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『病院ラジオ』サンドウイッチマンの丁寧な「聞く力」は見る人を前向きで温かな気持ちにする

 1日だけ病院の中にラジオブースができて、サンドウィッチマンのふたりが思いを聞いてくれる。2018年から不定期で放送、大好評を博すNHK『病院ラジオ』の「産婦人科病院編」(2.23放送)にまた泣かされた。バラエティを愛するテレビっ子ライター・井上マサキさんが、涙をこらえながら紹介します。

病院の中に1日限定のラジオ局を開設

『病院ラジオ』(NHK総合)は、サンドウィッチマンの2人がワゴン車で病院に向かうシーンから始まる。

 といっても、2人が医者にかかるわけではない。車に積み込まれているのは、マイクやケーブル、ミキサー卓など、ラジオ放送に必要なセット。病院に到着した2人は積み荷を降ろし、病院の中に簡単なラジオブースを設置する。病院内でしか聞けない1日限定のラジオ局「病院ラジオ」のスタートである。

 2018年から不定期に放送されている『病院ラジオ』は、病院内のラジオブースに患者やその家族を迎え、日ごろ言えない本音や思いを聞き出していくトーク番組。これまで「子ども病院」「がん専門病院」「依存症治療病院」など、全国のさまざまな病院を訪れてきた。

 2月23日に放送されたシリーズ第7弾は、産婦人科病院が舞台だった。サンドウィッチマンが訪れたのは、熊本市にある福田病院。年間約3700人、毎日10人前後の新しい命が誕生する“日本一赤ちゃんが生まれる病院”である。院内を案内された2人は、新生児室で眠る赤ちゃんたちに「かわいい~」「娘のときを思い出すなぁ」と目を細める。

「あの子だ!」と気づいた瞬間泣けてしまう

 最初にラジオブースを訪れたのは、2人の娘を持つ母親だった。福田病院には「10年前、最初の子どもを出産したときにお世話になって」という。当時妊娠6ヶ月で破水し、7ヶ月で出産。生まれた子どもは660gで、両手にすっぽり収まるくらいの大きさしかなかった。赤ちゃんは呼吸がうまくできず、気管切開の手術を受け、半年近く入院していたそう。

「心配じゃなかったですか?」「破水したときから、なんか『大丈夫だろう』って思ってて」「基本、気にしないタイプ?」「はい、ザーッとしてるんで(笑い)」「そんなことないでしょ(笑い)」というおしゃべりは、院内に設置したラジオから流れている。待合室や治療室、病室でラジオに耳を傾ける親子、スピーカーを囲む看護師たちなど、カメラは院内の様子を映す。

 その中に、廊下に置かれた椅子で、落ち着き無くラジオを聞いている女の子がいる。何度もその子が映ることで、見ている側はこの子が「かつて660gで生まれた女の子」だと分かってくる。その瞬間に「大きくなって……!」と、もう涙目である。

 トーク後半、ラジオから呼びかけられた女の子は、お母さんが待つラジオブースへ。将来の夢は保育士で、「赤ちゃんのお世話をしたいから」だそう。お母さんからの曲のリクエストをもらって、このトークパートは終了。高橋優「ロードムービー」をBGMに、映像は母子の日常を切り取る。トラック運転手として働く母と、外で元気に遊ぶ娘。そこに、離れていても繋がっていることを歌う声が重なる。

『病院ラジオ』は、ナレーションや字幕による説明がほとんどない。ゲストが話す言葉はそのまま聞かせるし、ラジオを聞く家族の表情は遠くからそっとうかがう。余計な演出なしに、患者やその家族が発する言葉にじっと耳を傾ける体験は、まさに「ラジオ」そのものだろう。

 その一方で、リクエスト曲を流すときは、歌詞を字幕で表示する。ベッドで眠る新生児や、日常を過ごす家族の映像に歌詞が重なることで、歌が持つメッセージがより強く胸に迫るのだ。特に、番組最後にかかったリクエスト曲『世界に一つだけの花』は、登場した全ての家族を思い起こさせ……また涙腺が緩んでしまうのである。

番組を支えるサンドウィッチマンの「聞く力」

 病院でのトークは、時に重たい話にもなる。でも『病院ラジオ』を見終わったあとは、不思議と前向きで温かな気持ちになってしまう。そう思わせてくれるのも、サンドウィッチマンの「聞く力」によるところが大きい。

 病気の話は、誰彼構わず話すようなことではない。とは言え、誰かに聞いてほしい話でもある。辛かったこと、大変だったことを言葉にして吐き出すことで、心が楽になることだってある。そもそも、自らラジオブースへの出演を希望した人たちには、なにか話したいことがあるはずだ。

 サンドウィッチマンはその思いを丁寧にすくい上げる。メモを取りながら話を聞き、目を見てうなづき、さえぎることも決めつけることもしない。話を茶化したり、辛かった経験を無理に掘り下げたりせず、相手が話したい方向を優先する。それでいて、笑えるところは一緒に笑う。

 その態度は誰に対しても変わらない。事故で重度の障害を負った人にも、100万人に1人の難病を患った人にも、下半身麻痺でリハビリに励む子どもにも、1人で育てることを決意したシングルマザーにも、みんなフラットだ。

 そして話を聞いたあと、サンドウィッチマンは「現在」「未来」へと話をつないでいく。病を経験したいま、家族はどんな存在だと思えるか? この機会に伝えたいメッセージは?

「自分の話を聞いてくれる」と思える場だからこそ、普段は照れて言えないような、感謝や愛の言葉も口に出せてしまう。こうして、ひとつひとつのトークが明日を見据えて終わるので、見る側にも温かい気持ちが残るのだろう。

「産婦人科病院編」では、こんな一幕もあった。ラジオの開始から「出産に立ち会うために病院で待っているご家族」を募集したところ、若い男性がラジオブースにやってきた。30分くらい前に連絡を受けて駆けつけ、もうすぐ初めてパパになるという。「ドキドキするね!」と話していると、看護師が「ご主人、お産なんで」と呼びに来た!

「ちょっと俺も行ってくる」と中腰になる富澤を伊達が止め、「すごいところにいるよ」と放心する2人。そしてしばらく経ち、さっきの男性が帰ってきた。あとあとすぐに、元気な赤ちゃんが生まれたとのこと。「おめでとう!」と祝福して、番組はエンディングに。

 収録中に新しい命が生まれる。これを超える「明日」へのメッセージなど、他にないだろうな……と思うのだった。

構成・文/井上マサキ(いのうえ・まさき)

井上マサキ

1975年 宮城県石巻市生まれ。神奈川県在住。二児の父。大学卒業後、大手SIerにてシステムエンジニアとして勤務。ブログ執筆などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。企業広報やWebメディアなどで執筆するかたわら、「路線図マニア」としてメディアにも出演。著書に『日本の路線図』(三才ブックス)、『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』(ダイヤモンド社)など。

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