「認知症の義父が”犬食い”する姿を見ると辛くなる」悩める女性に毒蝮三太夫がかけた愛あふれる言葉【連載 第8回】
介護の苦労や悩みは、人に話してもなかなか伝わらない。かといって、ひとりで抱え込んでしまうと、どんどん苦しくなってしまう。今回の相談者は、同居している義父を介護している61歳の女性。マムシさんは、相談の行間から浮かび上がってくる深刻な状況を危惧する。ねぎらいの言葉とともに、具体的なアドバイスを贈った。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「認知症の義父の“犬食い”が気になる」
いきなり数字の話で申し訳ないけど、厚生労働省の「介護保険事業状況報告」(2020年8月分)によると、全国で施設に入所して介護のサービスを受けた人は約96万人で、在宅でサービスを受けた人は390万人もいるらしい。これは、たいへんな数だよ。年寄りが年寄りの面倒を見てる「老老介護」も多い。それぞれ言うに言えない苦労や悩みがあるはずだ。
今回は、自宅で認知症のお義父さんの面倒をみている61歳の女性からの相談。まずは「よく相談してくれましたね。ありがとう」ってお礼を言いたい。介護をしている人は、ギリギリでがんばってる。ひとりで抱え込んじゃったら、ますます追い詰められるからね。
「同居している認知症の義父(93)の食べ方が気になります。最近、犬食いが目立つようになりました。“腹八分目”とも無縁で、食べ過ぎて吐いては、そのあとお菓子を食べています。食べることが楽しみなので、あまり制限しても良くないと思うのですが……。食べ過ぎないようにさせるコツや、犬食いを見てもやり過ごせるような心構えについて、ヒントをいただけたら幸いです」
回答:「よく相談してくれた。まず頑張っているあなたをホメてあげたい」
認知症のお義父さんの面倒をみるのは、ホントにたいへんだよ。エライよね。ひとつ間違えたら、自分がおかしくなりかねない。この人は文面を見ても、落ち着いて現状を伝えて自分の気持ちを分析してるから、きっと大丈夫だと思う。でも世間には、介護がきっかけで共倒れになったり、悲惨な事件が起きたりという例はたくさんあるからね。
そうならないためには、まわりにSOSを出すのが大事なんだ。介護はひとりで全部引き受けようとしたら、絶対にパンクする。ダンナに協力を求めるとか、友達に愚痴をこぼすとか、公的な制度をできるだけ利用するとか、大いばりでやったほうがいいんだよ。遠慮なんてすることない。いちばん大事なのは自分自身がまともな状態でいることなんだから。
この相談に書かれているのは、お義父さんの食べ方や食べ過ぎについてだけど、俺はもっと深いところで、この人が「助けてください」と叫んでいるような気がする。当たり前だけど、認知症になるのは恥ずかしいことじゃないし、本人に落ち度があるわけじゃない。しょうがないことなんだ。それはきっとこの人だってわかってる。でも、体や心が疲れると、イライラしたりムカッときたりするよな。それもまた、しょうがないことだ。
いわゆる犬食いをしているお義父さんを見て、「まったくもう!」と腹が立ったからといって、自分を責めなくていいんだよ。あなたは十分にがんばってるんだから。「自分がやらなきゃいけない」「きちんとお世話しなきゃいけない」っていう気持ちは大事だけど、それに押しつぶされて余計な罪悪感や後ろめたさを覚える必要なんてない。
人間の老いについて研究している先生に教えてもらったんだけど、認知症の人は否定されることがいちばん嫌なんだって。食事したあとで「ご飯はまだ?」と聞かれて、「もう食べたでしょ」と否定するのはよくない。「なんで食べさせてくれないんだ」と不安になっちゃう。「そうね、まだだったわね」って言ってクッキーの1枚でも食べれば、本人は安心するそうだ。
こういうことは介護の専門職の人に聞けば、きっといろんな知恵を持っていると思うよ。行儀の悪い食べ方をやめさせる言い方もあるんじゃないかな。でも、体に力が入らなくて、頭が前に倒れてきちゃうのかもしれない。お義父さんはお義父さんなりに、生きることを一生懸命にがんばってる。生きているだけで立派だよ。「長生きしてくれて、なんて素敵なお義父さんだろう」と思ってあげようじゃないか。
ともかく、この人に必要なのは、自分で何もかも背負い込むのをやめて、助けを求めることだな。ダンナの親なんだから、まずはダンナに助けてもらおう。公的な制度も最大限に利用して、専門家にもどんどん頼ろう。少しずつ荷物を減らしていけば、気持ちも変わってくるはずだ。
自分に向かって「がんばってるあなたはエライ!」って、たっぷりホメてあげることも大事だな。
最初に言ったけど、日本には介護が必要な人が400万人も500万人もいる。親も自分も順番に歳を取っていくわけだから、誰にとっても身近で切実な問題だ。「ひとりで抱え込まないで、どんどんSOSを出そう」という認識は、みんなで持っていたいね。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。85歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評!
YouTubeでスタートした「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、たちまち絶好調!毎月1日、11日、21日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
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