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『鳥人間コンテスト』は『びっくり日本新記録』だった!息子が考えた飛行機で飛ぶお母さんに泣いた2022年

 8月31日放送の『鳥人間コンテスト 2022』(日本テレビ系)が盛り上がった。老若男女が滑空機と人力プロペラ機の飛距離を競う競技大会は今回も感動を生んだが、そもそも番組の始まりはどんなきっかけだったのか。テレビっ子ライター・井上マサキさんが解説し、感動を振り返ります(番組は「Tver」で配信中)。

3年ぶりの有観客開催

 日本テレビ系列には長年にわたり放送され、夏の風物詩となっている番組がいくつかある。

 1978年から続く『24時間テレビ』は今年も「サライ」で締めくくられたし、1983年から続く『全国高等学校クイズ選手権(高校生クイズ)』は9月9日(金)に第42回が放送される。そして、実はこの2番組より前に始まったのが、1977年から続く『鳥人間コンテスト』だ。

 長引くコロナ禍の影響を受けたのは『鳥人間コンテスト』も例外ではなく、2020年には中止、2021年には無観客開催となっていた。8月31日に放送された第44回は3年ぶりの有観客開催となり、2部門26チームがエントリー。応援団が見守るなか、琵琶湖に設置された10mの高さのプラットフォームから、手作りの飛行機たちが飛び立つ。

第1回は『びっくり日本新記録』

 ところで『鳥人間コンテスト』といえば、昔はコミック部門的なものがあった記憶がある。仮装大賞みたいな扮装をした人たちが、勇ましい意気込みもほどほどに、湖面にバシャーンと面白く落ちていた時間帯があったのだ。

 それもそのはず、もともと『鳥人間コンテスト』の第1回は、『びっくり日本新記録』のいち競技として行われたもの。毎週「後ろ向きマラソン」とかの変な競技で日本一を決め、チャレンジボーイ・轟二郎がたまに活躍していた、あの『びっくり日本新記録』である。エンディングの「記録、それはいつも儚い……」というナレーションも記憶に新しい(40年前です)。

 しかし時を経て、『鳥人間コンテスト』は滑空機と人力プロペラ機の飛距離を競う競技大会となった。第1回の優勝記録は82.44m(滑空機部門)だったが、2003年には人力プロペラ機が琵琶湖の対岸近くまで到達するようになり、今や18km先で往復するコースが設定されている。最高記録は2019年の60km。もはやピエロの格好で人が飛び込んでいた時代ではない。

航空エリート集団vsミスター鳥人間!

 今や『鳥人間コンテスト』といえば、学生たちの熱い青春ストーリーでお馴染み。今回も、人力プロペラ機部門で優勝した東北大学Windnautsをはじめ、同じハンググライダー教室で鍛えたライバルや、機体設計を任された留学生と日本人パイロットの友情など、随所に青春が盛り込まれていた。

 だが滑空機部門は、社会人同士の優勝争いが熱かった。今回4年ぶりにレジェンドが参戦したのだ。過去21回出場し優勝13回というミスター鳥人間・大木祥資さん。滑空機部門のパイロットとして2012年に501.38mの大会記録を出し、以後10年間破られていない。

 そこに立ちふさがったのが、初参加の社会人サークル「チームあざみの」だった。東京工業大学と東京理科大学のOBが中心となったチームであり、IHIやシーアールイーといった、航空機設計が専門の会社員たちによる航空エリート集団だ。

 ガチの人たちが設計した胴体や翼が飛ばないわけがない。でも、前評判通りいかないのが鳥人間コンテストの恐ろしいところ。果たして飛ぶのか飛ばないのか、いざ本番。快晴の琵琶湖に飛び出した機体は、湖上の風にふわりと乗り、どんどん飛距離を伸ばしていく……! 

 追いかける撮影クルーとレスキューのモーターボート。その白波を引き連れるかのように、悠々と飛び続ける機体。数10秒のフライトののち、着水。その記録は……533.58m! 10年ぶりの大会新記録に仲間たちが歓喜の声をあげる。出番を待つミスター鳥人間・大木さんも「これはすげぇわ」と拍手。

 しかし、レジェンドも負けていられない……と思いきや、プラットフォームで準備する大木さんからは「緊張してるし、ほら……ルーティーン狂ってんじゃん」と戸惑う声が。レジェンドにはレジェンドの背負うものがあるのだろう。17年ぶりに一新したという機体に乗りこみ、大木さんは勝手知ったる琵琶湖の空へ迷いなく飛び出す。大きくしなる翼は機体を支え、夕日を照り返す湖面上を滑るように飛んだ。その記録は……482.23m。

 普段なら優勝もありうるビックフライトだったが、大木さんは2位。優勝はチームあざみの! 知識と経験、若手とベテランが頂上でぶつかり合う滑空機部門だった。

息子が考えた飛行機で母が飛ぶ!

 今回の『鳥人間コンテスト』は、学生や社会人たちの熱い戦いと、ちょっと違うストーリーもあった。

 滑空機部門に初エントリーした「Flap boys」の発起人は、10歳の小学生男子・神庭大徹(たいと)くん。幼いころから鳥人間コンテストが大好きで、毎年琵琶湖で鳥人間コンテストを観戦するほど。いつしか「自分で作った飛行機が本当に飛ぶのか試してみたい」と思うようになったという。

 その夢を叶えるべく、両親が近所の人たちに声をかけてチームを発足。機体づくりには近所の子どもたちも参加し、みんなで機体にテープを貼って、完成した翼をワッショイワッショイと担いで運んだりする。

 あまりに平和すぎる画に、もうこの時点で泣いちゃうのだけど、さらに泣いちゃうのが大徹くんのお母さんがパイロットを務めること……! 8ヵ月前に4人目の子どもを産んだばかりのお母さんは、「飛距離よりも、自分たちが作ったものが飛ぶということを見せたい」というのだ。

 そして本番。近所の子どもたちが応援席で「がんばれ~!」と見守るなか、みんなで作った機体とお母さんがプラットフォームでスタンバイ。お母さんの「3,2,1!」の合図で飛び出した機体は、いきなり強い向かい風にあおられて、右後方に流されてしまう……!

 大きく右に旋回して着水した機体は、飛んだというか、ほぼ落下に近い状態。プラットフォーム上の大徹くんも、応援席の子どもたちも、心配そうに湖面を見つめる。お母さんは無事ボートに引き上げられ、記録は18.03mだった。

 コメントを求められた大徹くんは「そこまで飛べなかったけど、お母さんも頑張ってくれたし、みんなも見守ってくれてるから、お母さんには悲しんでほしくない」と言う。それをボートの上で聞くお母さん。「お母さん、少しでも飛んでくれてありがとう」という言葉に笑顔がこぼれる。

 改めて「手製の飛行機で10mの高さから飛ぶ」と書くと、こんなに怖いことはない。

 でも45年続けるうちに、飛べることが夢になり、目標になり、いくつもストーリーが生まれるようになった。泣かないぞ!と思っていても「そんなストーリー、ズルいよ~」って泣いちゃう。息子が考えた飛行機でお母さんが飛ぶなんて泣いちゃうにきまってる……!

 年を取って涙もろくなったのか、『鳥人間コンテスト』が泣けるのか。たぶんその両方なのだろうと思う。

文/井上マサキ(いのうえ・まさき)

井上マサキ

1975年 宮城県石巻市生まれ。神奈川県在住。二児の父。大学卒業後、大手SIerにてシステムエンジニアとして勤務。ブログ執筆などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。企業広報やWebメディアなどで執筆するかたわら、「路線図マニア」としてメディアにも出演。著書に『日本の路線図』(三才ブックス)、『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』(ダイヤモンド社)など。

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