安藤和津さんが娘たちに伝える終活「死に化粧はつけまつげを忘れずに」
日本は少子高齢化が進み要介護者の増加、介護者の高齢化が社会問題となっている。エッセイスト・コメンテーターの安藤和津さん(74才)は、50代から突然、母親の在宅介護が始まり、うつ症状に悩まされた経験をもつ。母親の壮絶な介護の経験踏まえて、安藤さんが今ふたりの娘たちと共有している「終活」について教えてくれた。
心の準備がないまま始まった母親の介護生活
「まさか、50代から母の介護が始まるとは夢にも思いませんでした」
こう話すのは、エッセイストやコメンテーターとして活躍する安藤和津さん(「」内以下同)だ。
安藤さんは40代後半から、実母の様子に異変を感じていた。50代のはじめには、母にテニスボール大の脳腫瘍があることが判明。以降、母を83才で見送るまで、約10年に及ぶ在宅介護に尽力してきた。
その影響で安藤さんもうつ症状に悩まされるようになり、症状から解放されたのは、母親が他界した約9年後の69才のときだった。
「私の場合、長女(映画監督の安藤桃子)と次女(俳優の安藤サクラ)がそれぞれ高校生、中学生になり、やっとつきっきりで子育てをしなくてもいい状況になったところで、母の奇行が始まったのです。
たとえば母が作ってくれた娘のお弁当にいつも腐ったものが詰まっていたり、私のママ友に私の悪口を吹き込んだり…。それが脳の病気のせいだとは知らず、母に対してある種の憎悪のような感情を抱いてしまいました。いまでこそ、脳の病気についてはよく知られるようになりましたが、20年前は医師ですらまだ認知症を理解しきれていない時代で、病名がわかるまで時間がかかりました」
安藤さんの母親は、シングルマザー。女手一つで料亭を営み、頭脳明晰で記憶力も行動力も抜群だった。そんな人がなぜ…という思いと憎しみの間で、
「クソババア、死ね!」
などとひとりで叫んだこともあったとか…。だからこそ、一連の行動が脳腫瘍に起因する認知症のせいだったとわかったときは後悔の念にさいなまれた。
「その後悔から、自分の身を削ってでも母を介護しなくては、と極端な考えに走ってしまったわけです。そんなことをしていたら、もちろん私にも限界が来ます。24時間体制で介護してくれるヘルパーさんを活用しようと思っても、当時は介護ビジネスも黎明期。介護スキルやサービスもいまほどきちんと整っておらず、ヘルパーさんに頼んだことで、かえって状態が悪化し、母が寝たきりになってしまいました。あのときは私の心労も重なり、八方ふさがりに…。睡眠が2時間の日が続き、心身ともにボロボロでした」
50代で突然訪れた「人生の落とし穴」
50代にして突然訪れた怒濤の介護生活で、安藤さんは、人生どこに落とし穴があるかわからないと悟った。
「介護なんて自分には遠い先のことと思えるかもしれませんが、50代から情報や知識を蓄えておくことが大切です。また、やりたいことや、どうしようか迷っていることがあるなら、すぐにチャレンジを。未来に実現できる保証はありませんから」
安藤さんの夢見ていた50代は、子供たちとスキーやシュノーケリングを楽しんだり、ジムやダンス教室に通って体を鍛えたり…。しかし、子育てや仕事に追われて延ばし延ばしにしているうちに、急に介護生活が始まり、それどころではなくなってしまった。
「すべてが落ち着いたいま、ひざが痛いだの何だのと肉体的な不具合が多すぎて、やりたいことのほとんどができません。本を読みたくてたくさん買うのですが、老眼が進んで文字を読むこと自体がつらくなってしまいました。『思い立ったが吉日』とはよくいったもので、これしたい、あれしたいと思ったら、すぐに行動を起こした方がいいと思います。40才を過ぎたら、転がり落ちるようなスピードで肉体は年を取るんですから」
60代を楽しむために終活は今日から始めるつもりで
母の介護経験を踏まえて安藤さんが実行したことがある。それは、2人の娘たちと、自身の行く末について意見を交わしておくことだ。
「母は60代で意思の疎通もままならなくなりました。自分だっていつどうなるかわかりません。娘たちには私と同じことはさせたくないから、万が一私に認知症の症状が表れたら、すぐに施設に入れてほしいと伝えています」
延命治療のことや、死後のことなど家族に伝えておくべきことはたくさんある。今日から始めるつもりで行動に移したい。
「私が“葬儀ではミラーボールを吊り下げてオールディーズの曲をガンガンかけて、平服で参列するように呼び掛けて、とにかく派手に楽しく見送ってね。死に化粧はつけまつげを忘れずに”なんて言うと、長女は“ハリウッドから特殊メイクをしてくれる人を連れてきてバッチリ死に化粧をしてあげるわ”と言ってくれます(笑い)。そういうふうに、暗くなりがちな終活の話は冗談を言い合えるうちに、話しておく方がいいんじゃないかしら」
まだ早いなどと思わず50才になったら終活を進め、ゆとりある60代を迎えたい。
教えてくれた人
安藤和津さん/エッセイスト・コメンテーター。NHKやCNNでキャスターを務めた後、テレビ・ラジオなど多数の番組にコメンテーターとして出演。自身の介護体験などをテーマにした講演会も行う。著書に『“介護後”うつ~「透明な箱」脱出までの13年間~』(光文社)など。
取材・文/桜田容子
※女性セブン2023年1月1日号
https://josei7.com/
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