり、病院側の都合で個室に入った場合には、「差額ベッド代」を支払う必要はありませんので、経済的な負担が軽くなります。ただし、同意した場合は、支払わなければなりません。
※3 厚生労働省 令和2年9月「第466回中央社会保険医療協議会・主な選定療養に係る報告状況」
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000672469.pdf
※4 厚生労働省 保医発0305 第6号平成30年3月5日
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000203027.pdf
高齢になっても入れる医療保険はあるが検討が必要
高額療養費制度により自己負担分の上限を超えた分は、払い戻しがあるとはいえ、医療費のほかにも保険対象外の差額ベッド代や生活費がかかります。前述のように入院が思いのほか長引き、想定していたよりもお金がかかったというケースもあります。
これらの費用を預貯金や年金などでカバーできるかどうか、不安な場合には民間の保険に加入してもしものときに備えておく手もあるでしょう。
最近は85才までなど高齢になっても入れる保険もありますが、年金収入だけの場合には、支払いを続けられるのかという問題もありますので、よく検討する必要があります。なぜなら、高齢の親をもつお子さまからの相談事例では、保険料など固定費の削減することで介護費用を捻出するケースがよくあるからです。
以下で相談事例を紹介していきましょう。
【相談事例】高齢の父と母の医療保険は必要か?
50代前半の娘さん(以下、Aさん)から、現在、ご両親が加入している終身保障の医療保険についてのご相談がありました。
お父様は80代半ば、お母様は70代後半です。お父様の毎月の保険料は、毎月約2万5千円、お母様は、約1万2000円です。
しかも、保険料は終身払いで、解約したときにも戻りはなく掛け捨ての商品です。今のところ、お父様はお元気ですが、お母様はときどき体調がすぐれないときがあるそうです。これまでおふたりとも大きな病気はされておらず、一度も保険の給付金を受け取っていません。
そこでAさんは、保険料が無駄ではないかと感じ始め、解約しようかと悩んでいらっしゃいました。毎月の支払額はご両親合わせて約3万7000円、年間では約45万円弱になります。
年金収入と資産、健康状態で判断
Aさんのご両親は、子供には迷惑を掛けたくないと思っています。しかも高齢になれば病気になる確率は高くなり、もし、入院したら保険に入っていれば安心と思ってのことでしょう。ただし、毎月の保険料が負担になってくる場合は、解約も検討する必要があります。
特にAさんのお父様は、企業年金などもあり収入も貯蓄もそれなりにありますので、経済的には保険の必要性は低いかもしれません。
ただし、高齢の方にとって、保険には「経済的な側面」だけでなく、「精神的な側面」もあり、「保険に入っている」という安心感を求めていらっしゃる場合もあります。
Aさんは、家族で検討した結果、今の年金収入や貯蓄等の資産、健康状態からお父様の医療保険は解約して、お母様の医療保険だけ継続することにしました。
【まとめ】保険の継続・解約は多角的に検討を
高齢の親が加入している保険を解約するか継続するかは悩ましいところです。年を取れば入院する可能性は高くなっていくため、解約したあとに入院してしまった場合は後悔するかもしれません。
一方、病歴もなく元気な場合、保険料を支払い続けることが無駄だと感じたり、また、経済的に負担になったりすることもあるかもしれません。
保険の継続や解約、新規で加入する場合においても、経済面に加え、体調面、精神面など多角的に検討することが大切です。
※記事中では、相談実例をもとに一部設定を変更しています。
執筆
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、複数の保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/