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健康

75才以上に慎重な投与が必要な薬28種類―転倒や呼吸不全、認知機能低下など生活に直結する副作用を専門家が解説 

 病気を治す薬も、組み合わせ次第では危険になることがあり、さらに単剤でも注意が必要なケースがあると、専門家は話す。日本老年医学会が10年ぶりに改訂した『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025』では、75才以上に特に慎重な投与が必要な28種類の薬を新たに記載した。

教えてくれた人

堀美智子さん/薬剤師、谷本哲也さん/医師(内科医)・ナビタスクリニック川崎院長

年齢によって薬の作用が強く出る危険性も

<常に用量調整と注意深い経過観察を行ない、薬物有害事象が疑われる場合は減量・中止を検討する>

 日本老年医学会は7月、10年ぶりに改訂した『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025』でこう注意喚起し、75才以上に「特に慎重な投与を要する薬物」の新たなリストを掲載した。

 薬剤師の堀美智子さんが語る。

「加齢とともに肝臓や腎臓の働きが低下すると、薬が体内に長くとどまりがちになります。また、年を重ねると薬の作用をマイルドにする役割を担う血液中のアルブミンというたんぱく質が減少するため、同じ量でも作用が強く出て、副作用が起こりやすくなる可能性があるのです」

新ガイドラインで糖尿病治療薬、抗凝固薬が追加

 問題はこうした薬の効き方の年齢差についての知識が不十分な医師がいることだと堀さん。

「患者ひとりひとりの年齢や体質などを考慮せず、画一的に処方している医師もいます。重大な副作用を避けるために、患者側も自分の年齢に応じた薬のリスクを知ることが求められている」

 ガイドラインのリストに挙がった薬は計28。堀さんが注目したのは、今回の改訂で追加された糖尿病治療薬の「GLP-1受容体作動薬」だ。

「低血糖状態に陥る危険性があるほか、吐き気や下痢などの消化器症状や食欲不振などの副作用から、高齢者はサルコペニア(筋力低下)のリスクもあります。同じく糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬は尿の排出を促す作用があるため、脱水に注意が必要です」

 心房細動の患者などに使われる抗凝固薬の「ワルファリン」も、今回新たに追加された。

「心房細動では心臓の一部が小刻みに震えることで血流が淀み、血栓ができやすくなる。それが剥がれて脳に飛ぶと脳梗塞を引き起こします。ワルファリンは血を固まりにくくして血栓を防ぐ薬ですが、加齢により腎機能や肝機能が低下しているケースだと、作用が強く出すぎて大出血を起こしてしまうリスクがある」(堀さん)

副作用の影響で認知症や熱中症リスクも

 前回のガイドラインから引き続きリストに入ったのが、降圧剤のα1遮断薬とβ遮断薬。いずれも交感神経の作用を遮断し、血管の収縮を抑えることで高血圧を改善するものだが、内科医でナビタスクリニック川崎院長の谷本哲也医師はこう注意を促す。

「ご高齢の方では血圧が下がりすぎてしまい、ふらついて転倒する危険性がよくあります。骨折すればそのまま寝たきりになって認知症を発症するリスクが高まるうえ、頭を打ってしまうと頭蓋内出血を起こす可能性もある」

 ループ利尿薬は体内の過剰な水分の排泄を促してむくみなどを改善する薬で、降圧剤としても処方されている。

 堀さんが言う。

「ループ利尿薬は腎機能の低下に注意が必要で、もともと腎機能が落ちている高齢者にはより慎重な投与が求められます。尿酸の排泄機能も低下するため、高尿酸血症の患者が通風発作を引き起こすリスクも高まります」

 さらに堀さんが指摘するのが、過活動膀胱薬やパーキンソン病治療薬などに使われる「抗コリン薬」の副作用だ。

「副交感神経の伝達物質であるアセチルコリンの働きを抑える薬で、体のさまざまな部分に作用する可能性があります。代表的な副作用が喉の渇き。常に喉がカラカラな状態になるため、適切な水分補給のタイミングがわかりにくくなる。汗をかきにくくする作用もあるので、熱中症リスクが高まります。筋肉量が減って体内に水分を蓄える能力が低下している患者にとって、汗が出にくい状態は特に危険です」(堀さん)

 抗コリン薬は認知機能の低下との関連も指摘されてきた。

「薬を服用している間だけの一時的な影響と考えられてきましたが、最近では服用をやめても元に戻らない可能性も指摘されています。メカニズムの詳細は解明されていませんが、疫学調査の結果などを受けてリストに入ったものと推察します」(同前)

 年齢に応じたリスクを知り、処方薬としっかり向き合いたい。

※週刊ポスト9月19日・26日号

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