《親の介護は子供がすべき》という家族の呪縛「他人に任せることも大切」専門家が指摘
人生100年時代のいま、少子高齢社会や働く女性の増加など社会が大きく変化したことで介護の在り方も変わっている。親が元気なうちに介護について家族会議の場を設けたいものだが、必要に応じて行政や民間のサービスを頼るべきだという。その理由を専門家に聞いた。
教えてくれた人
川内潤さん/NPO法人となりのかいご代表理事、河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
“家族の呪縛”が介護を苦しめる
家族の面倒は家族が見るべき――日本にはいまだそうした“家族の呪縛”ともいえる規範意識が強く残るが、まずはその意識を捨ててもいい。
「40年ほど前は専業主婦も多く、介護期間もいまほど長くなかったので介護は家族がすべきという考えが当たり前でしたが、現在の環境はまったく違うでしょう。
でも、仕事よりも家族を大事にすべきじゃないか、育ててもらった恩を返さなければなどの思いから、家族の介護は自分たちでやらなければ親をないがしろにしているなど自責の念を覚える人は多いんです。特に実の親に対しては、そのような思いを強く持つ傾向にあります。
親が面倒を見てほしいと求めているのだから応えなければと思うのは愛情ではなく、ある種の強迫観念です。介護の知識や経験、技術があるわれわれ専門職ですら“自分の家族の介護は直接やるべきではない”と習います。よりよい介護をするためには行政、民間のサービスを積極的に活用し、“他人に任せる”必要があります」(NPO法人となりのかいご代表理事の川内潤さん)
介護と就業の壁にぶつかる人が増加
介護で離職する女性の割合は、多い。※出典/総務省「就業構造基本調査」
親の介護・看護を理由とする離職者数の推移
2011年10月〜2012年9月…合計:10万1100人(女性:8万1200人/男性:1万9900人)
2016年10月〜2017年9月…合計:9万9100人(女性:7万5100人/男性:2万4000人)
2021年10月〜2022年9月…合計:10万6200人(女性:8万人/2万6200人)
親の介護をしながら就業する者
2012年10月…291.0万人
2017年10月…346.3万人 ※2012年と比べて+55.3万人
2022年10月…364.6万人 ※2017年と比べて+18.3万人
財産管理や介護費用はお金のプロに相談してみよう!
事実、介護が理由で離職する人においては女性の割合が圧倒的に高く、「なぜ私だけが…」とほかの家族に不満を抱くきっかけにもなる。そうした事態を招かないために、お金のプロを頼ることを検討してもいい。
「介護が始まってからはケアマネジャーなどが中心となりますので、ファイナンシャルプランナーには基本的には元気なうちに相談してほしい。両親や配偶者の財産管理や、介護費用について、施設を頼ることになったら自宅をどうするかなどは事前に話しておくといいですね」(ファイナンシャルプランナーで行政書士の河村修一さん・以下同)
どんなサービスを受けたいか、施設をどう選ぶか、疾患の状態はどうかなどでかかる介護費用は大きく変わる。
「生命保険文化センターの調査によると、一時費用47万円、介護費用の平均は月9万円。そして平均的な介護期間は約55か月とされているので、おおむね550万円ほどかかる計算です。これをひとつの目安として、施設の入居費や利用料などを算出し、誰がどのように負担するか、相談しておきましょう。公的介護保険も活用すべきですが、現実的にカバーできない面も多い。民間の介護保険を視野に入れてもいいでしょう」
介護に“想定外”のお金はつきものだ。
「まだつきっきりで介護する必要はないものの定期的に様子を見に行く必要がある場合、遠方だと交通費はばかになりません。さらに親が施設に入っていて実家を売却していたら、訪れるたびに宿泊費がかかることもある。当然、医療費控除などの対象にはなりませんから、そうした費用の捻出も加味しておくことです」
介護離職を避けるためには、プロの手を借りることはもちろん、会社の人を頼ってもいいと河村さんは続ける。
「まずは自分が勤める会社の介護休業制度については、人事や総務に聞いて把握しておく。そのうえで、上司に介護をしていることを伝え、自分から発信していくことが大切です。
40代から50代の世代のかたには介護経験者がいる可能性があり、その人に味方になってもらうと、多少の融通が利くこともあります。介護離職は、収入が途絶えることによる生活不安もありますが、年金受給額が減るなど、将来にわたって不利になってしまう。介護離職に追い込まれる人がいないような役割分担、サービス活用を検討して」
親の介護の場合には、原則として親自身に費用を負担してもらうことを考えたい。ただし子供が親の資産状況を聞く場合、その切り出し方には注意が必要だ。
「きょうだい同士でどう負担を分け合うかという話し合いはとても大切です。ただし、まだまだ元気で働いている親にいきなりお金の話を持ちかけると怒ってしまうケースは珍しくありません。そうしたときには、“友達が困っていて”とか“テレビでこんな話を見て気になって”など事例を出すといいでしょう」
家族会議は元気なうちから始めた方がいいが、介護が始まってからでももちろん遅くはない。
その場合には、ケアマネジャーやヘルパーにも参加してもらうといいと川内さんが言う。
「繰り返しになりますが、家族だけでの介護には破綻が生じます。互いに甘えが出てしまい、それが負担となって介護虐待に発展するリスクもある。また身内だと、なんでも先回りしてやってしまうことで高齢者自身の尊厳をないがしろにしてしまうケースも少なくありません」
写真/PIXTA
※女性セブン2025年5月22日号
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