小学館IDについて

小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼント にお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
閉じる ×
連載

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第134回 トイレスリッパ問題】

 ライターのツガエマナミコさんは、若年性認知症を患う兄と2人暮らし。これまでも、兄の摩訶不思議な行動に翻弄されてきました。例えば、洗面所のコップの中や、ベランダで用を足してしまうことや、床に便が落ちていたこと…。そして今回は、新たなトイレ問題が発生してしまったというお話です。

「明るく、時にシュールに」、認知症を考えます。

 * * *

たかがスリッパ、されどスリッパ

 最近、深夜トイレに行くと、そこにあるはずのスリッパが消えている事件が頻発しております。犯人は言うまでもなく兄上でございます。日中はご自分のスリッパのままお出入りされるのですが、深夜はきっとおソックスでおでましになり庶民のトイレスリッパをご使用され、そのまま自室に戻られるのでございましょう。わたくしもここのところ夜間頻尿でよく起きるわけでございまして、「スリッパがない!」となって仕方なく自分のスリッパで出入りしている次第でございます。

 今朝もスリッパがなかったので兄が朝食を召し上がっているうちに兄の部屋に探しに行きますと、きちんと互い違いにスリッパを組み合わせてティッシュボックスの下に隠すように置いてあるではありませんか。

 わざとじゃない、考えてやっていないとわかってはおりますし、必ず兄の部屋にあるのですから、それほど困ったことではないと客観的に分析できますけれども、「あ~あ」という落胆事項がまた増えたような気がいたします。

 そもそも兄はスリッパを使い分けていないのですから、もうトイレスリッパなど廃止してしまえばいいとおっしゃる人もいるでしょう。でも、わたくしは気分的衛生的に無理でございます。兄上が飛び散らかしているトイレと自分の部屋を同じスリッパで行き来するなど到底できません。

 しかし、しかし、兄上のスリッパはすでにリビングを汚しているのですから、その上を歩くわたくしのスリッパも同様に汚れており、自分の部屋も結局は同じように汚れるわけなのでトイレスリッパに固執する理由はないとも考えられます……。

 いっそ、兄上のスリッパを廃止するということも考えないでもございません。でも冬は床暖房のないフローリングの我が家では確実に寒い。そして夏に裸足で歩かれるのも許せません。

 たかがスリッパ、されどスリッパでございます。

 でも逆に落胆が減っている事項もございます。まずは「お風呂」。これはデイケアで週1回必ず入れてくださるので、以前のようにわたくしが付き添わなければならない落胆は解消されました。次に「コップDEオシッコ」でございます。あんなに毎日洗面所のコップにお尿さまを放出しておりましたのにデイケアに行き始めてから徐々になくなり、現在、常にグラスは空っぽでございます。

 そしてさんざん泣かされた「お便さま」もまったく拝見することがなくなりました。不思議なくらい順調で、この順調が続けば続くほど、再びお便さま地獄がやってきたときの衝撃に耐えられるだろうかと、自分のことが心配になります。

 お薬が効いているのでしょうか。デイケアに行き始めたことが大きいのかもしれませんが、お薬の効果も多少関係しているかもしれません。

 そういえば先日、主治医・財前先生(仮)からわたくしのスマホにお電話をいただきました。

「え?直にかけてくるってなにごと?」と思いましたが、なんのことはないお願いしていた兄の診断書についての確認でした。診察時に「兄の年金申請に診断書が必要なのですが」と年金事務所から渡された専用の用紙を見せながら言いかけると、「それは文書課に出してください」といつものように冷た~くおっしゃったので仰せの通り文書課に申請していたのです。書くにあたってわからない項目があったので直接お電話をくださったという経緯でした。

 質問は「お兄さんが生まれたのはどちらですか?」とか「小学校や中学校は普通学校でしたか?」など本当に確認程度の内容でした。

 意外だったのは、いつもの先生よりもグッと若く、大学生と話しているような印象を持ったことでございます。「診察のときに確認すればよかったのですけど、遅くなってすみません」と素直に非を認めたりしてまるで別人。財前先生(仮)も人の子、白衣を着て診察モードのときにはそれなりに気を張っているのかもしれないと、なぜか母のような心境にもなりました。

 その診断書を数日前に受け取りに行き、無事に年金事務所に郵送いたしました。あとは兄の通帳に年金が入ってくるのを待つばかりのツガエでございます。

◀前の話を読む 次の話を読む

この連載の一覧へ!

文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性58才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現63才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

#介護が始まるときに知っておきたいこと

#介護保険制度の基礎知識

 

コメント

ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

この記事へのみんなのコメント

  • あの煮鱒

    スリッパ問題はリビングの入口に消毒液を浸したマットを置くというのも厄介でしょうし、何かを割り切らないと難しいかもしれないですね。しかしその他の問題が収まりつつあるのが素晴らしいです。どのような生活訓練をなさっているのでしょうか。 ベランダ問題も解決しますように。こちらはわざわざ荷物をどかしてまで排泄するのが謎です。ただ、混乱というより、強い意志をもってベランダで排泄している感じがしますが、どうなのでしょう。言葉の理解も難しくなっているご様子なので、口で言って理解する段階ではないのでしょうね。 書類の件、細かいことまで聞かれるのですね。なかなかオミクロンも収まらず、戦火の中にある国もありますが、どうか日々が少しでも穏やかでありますように。

最近のコメント

シリーズ

最新介護ニュース
最新介護ニュース
介護にまつわる最新ストレートニュースをピックアップしてご紹介。国や自治体が制定、検討中の介護に関する制度や施策の最新情報はこちらでチェックできます!
介護中のニオイ悩み 対処法・解決法
介護中のニオイ悩み 対処法・解決法
介護の困りごとの一つに“ニオイ”があります。デリケートなことだからこそ、ちゃんと向き合い、軽減したいものです。ニオイに関するアンケート調査や、専門家による解決法、対処法をご紹介します。
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「聞こえ」を考える
「聞こえ」を考える
聞こえにくいかも…年だからとあきらめないで!なぜ聞こえにくくなるのか?聞こえの悩みを解決する方法は?専門家が教えてくれる聞こえの仕組みや最新グッズを紹介します
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。