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ピンキラ今陽子さん、95歳認知症の母の在宅介護で抱える葛藤を吐露「完璧主義だった自分を見直してます」

 16才でピンキーとキラーズとしてデビューし、歌手として第一線を走り続けてきた今陽子さん(70才)。芸能活動と並行して現在は、認知症のお母様の在宅介護をしている。『認知症の母が劇的回復を遂げるまで』の著書でも触れられているが、「接し方」を変えることでお母様とのコミュニケーションがしやすくなったという。しかし、状況は刻々と変化している。お母様の近況や今さん流の介護への向き合い方について話を伺った。

今陽子さん「認知症の母、95才の壁に直面」

 今さんの著書『認知症の母が劇的回復を遂げるまで』には、介護のいきさつや接し方を変えることでお母様が明るい変化したことなどが綴られている。しかし、現在は、以前とは違うある現実に直面しているという。

「“同窓会コンサート”でご一緒する機会が多い、小川知子さんや辺見マリさん、西口久美子さんなど、私のまわりには介護の先輩がたくさんいます。諸先輩方から、介護は『90才がひとつの壁で、95才からもう一段進む、新たな壁がある』と聞いていました。

 母は今年の2月で95才になり、少しずつ先輩方の言葉を実感するようになったんです」

 まさにその「壁」を実感したのが、“鍵の紛失事件”だったという。

「私の帰宅よりもデイサービスからの戻りのほうが早い日は、施設のスタッフの方に玄関先まで送ってもらい、母が家の中に入って施錠をするのを見届けていただいています。母は家に入ると、いつも決まった場所に鍵を置くようにしていました。

 ところがある日、いつもの置き場所に鍵がないんです。母に聞いてもわからないと言います。家中を探しても鍵は見当たらず、すぐに鍵屋さんを呼んで鍵の交換をしてもらいました。でも母は、自分が鍵を失くしたこと自体を忘れてケロッとしているんです」

 認知症を患ってからのお母様は、今さんの仕事の予定など忘れてはいけないことを自分専用のノートに自ら書いていた。

「今までは、ノートを見れば忘れていたことを思い出すことができていました。でも、このごろはノートに書いたこと自体を忘れているんですね。母は来年の2月で96才になりますし、本を執筆した時にくらべてステージが一段、進んでいるような状態ですから。近いうちに弟も交えて、ケアマネさんに相談したいと思っているんです」

→【前編】ピンキーとキラーズ今陽子さん(70才)認知症の母の介護で学んだ「接し方で笑顔は増える」

「私だって泣きたいよ」悲鳴を上げる夜も

 お母様の変化によって、今さんはある種の葛藤を抱えるようになったという。

「私は、歌はもちろん舞台の仕事も好きなものですから、いろいろなミュージカルに出演しています。ミュージカルの場合は、その作品に関する勉強もしなくてはなりません。セリフを覚えるだけでなく、他の方が歌うパートもわかっていなければなりませんし、準備に集中力が必要です。

 以前の母は、仕事のための勉強に集中している私のことをちゃんとわかってくれていました。でも今は、一生懸命にセリフを覚えている最中に、『陽子ちゃん、のど渇いちゃった』と声をかけてくる。そうしたことが積み重なり、思わず夜中に悲鳴をあげてしまうこともあります。

 もういい加減にしてよ!って、ちょっと強めの口調になってしまったとき、以前の母だったら言い返してきていました。それが、最近は泣くんですよ。

 泣きながら『迷惑ばっかりかけてごめんね』、『私なんて死んじゃえばいいんだよね』と言う。

 母は私に迷惑をかけていることをわかっていて、そんな自分を情けなく思っているんですね。母の気持ちが分かるだけに、お互いにつらい。私だって泣きたいよ、かーさんって…。

 でもね、母のことは大好きですから。母がどんな状態になったとしても、ずっとそばで見守っていてあげたいという気持ちがあるんです」

 介護の苦労はあるものの、お母様と一緒に過ごすひとときはかけがいのない時間でもある。

「私が材料をそろえて段取りを組んで、時々、オムライスや焼きそばといった料理を母と一緒に作るんですよ。

 私は家事も料理も苦手ですが、母は長年主婦をしていましたから、今でも包丁さばきは見事。玉ねぎなんて手早くきれいにみじん切りにしてくれますよ。認知症になっても、手先の器用さというのは変わらないものなんですよね」

仕事があるから介護生活が続けられる

 95才の壁に戸惑う日々の中で、今さんの気分転換となっているのが「仕事」だ。

「以前なら介護心中のニュースを聞くたびに、『どうしてそこまで思い詰めちゃったんだろう』、『なにか生きる手段はなかったのかな』って漠然と思っていました。でも今は、一線を超えてしまった方たちの気持ちがよくわかります。

 きっと私は、仕事をしていなかったらとっくに気が変になっていると思います。

 私には音楽がある。歌っている時は、すべてを忘れて歌に集中できます。先日はモンゴルでコンサートを行ったのですが、現地の皆さんが『恋の季節』を歌って踊ってくださって、音楽には国境がないことをあらためて実感しました。

 一方で、仕事のときは介護を言い訳にすることは絶対にしません。私はプロですから」

 現在の自分への課題は「10のうち6やれれば上出来」と思うことだという。

「私は見かけによらず、何事にも細かくて完璧主義者なんです。仕事は完璧にマスターして、お客さんの前で余裕を持って披露したいと思っています。

 介護に関しても同じで、自分で思うことを完璧にやり遂げたいんです。その結果、自分が疲れてしまうのが、わかっちゃいるけどやめられない。そう、『スーダラ節』です(笑い)。

 介護の先輩である小川知子さんや西口久美子さんに『10のことを3分の1、せめて半分にしないと自分を疲れさせるだけ!』と言われたこともあり、『10のうち6やれれば上出来』という自分になれるよう、勉強している最中なんです」

母の介護を通じて自分の将来を考えるように

 介護を通して、今さんはご自身の将来をより真剣に考えるようになったと語る。

「どんなにしっかりした人にも老いは来るものです。私は今、70才ですが、母を見ていると元気で長生きするのではないかと思うんです。岸恵子さんは90才の今でも本を書かれたり講演をなさったりしていますし、90才に近い草笛光子さんや黒柳徹子さんは現役でお仕事をされています。だから私も、90才まで歌っていけたらいいなぁと思っているんです。

 仕事を辞めて老人ホームに入所したとしても、元気さえあればオルガンを弾きながらみんなで一緒に歌を歌ったりもできますよね。

 高齢者になっても元気で明るく、リーダーシップをとれるような人間でありたいなぁと思っているんです」

プロフィール

今陽子(こん・ようこ)さん

1951年愛知県生まれ。歌手。幼少よりジャズ・ポップスを好み、作曲家いずみたく氏に師事し、15歳でソロデビュー。16歳で「ピンキーとキラーズ」を結成。デビュー曲『恋の季節』が17週連続でオリコン1位になるなど、ダブルミリオン(約270万枚)を記録し、数々の音楽賞を受賞。解散後、1981年に単身渡米し、ニューヨークで歌・ミュージカルを学ぶ。帰国後はミュージカル、舞台、ライブ、テレビなどで活躍中。2022年12月7日~25日までミュージカル『スクルージ~クリスマス・キャロル~』に出演。オフィシャルブログ『This is my Season『今』を生きる』https://ameblo.jp/yoko-kon/

撮影/横田紋子 取材・文/熊谷あづさ

●ピンキーとキラーズ今陽子さん(70才)認知症の母の介護で学んだ「接し方で笑顔は増える」

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