NHK『100カメ』は“神の視点”のドキュメンタリー!オードリーも感動「優秀な歯車になれ」と名言も
この春からレギュラー放送がスタートした『100カメ』(NHK総合 火曜よる11時~)は、“気になる場所”に100台の小型カメラを設置して、人々の生態を観察するドキュメンタリー番組です。そこに生まれるドラマを見届けるのはお笑いコンビ・オードリー。技術と労力の結晶とも言える番組の得難い魅力をバラエティを愛するテレビっ子ライター・井上マサキさんが考察します。
カメラがありすぎてカメラを意識しなくなる?
たとえば自分が神様になったとして、地球上のすべての人間たちを観察できるようになったら、こんな視点になるのかもしれない。
『100カメ』(NHK総合)を見ていると、そんな気持ちになる。“気になる場所”に100台の小型カメラを設置して、人々の生態を観察するドキュメンタリー番組だ。これまで何度かの特番を経て、この春からレギュラー放送がスタート。スタジオでVTRを見届けるのはオードリーの2人である。
これまで「100カメ」では、少年ジャンプ編集部や結婚相談所、なんばグランド花月、カツオ漁船など、さまざま場所に100台カメラを仕掛けてきた。なんせ100台である。右を見ても左を見てもカメラ!カメラ!カメラ! ひとつの部屋に4~5台あるのは当たり前で、デスクの足元、引き出しの中、お掃除ロボットの上にまでカメラが設置されていたりする。死角無し。
たとえば「美容クリニック」の回では、受付や診察室、手術室など、クリニック内のあらゆる場所にカメラを設置した。診察を待つ親子の会話や、自分も治療しようかなと相談する看護師たち、施術を自分で試してみる院長、そして実際の手術の様子まで映し出し、「こんな世界があったのか……!」とオードリーを驚かせた。
いやでも、自分の周りにカメラが100台もあったら、気になってしょうがないのでは……と思うのだけど、どうも現場は逆のよう。
カメラ1台だと前を通るたび気になるけど、100台もあると何をしてても映っちゃう。いちいち気にしてられないのだ。やがて100台のカメラは当たり前の光景になり、いつも通りの自然な振る舞いや会話が繰り広げられる。
「カメラがありすぎてカメラを意識しない」という逆転現象から、日常をのぞき見できる『100カメ』。その光景はまさに「神の視点」なのである。
100台のカメラが記録する「それぞれの営み」
基本的に1か所にカメラ100台を設置する『100カメ』だが、時には複数の地点にカメラを分散させる回もある。
「美容室」の回では、全国5ヵ所の美容室にカメラを設置した。茨城の店はパンチパーマとリーゼントが専門で、丸い頭の上に四角いパンチパーマを見事にセットしてみせる。歌舞伎町には出勤前の「夜の蝶」たちが集まる美容室が。10分足らずでセットを終えて送り出す、熟練の技に釘付けになる。
そして北九州の美容室もすごかった。髪を刈り上げて柄や文字を入れるバリカンアートの達人で、成人式を控えた若者たちの予約が殺到。60人超の客を不眠不休でセットしていく。しかも、式場で同じ柄がかぶらないよう全員デザインを変えて……!
同じ「美容室」でも違うタイプのプロがいて、それぞれがお客さんの思いに応えようとしている。100台のカメラは「あちこちの場所に同じ思いを持つ人がいる」ことを映し出す。その意味では、特番で放送された「阪神タイガースファン」回も印象深いものだった。
巨人対阪神の伝統の一戦が行われた夜、100台のカメラは甲子園球場、タクシー、居酒屋、テレビの前に集まる子どもたちなど、各地で試合を見守る阪神タイガースファンたちを記録した。離れていても心はひとつ。監督の采配に不満があればみんながブーブー言い、阪神の選手がホームランを打てばみんなが「やったー!」と歓喜する。
この日、阪神は見事勝利を飾った。家族でテレビ観戦をしていた主婦は「アレクサ!六甲おろし流して!」と叫び、閉店後の食堂で静かにラジオを聞いていた主人は「やっと勝ちおった」とラジオを消して立ち上がる。街の灯りひとつひとつに誰かの営みがあることを、100台のカメラは思い出させてくれる。
“自分ごと”に引き寄せるオードリーのコメント
VTRを見届けるオードリーにも触れておきたい。100台のカメラによる密着を見た2人から、彼らの仕事観が聞けるのも『100カメ』の醍醐味のひとつだ。
「日本一のサーカス団」の回では、120年の歴史を持つ木下大サーカスに密着。空中ブランコや猛獣使いなどの迫力ある映像が続くなか、公演デビューを目指す若手団員・キヨモトさんにフォーカスする。
デビューするには、社長の前で演技を披露してOKをもらわねばならない。先輩たちとアクロバットを練習するキヨモトさんだが、少しでも目立ちたくて必要のない宙返り(前宙)をし、先輩から注意されてしまう。そのときの先輩の言葉が「優秀な歯車になれ」。
その様子を見たオードリーは、「キヨモトさんの気持ちわかる。出たてのころは、みんなが普通に飛んでるのに“前宙”しちゃったりするよなぁ……って」(若林正恭)、「先輩方がフォローしてくれたのにも気づかなくて、自分の手柄だと思ったりね」(春日俊彰)とキヨモトさんに共感。そして今の立場から「優秀な歯車にも仕事の充実感ってあるんだよね」(若林)、「私もオードリーの優秀な歯車としてやってきた思いはありますけど(笑)」(春日)と語り合う。
他にも、「“家族”シェアハウス」からは、40歳を過ぎてから人の輪に飛び込む大変さと大切さを、「K-POP養成所」からは、悔しさと劣等感が自分を伸ばすエネルギーとなることを見て取る2人。100カメの向こう側を“異世界”として扱わず、「そういうのってあるよね」と自分ごとに引き寄せてコメントしてくれるから、見ているこちらにも深い余韻が残るのだろう。
それにしても、100台のカメラが数日かけて残した映像を30分番組に編集するなんて、とんでもない労力のはず。神様もあちこち覗くのは大変だ。どうか無理せず、末永く続いてほしい番組である。
文/井上マサキ(いのうえ・まさき)
1975年 宮城県石巻市生まれ。神奈川県在住。二児の父。大学卒業後、大手SIerにてシステムエンジニアとして勤務。ブログ執筆などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。企業広報やWebメディアなどで執筆するかたわら、「路線図マニア」としてメディアにも出演。著書に『日本の路線図』(三才ブックス)、『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』(ダイヤモンド社)など。