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今こそ話しておきたい空襲体験「つらいことがいっぱい起きた」【毒蝮三太夫vs林家木久扇スペシャル対談vol.1】

 毒舌の帝王・毒蝮三太夫85歳。バカの天才・林家木久扇84歳。それぞれの第一人者であるふたりは、故・立川談志とのつながりをきっかけに50年以上の付き合いがある。ともに東京に生まれ育って、空襲で家を失った。懐かしい話が次々に飛び出した内容充実のロング対談から、空襲体験と戦争への思いを語った部分を紹介しよう。(構成・石原壮一郎)

「また戦争を起こすなんて、人間に対する裏切りですよ」(木久扇)

毒蝮三太夫(以下、毒蝮)「木久ちゃんは、日本橋の久松町で生まれたんだよね」

林家木久扇(以下、木久扇)「そうです。明治座のすぐ近くです」

毒蝮「俺は戦争の頃は、品川区の中延にいた。お互い、たいへんな目に遭ったな」

木久扇「昭和20年になると戦況がいよいよ悪化して、毎晩のように空襲がありました。ぼくは小学1年生でしたけど、空襲警報が鳴るとおばあさんの手を引いて近所の防空壕に避難するんです。真っ暗な中で息をひそめてると、空の上にたくさんのB29が『ゴー』って飛んでる音が聞こえる。いつ爆弾が落ちてくるかわらない。もし落ちてきたら、それまでです。生きた心地がしないとはあのことですね」

毒蝮「そうだよな。3月10日の東京大空襲のときはたいへんだったでしょ」

木久扇「大量に落とされた焼夷弾が下町一帯を燃え尽くして、10万人の方が亡くなりました。ぼくは直前に親に言われて、母親の親戚がある高円寺に“疎開”していたんです。だけど、久松町の実家の雑貨問屋は焼けてしまいました」

毒蝮「命拾いしたね。親御さんのファインプレーだ。あの夜、品川から見ると下町方面は空一面が真っ赤だった。こりゃ、ただごとじゃないと思ったね」

木久扇「高円寺からも、東の空が真っ赤に見えたのを覚えてます。久松小学校で疎開していなかった生徒が200人いたんですけど、半分死んじゃいました。跡取りだから手元に置いときたいと、親と一緒にいた子どもの多くが死んじゃったんですよね」

毒蝮「俺は跡取りっていうのとは違うけど、疎開せずに親といた。おやじが『死ぬときはみんな一緒だ』と思ったらしい。5月24日の城南大空襲のときは、火の海の中をおふくろと必死で逃げた。爆風が痛いし、煙で目も痛くてたまらない。途中で『こんなにつらいなら死んだほうがいいよ』って言ったら、おふくろが『バカ、死ぬために逃げてんじゃないよ。生きために逃げてんだから頑張んな』って叱られた。やっぱりおふくろは強かったね」

木久扇「そうでしたか。母性の本能なんでしょうね。よくぞご無事で」

毒蝮「翌日、夜が明けて家に帰るときも、地面が熱いんだよ。歩いているうちに靴の底が焦げて穴があいてくる。そしたら、道端に子ども用の革靴が落ちてた。駆け寄って拾ったんだけど、ずっしり重いんだよね。中を見たら足首が入ってた。履いてた子どもは、爆風で飛ばされたんだろうな。俺は手を合わせて、その靴を履いたよ。いつもは厳しいおふくろだったけど、何も言わなかった。履くことが供養だと思ったのかもしれない」

木久扇「そんなことが……。戦争っていうのは、つらいことがいっぱい起きてしまう。でも、今もまたウクライナではロシアが戦争をやってます。人間に対する裏切りですよ。ニュースを見てたら、国境まで3日間飲まず食わずで歩いて避難した親子連れが出てました。そういう話を聞くと、胸が締め付けられます」

「俺たちの世代がしゃべっていかないといけないな」(毒蝮)

毒蝮「爆撃の映像は、あの日の自分と重なって、見ていて何と言えない気持ちになる。俺が怖いなって思うのは、戦争を体験していない政治家が戦争をやっちゃってるってこと。俺たちの世代が、戦争のときどんな目に遭ったか、戦争ってのはいかに残酷かをしゃべっていかなきゃいけないんだろうな」

木久扇「そうですね。でも本音を言うと、戦争のときの話は嫌なんです。でも、話しておいたほうがいいのかなとは思ってます」

毒蝮「そうなんだよね。けっして楽しい話じゃないし、つらい思い出もよみがえってくる。俺も以前はしゃべりたくなかったんだけど、10年ぐらい前から考えを変えた。第二次世界大戦で兵隊を経験した人は、もうほとんどいなくなった。俺たちもいつまで元気でいられるかわからない。今、しゃべっておかないと大事な記憶が伝わらないからね」

木久扇「これ以上、戦争でひどい目に遭う人が増えちゃいけない。若い人たちが経験者の話を聞いて、『とにかく戦争はやっちゃだめだ』と思ってくれるといいですね」

毒蝮「まったく同感だ。政治家に限らないけど、戦争をゲーム感覚で見ている人が多いようにも感じる。戦争は現実の世界で起きることだし、人の命はリセットできないんだ。しかし、木久ちゃんとは長い付き合いだけど、こういう真面目な話をするのは初めてだね。このあいだ『バカのすすめ』(※)なんて本を出した人とは思えないよ」

木久扇「いえいえ、バカの素晴らしさを伝えるのと平和の大切さを伝えるのは、けっして無関係ではありませんから」

毒蝮「たしかにそうだ。世界中の人が木久ちゃんみたいな『愛されるバカ』になったら、戦争なんて起こりっこない」

木久扇「それはそれで、困った世の中かもしれませんね」

スペシャル対談の第二回は3月29日(火)公開予定。

※『バカのすすめ』(ダイヤモンド社刊)

毒蝮三太夫(どくまむし さんだゆう)

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。85歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。去年の暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。自伝的著書『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は毒蝮一家のファミリーヒストリーを通して、戦前、戦中、戦後をたくましく生き抜いた“庶民の昭和史”が描かれている。幸せとは何かに気づかせてくれる一冊!

YouTubeの「マムちゃんねる【公式】(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)」も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、11日、21日に新しい動画を配信中。

林家木久扇(はやしや きくおう)

1937(昭和12)年、東京日本橋生まれ。落語家、漫画家、実業家。1956年、都立中野工業高等学校(食品化学科)卒業後、食品会社を経て、漫画家・清水崑の書生となる。1960年、三代目桂三木助に入門。翌年、三木助没後に八代目林家正蔵門下へ移り、林家木久蔵の名を授かる。1969年、日本テレビ「笑点」のレギュラーメンバーに。1973年、林家木久蔵のまま真打ち昇進。1982年、横山やすしらと「全国ラーメン党」を結成。1992年、落語協会理事に就任。2007年、林家木久扇・二代目木久蔵の親子ダブル襲名を行ない、大きな話題を呼ぶ。2010年、落語協会理事を退いて相談役に就任。2021年、生家に近く幼少の頃はその看板を模写していた「明治座」で、1年の延期を経て「林家木久扇 芸能生活60周年記念公演」を行う。「おバカキャラ」で老若男女に愛され、落語、漫画、イラスト、作詞、ラーメンの販売など、常識の枠を超えて幅広く活躍。「バカ」の素晴らしさと底力、そして無限の可能性を世に知らしめている。おもな著書に『昭和下町人情ばなし』『バカの天才まくら集』『イライラしたら豆を買いなさい』『木久扇のチャンバラ大好き人生』など。

最新刊!

林家木久扇著『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)。3月9日発売。バカの天才・林家木久扇が、波瀾万丈なバカ色の人生を振り返りつつ、バカであることの大切さ、バカの強さ、愛されるバカになる方法を伝授する。「生きづらさ」を吹き飛ばしてくれる一冊!

石原壮一郎(いしはら そういちろう) 

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。林家木久扇著『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)の構成を担当した。

撮影/小倉雄一郎

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