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話題の分身ロボット『OriHime』開発者が語る介護の未来「自分で自分の介護ができたらいい」

 遠隔操作ができる分身ロボット『OriHime(オリヒメ)』。東京・日本橋をはじめ、カフェの実証実験もスタートし、障がい者の新たな雇用を生み出したことも話題となった。そんな今注目の『OriHime』の開発を手がけた吉藤オリィさんが、東京都主催のシンポジウムに登壇し、開発秘話や今後の構想を明かした。その内容をレポートする。

話題の分身ロボット開発者が考える介護の未来

「行けないところに行けて、働くことも可能にしたのが分身ロボット『OriHime』です」

 こう話すのは、東京都が主催した「アクセシブル・ツーリズム推進シンポジウム」で基調講演を行ったオリィ研究所の吉藤オリィさん(35才)だ。

「アクセシブル・ツーリズム」とは、「誰にでも優しく、どこへでも行ける東京を目指して」をスローガンに、どんな人でも旅を楽しめるように環境整備などを行っていく取り組みのこと。同シンポジウムの基調講演で、「分身ロボット『OriHime』が可能にする、コロナ禍における新たな社会とのつながり方」をテーマに、吉藤オリィさん(オリィさん、以下同)が語った介護の未来とは――。

分身ロボット『OriHime』誕生秘話

 オリィさんが2012年に開発を手がけた分身ロボット『OriHime』は、人が身振り手振りや視線入力で遠隔操作できる人型ロボット。この日もオリィさんは『OriHime』を抱えて登壇した。

「この分身ロボットは、在宅をせざるを得ない人や入院など距離や身体的問題によって行きたいところに行けない人にとって、もうひとつの身体となるのです」

 オリィさんは開発の経緯を振り返る。

「小学生時代、同じクラスに車いす利用の友達がいたのです。その車いすを見て、純粋に『かっこいい!』と思ったのです。それで友達を降ろして自分が乗って動かしていたら、先生にメッチャ怒られました。

 先生は『それは君が乗ってはいけないもの。それは障がいがある人のためのものだ』と。『なんで? なぜそこに線引きするの? だって面白いじゃん』と純粋に思ったのです」

 その後、自身も病気の療養期間に車いすを利用する機会があり、さらに車いすに興味を持ったという。高校生のとき、「もっと使い勝手のいい車いすはできないものか?」と考え、電動車いすの新機構の発明にかかわり、高校生・高専生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞、世界最大の科学コンテスト、インテル国際学生科学技術フェア(ISEF)でグランドアワード3位を受賞した。

 

すべての人の孤独を解消したい!

「自分も小学5年から中学3年まで学校に行けなかった時代があり、孤独を感じました。そして、いかに孤独を解消するかがライフワークになりました。

 高齢者や障がい者の方も、コロナ禍で制限された生活の中で、誰しもが人とのつながりを欲していると思います。私が開発した『OriHime』は、移動が難しい人や社会参加がしにくい人自身が操作できるので、人とのつながりを体感でき、孤独を解消できるものだと考えています」

 分身ロボットの活用シーンは、不登校の子どもたちをはじめ、施設で暮らす高齢者にも広がっているという。

「重い障害を持つ子どもが分身ロボットを通じ授業に参加したり、お墓参りが困難になった高齢者が分身ロボットを使って、手を合わせたりすることもできる。体は運べなくても、心は運べるのです」

親友の発案「ロボットに両手をつける」

 開発当初、『OriHime』には“手”を付けていなかったという。「両手をつけること」を発案したのが、オリィさんの親友、番田雄太さんだ(2017年、28才で逝去)。

「番田さんは、4才のときの事故で頸髄損傷となり、首から下が不自由になり、ほぼ寝たきりの生活を送っていました。彼とは2013年にフェイスブックで出会って、オリィ研究所の秘書兼広報として働いてもらいました。

 岩手県に暮らしていた彼は、顎を使ってパソコンを操作して『OriHime』を遠隔操作することで、岩手県から私の秘書や広報として活躍してくれました。

 手を付けて動きを出すという彼の発案で、『OriHime』に表情が生まれたのです。彼とだからこそ、より良い開発ができたのです」

 オリィさんの講演中には、生前の番田さんが分身ロボットをプレゼンしたときの動画も流された。「分身ロボットを通じて仕事に就き、経験を積んだことで、立派な広報マンに成長してくれたのです」(オリィさん)。

分身ロボットで自分を自分で介護できたらいい

 オリィさんの名前は、子供のころ”折り紙”が大好きだったことに由来する。幼いころから車いすに乗った友人に寄り添ってきた少年が成長した今、「将来的には、分身ロボットを使うことで、自分を自分で介護することができるようにしたい」と、熱く語る。

「介助や介護をされている方の中には、最初は『ありがとう』と喜んでいたのに、だんだんと『すみません』と謝り続けるようになって疲れてしまう方もいらっしゃるのです。介護の現場で他人に遠慮しなくてもいいように、少しでも自分でできることが増えるといいですね。

 高齢者が寝たきりになっても、視線入力で分身ロボットを操作して孫をハグしたり、自分の身体を介護できたりするような開発も視野に入れていきたいです。

 身体的な介助はもちろんですが、分身ロボットで旅に出たり、写真を撮ったりしてインスタなどに上げて人との交流を持つといった、心のケアも大切にしていきたいですね」

「仲間や家族と一緒に過ごす時間が充実するように、障がい者や高齢者の暮らしがより良くなるような開発を手掛けていきたい」と展望を語った通り、新たなビジネスとして、テレワークに特化した障がい者のための人材紹介サービス『FLEMEE』もスタート。オリィさんは“孤独の解消”へのプロジェクトに向かって邁進中だ。

【データ】

分身ロボット『OriHime』
月額利用料3万2780円~
オリィ研究所 https://orylab.com/

取材・文/本上夕貴

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