ボッシュート廃止!『日立 世界ふしぎ発見!』リニューアルの衝撃
この4月で38年目に突入する『日立 世界ふしぎ発見!』(TBS/毎週土曜9時〜)といえば思い出すのは司会の草野仁をモデルにした「ヒトシ君人形」であり、クイズ不正解でそれが没収される「ボッシュート」が印象的。だが、その「ボッシュート」のルールが今年に入って廃止されていた! 一体どうして? テレビっ子ライター・井上マサキさんがご報告します。
あの「ボッシュート」が
子どものころ、ボッシュートがちょっと怖かった。
『日立 世界ふしぎ発見!』の、あのボッシュートである。司会の草野さんが「ボッシュートになります!」と叫べば、あの効果音が鳴り響き、不正解を出した解答者の席の一部が割れ、ヒトシ君人形(もしくはスーパーヒトシ君人形)がゆっくりと闇に吸い込まれていく。あのボッシュートだ。
不正解になると人形が目の前から消えてしまうという、取り返しのつかないことをしてしまった感じが怖かった。ボッシュートの効果音の、最後の「ドゥワワ~ン」という余韻も恐ろしさに拍車をかけていた。解答者席の地底には、無数のヒトシ君人形が眠ってるのだと思っていた。
ちなみに「ボッシュート」は、「没収」と「シュート」を合わせた言葉だそう。番組開始当初、視聴者からの「ボッシュートとはなんですか?」という投書に、草野さんがカメラ目線で丁寧に説明している映像をなにかで見たことがある。そんな新しい言葉を何の説明も無しに使っていたのかとびっくりする。
そのボッシュートが、今年になって廃止されたのだ。事件は2023年1月14日、新年一発目の放送で起こった。番組が大幅にリニューアルされたのである。
クイズで競わない?
改めて『日立 世界ふしぎ発見!』をおさらいしよう。番組では、世界各地に飛んだ「ミステリーハンター」たちが現地の歴史や文化をレポート。その途中で「さて、ここでクエスチョンです」とスタジオに出題する。
スタジオの解答者たちは、自席のモニターでそれぞれ解答。全員の答えが出そろったところで解答をオープン。正解VTRのあと、正解者にはポイントが入り、最後にトップ賞を決める……というのが大体の流れだった。
ちなみに、ポイント制やヒトシ君人形については、長い番組の歴史の中で何度かルールが変わっている。とはいえ、一番お馴染みなのは「解答者は解答の際にヒトシ君人形を置き、答えに自信があるときは高得点をもらえるスーパーヒトシ君を置く」「正解すれば得点が入り、間違えたらボッシュート」というルールだろう。
それを踏まえて、今回のリニューアルである。まず、個人の解答席がなくなった。
スタジオセットがリニューアルされ、出演者全員が横並びに座るようになったのだ。草野さんの隣りに黒柳さんが座るのは、1986年の番組開始以来初めてのこと。草野&黒柳のツーショットに、進行役の岡田圭右も「日本の芸能界で一番画力ありますよ!」とガヤを飛ばす。
ミステリーハンターが世界を旅して、クエスチョンを出すのはいつも通り。だがそのあと、スタジオの出演者たちがワイワイと話し合い、答えを予想してから再びVTRを見るようになった。
それも真剣に議論するのではなく、「これじゃないかな~」という感じのまま正解VTRに入ってしまう。正解を発表した後もワイプのなかで「当たった~」と喜ぶだけで、スタジオには戻らないし、正解してもポイントが入ったりしない。つまり、クイズで競わなくなったのだ……!
個人で解答するわけじゃないので、答えを書くモニターもない。じゃぁ、ヒトシ君人形とスーパーヒトシ君人形は!? と思ったら、それぞれの席に人形だけちょこんと置いてある。得点を競わないので、ボッシュートの概念もなくなった。
番組内ではセットのリニューアルについて触れたものの、クイズのシステムが変わったことには言及がなかった。番組開始当初、何の説明も無く「ボッシュート」という言葉を使ったように、何の説明も無く「ボッシュート」という言葉は姿を消してしまったのだった。
情報番組のクイズ
『ヒルナンデス!』などの情報番組では、VTR途中でスタジオの出演者に「7秒でお答えください!」みたいなクイズを出すことがある。『ふしぎ発見!』のリニューアル後の雰囲気は、なんとなくその感じに近い。実際に、28日放送回では「織田信長と武田勝頼が戦った、この戦いの名前は?」をスタジオに答えさせる場面もあった(正解は「長篠の戦い」)。
クイズ番組は「誰が勝者になるのか」「どちらのチームが勝つのか」が、視聴者を引きつける要素になる。『ふしぎ発見』も、かつては「黒柳さんパーフェクトなるか!?」がその要素だったこともあるだろう。
一方、情報番組で扱うクイズは、視聴者をその情報に引きつけるために使われる。「プロが選んだニトリの収納家具1位は?」と言われたら、なんだか気になってしまう。情報に興味を持たせ、理解を促す存在としてクイズ。
となれば今回の『ふしぎ発見』リニューアルは、勝敗を争うクイズ番組から、世界の文化や歴史を紹介する”情報番組”への明確なシフトとも言えるだろう。そもそも番組レギュラーも高齢化が進み、勝敗を競う感じでもないのだ。だって野々村君ももう58歳である。
黒柳さんの目が鋭く
クイズで競わなくなったとはいえ、リニューアル後の3回分を見て強く印象に残っているのは、黒柳さんのクイズに対する本気度だ。オープニングや合間のトークのときと違い、クイズになると目が鋭くなっていた。
14日放送の「ふしぎの楽園パラオ」回では、「パラオの石で作ったある大事な物とは?」という出題に「お金です」と即答。「パラオの人が感動した日本の海産物とは?」には最初に挙手して「ウニ」と答える。ちなみにどちらも正解で、他の出演者たちが話し合う余地を消し飛ばしてしまっていた。
そのマイペースぶりはトークでも発揮されている。28日放送の「歴史を変えた信長&家康スペシャル」回では、冒頭のトークで「私、信長好きです。信長を演じる人、ハンサムな人が多いじゃない?」とにこやかに発言。しかしVTRの内容は徳川家康と井伊直政が中心で、信長の出番はあまりなかった。
番組の最後、今日の感想を聞かれた黒柳さんは「だから信長がいいって言ってるんですよ」と言い放つ。「なんかいろんな欠点もあったんでしょ。でもこれだけ名前が残ってるんですからね。やっぱり私信長でいいです(笑)」と最後は笑顔で終わったが、期待したほど信長がフィーチャーされなかったことを匂わす発言でもあった。
クイズの形は変われども、黒柳さんは変わらず。オープニングテーマだって「この木なんの木」のCMだってそのままに、『日立 世界ふしぎ発見!』は今年4月で38年目に突入する。
文/井上マサキ(いのうえ・まさき)
1975年 宮城県石巻市生まれ。神奈川県在住。二児の父。大学卒業後、大手SIerにてシステムエンジニアとして勤務。ブログ執筆などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。企業広報やWebメディアなどで執筆するかたわら、「路線図マニア」としてメディアにも出演。著書に『日本の路線図』(三才ブックス)、『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』(ダイヤモンド社)など。