薬ののみすぎによる弊害を医師が指摘「75才以上の患者の25%が7種類以上処方」
11人に1人――これは国際糖尿病連合が発表した全世界の糖尿病患者の割合。患者数は右肩上がりで増え、2030年にはその数は約6億人に届くと試算されている。背景には豊かな食生活や高齢化などがあり、同様に、高血圧や高脂血症に悩み、薬をのみ始める人も少なくない。しかし、治療のために処方された薬でかえって体調が悪化するケースが多数報告されている。医学の進歩によって多くの人が長生きできるようになった「人生100年時代」に伴う大問題の解決策を探った。
コロナ禍の受診控えが薬を見直すきっかけに
新型コロナウイルスの影響で、“病院離れ”が進んでいる。全日本病院協会の調査によれば約8割の病院が患者数の減少による経営の悪化に苦しんでいるという。その一方で受診控えによって皮肉にも症状が好転した例もある。50代の会社員、山口佳子さん(仮名)が打ち明ける。
「コロナ禍の前は月に1回通院してコレステロールの薬をのんでいたのですが、受診控えで薬をもらいに行かなくなり、ついには“コロナにかかるよりはマシ”と、のまなくなってしまいました。ですが体調はすこぶるよく、時々あった頭痛や吐き気がなくなって運動する時間や食べ物に気を使う余裕ができて、むしろ元気になった。先日、恐る恐る久しぶりに病院に行って検査を受けましたが、数値が下がっていて異常なし。早く減薬すればよかったとすら思っています」
在宅医療のスペシャリストで減薬に詳しい、たかせクリニック院長の髙瀬義昌さんによれば、山口さんのようなケースは少なくないという。
「コロナ禍によって病院に行く回数が減ったことが、いまのんでいる薬を見直すきっかけになったと話す人は意外と多い。もちろん、薬をのまなくなったせいで症状が悪化した人もいますし、個人の判断で薬をやめるのは推奨できませんが、薬をのまなくても問題ないことがわかり、減薬につながった人も珍しくないのです」(髙瀬さん)
薬ののみすぎで起こる弊害も心配
そもそも薬は効果がある半面、副作用がつきもの。のみすぎることによって起きる弊害は軽視できない。新潟大学名誉教授で医師の岡田正彦さんが指摘する。
「ほぼすべての薬にはなんらかの副作用があるうえ、のむ種類が増えるほど、その危険性は高くなる。5種類以上の薬を併用している人は、認知症になりやすいというデータがあります。種類も量も、最低限にすべきでしょう」
■薬ののみすぎの弊害は全身に
●物忘れ・せん妄
アレルギーの薬から睡眠薬までさまざまな薬に含まれる抗コリン薬によって引き起こされるケースが多い。
●食欲低下・便秘
抗うつ薬の作用で食欲が低下したり、腸を刺激するタイプの便秘薬ののみすぎで便秘が悪化することも。
●排尿障害
多数の薬を服用することで膀胱に薬がたまり、排出されづらくなる。
●ふらつき・転倒
5種類以上薬をのむ高齢者の4割にふらつきや転倒などの副作用が。
高齢患者の4分の1が7種類以上処方
体に有害な問題が起きるほど複数の薬をのむ「多剤併用」は、複数の研究機関が危険性を指摘している。日本老年医学会のガイドラインによれば、処方薬が6種類以上になれば副作用が増加し、5種類以上をのむ高齢者の4割に、副作用によるふらつきや転倒が起きているという。
にもかかわらず日本では、60才を超えると7種類以上の薬を処方される割合が増え、75才以上では約4人に1人が該当する計算になる。
■高齢患者の4分の1が7種類以上処方
「厚生労働省が高齢者向けに注意すべき薬のリストを作成するなど、以前よりも状況は改善され、減薬に取り組む医師も増えています。
とはいえまだ充分ではなく、患者の中には20種類近くの薬を処方され、副作用で健康を害して当院に来た人もいました。
もちろん、薬をやめると症状が悪化しやすい循環器系の病気など、簡単には減薬できないケースもあります。ですが、生活習慣病をはじめとした、年を重ねると直面する病気の多くは、努力と工夫で薬を減らすことができます」(髙瀬さん)
※女性セブン2022年1月20・27日号
https://josei7.com/
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