兄がボケました～若年性認知症の家族との暮らし【第164回 お便さまをスリッパで踏まないで】
若年性認知症を患う兄の排泄問題で頭を悩ますライターのツガエマナミコさん。特に大きい方の後始末をすることは、精神的にも肉体的もつらいものです。このところ、大きい方のトラブルは起こっていなかったですが、久しぶりに事件が発生してしまいました。
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男性用漏れ対策パンツを購入
久々にやってきました、お便さまお掃除回でございます。
先ほどトイレのドアを開けましたところ、床にかすれた筆文字のように拭き取りそこねて散らかったお便さまを発見いたしました。
こちらもトイレに御用があったのですが、お掃除をしないことには中に入れません。迫りくる便意と戦いながら、颯爽とゴム手袋を付け、お掃除用具を取り、床のお便さまをぬぐっていると、軽く虐待されている気分になりました。それと同時に、これを踏んだスリッパで兄が家じゅうを歩き回ったことを思い、より一層いや～な気分になりました。
トイレ床掃除を中断し、兄に「スリッパを脱いでくれるかい？」とお願いし、裏を見ると案の定お便さまだらけ。兄の鼻先にスリッパの裏を押しつけて「こんな汚れたスリッパで歩かないでよ！」と言いたいシチュエーションでしたが、怒る気力もなく、スリッパをお風呂場に持って行き、雑巾でゴシゴシいたしました。
これはおろしてまだ3か月目のスリッパ。前のスリッパも新しいうちにお便さまでドロドロにされ、水洗いして乾かすと水色の布がまだらに黄色みを帯びてしまい、やむなく廃棄処分いたしました。
今回のスリッパは、吟味する暇もなくスーパーで購入した一品。表が紺色で裏は濡れてもいいプラ的素材ではあるのですが、こまかい格子状になっていて汚れが入り込んでなかなか取れません。
そうこうしているうちに便意の限界を迎えたわたくしは、トイレの床掃除を優先し、やっと御用をすますことができました。
その後、スリッパの汚れと格闘し、許容できるくらいまでキレイにしたところで兄に戻し、リビングの床も雑巾掛けいたしました。もう汗だくです。
その間、兄はというと床に這いつくばるわたくし越しにテレビをご鑑賞するありさま。兄のパンツの中も気になるところでしたが、「パンツ履き替えなくて大丈夫？」と声を掛けるやさしさは残っておりませんでした。「ま、多少パンツが汚くても死なんやろ」と無視を決め込み、軽く虐待返しをしたツガエでございます。
それはさておき、先日、取材で東京下町に行ったとき、約束の時間までに少し間があったので軽く町ブラをしましたところ、介護用品を扱っているグシャグシャっとした怪しげなお店を発見いたしました。ふらふら入ってみると、新聞広告で見たようなちょい漏れ用トランクスが目に飛び込んでまいりまして、「コレか…」と思わず興味を惹かれてしまいました。
新聞広告よりもだいぶ値段が安い印象に「お試しで買ってみようかな」と思っていると、タイミングよくお店のおばさまが現れて、見本の商品を広げながら「こちらはトランクスタイプの少量用で、これは中漏れ用、こちらはフルカバーとなっておりまして、ボクサータイプやブリーフタイプはこちらになります」と説明してくださいました。
しばし兄の状況をお話しすると「はじめてだとわからないですよね。まぁ、うちで一番よく出ているのはこちらの中漏れ用です。洗濯しても特別乾きにくいといったクレームもありませんよ」とおっしゃり、ちょい漏れと中漏れの間で悩むわたくしを静かに見守ってくださいました。
ということで、ついにわたくしは880円の中漏れ用トランクスを1枚入手いたしました。
まだ未開封ですし、洗濯替えもありませんが、持っていることで満足したと申しましょうか、気休め的安心を手に入れた気がしております。
そんな矢先、また新聞広告で、今度はふんどしタイプの尿漏れパンツを発見！ パンツのタイプを選ばない下履きパットで、これはもう超スーパーハイレグモッコリビキニ！！！
世の殿方もお悩みが多いのだろうと、お察ししたツガエでございます。
文／ツガエマナミコ
職業ライター。女性59才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる（当時57才、現63才）。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト／なとみみわ
