在宅介護していた親が介護施設に入所「別居しても扶養控除の対象になる?」相談実例【FP解説】
高齢の親を扶養している場合、「扶養控除」を受けることができ、税金が安くなる。しかし、在宅介護が難しくなり、施設に入所した場合はどうなるのだろうか?同居・別居の場合、扶養控除額は変わるのか?ファイナンシャルプランナーで行政書士の河村修一さんが実例相談をもとに解説する。
介護のお金相談「親の扶養控除」について
同居する親の在宅介護を続ける中で、病気の進行や親の健康状態によっては、施設への入所を検討することもあるでしょう。そんなとき考えておきたいのが、親を扶養しているケースです。そこで今回は、「扶養している親が施設に入ったら『扶養控除』はどうなるのか?」という相談事例をご紹介します。
【相談事例】母(80代)が特養に入所「扶養控除はどうなる?」
現役世代のAさんは、80代後半のお母様と同居していましたが認知症となり、症状も徐々にすすみ、在宅介護が難しくなりました。その結果、在宅での介護を諦めて、特別養護老人ホーム(以下、特養)への入所を決めました。
なお、特養の施設代は、Aさんの銀行口座から引き落としをしています。今までは、同居していたので所得税の扶養控除の対象となっていましたが、お母様と別居となったため扶養控除はどうなるのでしょうか。
・扶養控除とは
扶養控除は、所得控除のひとつで、納税者本人の納税負担が軽減されます。おおまかな要件は次の通りです。
□親族であること
□生計を一にする人
□合計所得金額が48万円以下の人など
扶養控除の要件のなかに「生計を一にする人」があります。生計を一にするとは、通常、同じ家屋で日常生活をしている場合のほか、勤務、修学、療養等の都合上別居していても勤務や学校等の余暇には生活を共にしている場合、また、常に生活費、療養費等の送金をしている場合も含まれます。
つまり、低所得の親族で常に療養費等を送金しているのであれば、別居していても、扶養親族として扶養控除の対象になるというわけです。
【回答】親と別居していても扶養控除の対象になる
Aさんの場合、今までは、扶養していた高齢のお母様と一緒に住んでいましたが、特養に入所するため別居となりました。
上記の要件のとおり、同居、別居は関係ありません。「生計を一にしている」かどうかによります。
Aさんは、自分の口座から特養の施設代を支払っていますので、「生計を一にしている」と判断でき、扶養控除の対象になります。 ただし、同居かどうかで控除額が以下のように異なります。
区分…控除額
一般の控除対象扶養親族(16才以上19才未満)…38万円
特定扶養親族(19才以上23才未満)…63万円
一般の控除対象扶養親族(23歳以上70歳未満)…38万円
老人扶養親族(70才以上)…48万円
同居老親等…58万円
同居の常況にあるかどうかの判定及び年齢が70才以上であるかどうかの判定は、その年の12月31日(年の中途で死亡した場合は、死亡の日)の現況により判定することになります。
なお、同居老親等の「同居」については、たとえば病気の治療などで入院していて、納税者等と生活していない場合、入院期間が結果として1年以上など長期に渡ったとしても「同居」に該当します。
ただし、老人ホーム等へ入所している場合には、その老人ホームが生活の場となり、「同居」には該当せず、控除額が下がることになります。
「特養に入所した親は扶養控除の対象になる?」【まとめ】
所得税額の計算上、総所得金額等から差し引かれる各種の所得控除は15種類あり、その中のひとつに「扶養控除」があります。
扶養控除の要件には、「同居でなければならない」等はありません。高齢の親が特養など高齢者施設に入所し、別居していてもその他の要件が満たされていれば扶養控除の対象になります。
また、高齢(70才以上)の親と同居か別居かでも控除額は異なっています。このように扶養控除の要件を知ることにより納税負担の軽減(所得税や住民税)をすることができます。
親の扶養控除について気になる方は、最寄りの税務署等に相談してみるといいでしょう。
※記事中では、相談実例をもとに一部設定を変更しています。
※参考/国税庁「No.1180 扶養控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
※参考文献 所得税実務問題集(公益財団法人 納税協会連合会)。
執筆
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、複数の保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/