「俳句甲子園」間もなく開催!文系高校生たちの青春ドキュメンタリーに感動必至の名場面をプレイバック
甲子園球児たちも熱いけれど、575に賭ける高校生たちの戦いも負けていない。今年は久々のリアル開催も楽しみな「全国高校俳句選手権大会」のこれまでの名勝負を、テレビウォッチャー・北村ヂンさんが紹介します。
俳句に興味がなくても
夏、真っ盛り! 夏に行われる、高校生たちの熱い戦いといえば……もちろん「全国高校俳句選手権大会」、通称「俳句甲子園」だ。
正岡子規や高浜虚子など、著名な俳人を生んだ愛媛県松山市で、毎年8月に開催されている俳句甲子園。9月にはNHKで、本大会を追ったドキュメンタリーが放送されるのが恒例となっている。
俳句大会の番組なんて、いかにも地味そうだが、そこはドキュメンタリーに強いNHK。勝敗よりも人間模様に重点を置いた、俳句版『熱闘甲子園』といった構成となっており、俳句に興味がなくても、思わず熱くなってしまう青春ドキュメンタリーとなっているのだ。
ぎこちないディスりあい
大会は、各チーム5名による団体戦となっている。
主催者側から出されたお題に対応した俳句を事前に用意しておき、先鋒戦、次鋒戦、中堅戦……のように星取り戦形式で各校1句ずつ披露。その後、お互いの句に対しての質疑応答が行われる。
審査員は俳句の創作力、質疑応答の鑑賞力などを考慮して勝敗を決め、3本先取したチームの勝利となる。高校生ならではのみずみずしい俳句もいいのだが、やはりこの大会のミソは質疑応答タイム!
ここでは“鑑賞力”が問われているので、当然、相手チームの句を褒めてもいいわけだが、やはり勝負なので、全面的に褒めるケースは稀。
「景がぶれている」「意図が伝わってこない」などと、いろいろな理由を付けて、「相手チームの句がいかにダメか」を指摘する形になるのが定番なのだ。
相手チームの痛いところをズバッと突く質疑。それに対し、味方チームの句を必死で擁護する応答。
普段、口げんかなんてしないであろう文化系高校生たちが、微妙に相手を気を遣いつつも、熱く言い争う質疑応答タイム。
自分の思いをうまく表現することができずに泣き出してしまったり、相手の屁理屈にふてくされたり……。感情をむき出しにした、高校生たちのやり取りにグッとくるのだ。
ベスト回は2019年大会!
毎年、地味ながらも熱い戦いが繰り広げられ、まんまと感動してしまう俳句甲子園。
中でも忘れられないのが、2019年大会の『自分が自分であるために詠む~俳句甲子園2019~』だ。
この年のドキュメンタリーは、埼玉県・星野高校文芸部を中心に追っていた。この部の絶対的センターは2年生の野城知里。俳句甲子園に出場したいがために部員を集め、文芸部を立ち上げたというガチな俳句少女だ。予選リーグで披露した、
Jアラート試験放送毛虫這ふ
という句は、『プレバト!!』での毒舌査定でもおなじみの夏井いつきなど、プロの俳人からも絶賛されていた。2019年といえば、コロナ禍前。ちょいちょい北朝鮮から飛翔体が発射され、Jアラートが鳴り響いていた。
「私、毛虫サイドでありたいと思っているんです。何も知らない傍観者じゃないですか、毛虫って」
そんな野城の親友として登場したのが、同チームの徳丸琴乃。俳句未経験だったが、野城に強引に誘われて文芸部に入部したのだという。
「野城がいなかったら(俳句を)やっていないし、今現在、野城が消滅したとしてもやっていないですよ。野城がいるからやっているレベル」
「お前(野城)が近くにいる限りやめられない気がしているから」
この関係性がもう熱い。初心者だった徳丸だが、野城に引っ張られる形で実力を伸ばし、大人も参加する句会で最高評価を受けるなど頭角を現している。
本気だからこそ
そして本大会。質疑応答では、口下手な徳丸に変わって、野城をはじめとした他メンバーがしゃべってフォローするという形を取っていた。
鉄棒の錆になりゆく毛虫かな
徳丸は、事前のインタビューでこの句についてこう語っていた。
「鉄棒におけるかさぶたが毛虫で、社会におけるかさぶたが僕かな……みたいな」
僕っ子なのか、徳丸さん! ……それはいいとして、彼女は「生きづらさ」をテーマにした句をたくさん作っているようだ。事件は準々決勝で起こった。
生くること難し玉葱吊るしたる
吊された玉葱に首吊りの“死”のイメージを重ねて詠んだ句だという徳丸の句。
ただ、「高校生らしい素直な句」を求められる俳句甲子園において、徳丸の思いそのままをぶつけるのは得策ではないと判断したのだろう。
チームとしては、「生きづらくとも生きる」という解釈で質疑応答に臨むと決めていた。おそらく徳丸自身もその方針に同意していたはずだ。案の定、相手チームより、句の暗さを指摘されると、野城がフォローを入れる。
「“玉葱を吊す”というのは生きるための行為ですから……」
しかし徳丸は、句を作った時の思いを捨てきれず、思わず「違う!」と叫んでしまった。同チームの発言に反論するというのは超・異例。会場に流れる、ものすごく変な空気。
この徳丸の反応に驚いたのか、常にチームを引っ張ってきた野城は泣き出し、しゃべれなくなってしまう。
そんな野城に代わって、他のメンバーが発言をしてカバー。さらに、これまでほとんど質疑応答に参加してこなかった徳丸も発言をする。野城がグイグイ引っ張るワンマンチームだった星野高校が全員野球に。ザ・青春な場面!
結局、試合は相手の弘前高校チームに5本取られて完敗。
野城は最後のコメントでけなげに笑顔を浮かべて「泣いてただけのやつとして終わりたくないので、とりあえず話します!」と相手チームにエールを送っていた。
一方、俳句甲子園にこだわっていた野城以上に感情をむき出しにして号泣していたのが徳丸。
「点数の高かった句が自分の中の知っているいい句と全然ちげえんですよ。……俳句わかんねえ!」
「俳句をやりたくない」
ラストは、再び「俳句をやりたくない」といっていた徳丸が、再び句会に姿を現したところでエンド。
他のチームの様子も紹介しつつ、45分という短時間にこれだけの青春ドラマを詰め込んでいた2019年の俳句甲子園。
星野高校の他にも、「童貞」をテーマにド天才な句を次々に生み出す男子高校生が登場したりと見どころ満載。何かチャンスがあったら是非見てもらいたい。
NHKのドキュメンタリーとは別編集にはなってしまうが、この年の大会は『俳句甲子園ドキュメントDVDブック2019年度版 あの日、涙の向こう側 彼らは何を見たんだろう〜17音の物語〜』というDVDにもまとめられている。
やはり特に熱い大会だったのだろう。
久々のリアル開催予定!
ここ2年は、新型コロナウイルス感染症の影響で、俳句甲子園もリモート開催されていた。リモートであっても、高校生たちの熱い思いは伝わってくるものの、やはり対面で繰り広げられるドラマと比べると物足りなさも感じてしまうのも事実。
そして、間もなく開催される2022年大会。今年は、無観客ではあるものの、高校生たちが松山に集って大会が開催されるようだ。おそらくNHKのドキュメンタリーも9月には放送されるはず。青春好きは要チェックなのだ!
文とイラスト/北村ヂン
1975年群馬県生まれ。各種おもしろ記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。……といいつつ最近は漫画ばかり描いています。