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「親が認知症になったら…」毒蝮三太夫がズバリ!アドバイス【連載 第27回】

 現在、65歳以上の高齢者のうち、およそ6人に1人が「認知症」だと言われている。「認知症」は、誰もがなりうる病気だ。「認知症」には当てはまらなくても、年齢を重ねると、もの忘れが多くなるなど、若い頃とは勝手が違ってくる。子どもとしては親の変化をどう受け止め、どう接すればいいのか。マムシさんに極意を教わった。(聞き手・石原壮一郎)

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昔のイメージにとらわれて衰えを責めるのは残酷

 今、日本全体で「認知症」の人は600万人以上いるらしい。5年後の2025年には700万人ぐらいになって、65歳以上の高齢者のうち5人に1人が認知症になると予想されてる。誰がいつなるかわからないし、親が認知症の人も多いだろう。つまり、誰にとっても身近な問題ってことだ。

 ごっちゃにされがちだけど、年を取ってもの忘れが増えるのと認知症とは、ぜんぜん別なんだよ。認知症にも何種類かあるけど、要は脳細胞がやられちゃう病気で、記憶力だけじゃなくて、判断力や感情を抑える力が失われたりするそうだ。だけど、しっかりしてる部分もあるし、プライドや羞恥心は変わらないんだよな。

 自分の親が認知症になったら、そりゃ、子どもとしては戸惑うよ。あんなに頼りになる存在だったのに、なんでさっきご飯を食べたことも忘れちゃうんだって、もどかしい気持ちにもなる。だけど、病気なんだからしょうがない。親は認知症という病気なんだ、だから変わっちゃったんだと認めることが、子どもの側としては大事なんじゃないかな。

 ただ、それがなかなか難しい。子どもとしては、親はいつまでも憧れや目標であってほしいからね。認知症になるならないに関わらず、年を取ればできないことが増えたり衰えが出てきたりする。それをいちばんもどかしく思っているのは、本人なんだよ。子どもの側が昔のイメージにとらわれて、できないことが増えた親を責める気持ちを持つのは、残酷なことなんじゃないかな。

 病気だと認めて変化を受け止めるのは、子どもの側の怒りやイライラを抑えるためでもある。こっちの顔を見て「どちらさまですか?」なんて言われたら切ないし腹も立つけど、病気がそう言わせてるんだと思えば少しは気が楽になるよ。「昔はこうじゃなかったのに」っていうセリフは、親に対してはもちろんだけど、自分にも言わないほうがいい。

 認知症になった人は、否定されることが何より嫌なんだ。さっき食べたばっかりなのに、すっかり忘れて「私、朝ごはん食べてないの」って言い出しても、「さっき食べたじゃない」って否定しちゃいけない。そう言われたって、本人は「ああ、食べたのか」とは思わなくて、「食べてないのになぜ食べたって言うんだろう」と不安になっちゃう。

前向きに面白がるくらいの気持ちが大事

 これは長く老人医療に携わっている医師のフレディー松川さんの本にあったんだけど、「私、食べてないの」と言われたときは、「食べたでしょ」と否定するんじゃなくて、「それじゃあ、食べましょうね」って言いながら、クッキーなりおせんべいなりをお互いに食べるのがいい。それを食事だと思って納得してくれる。

 高齢の親がどっかにものを忘れてきたときも、「なにやってんの!」と叱ったり「どうしてなの?」と問い詰めたりしたら、本人はますます落ち込んじゃう。「それは困ったね。いっしょに探してみよう」って言ってあげる。同じ話をしてきても、「もう何度も聞いたよ」と否定するんじゃなくて、初めて聞いたような顔をして興味を示してあげる。なかなか難しいけど、責められてばかりだと親も話をしたくなくなっちゃうよ。

 それと、いくら年を取っても、たとえ認知症になっても、相手を尊重してプライドを大事にするっていう前提を忘れちゃいけない。年寄りは、いや年寄りだからこそ「バカにされてる」「ぞんざいに扱われている」ってことには敏感だからな。乱暴な言葉づかいなんてもってのほかだ。

 仮に親が認知症になったら、悲嘆にくれてたって症状がよくなるわけじゃないんだから、前向きに面白がったほうがいいよ。「今日はどんな面白いこと言うかな」って待ち構えてさ。人間の魂にランクがあるとしたら、向こうは天高く突き抜けて雲の上の境地に行っちゃったわけだ。子どもの側も負けずに広い気持ちを持たないとね。

 俺だって、人ごとじゃない。この先、認知症になる可能性も十分にある。だから認知症にならないために、人と話をしたりオシャレをしたりして、脳にせっせと刺激を与えてやらなきゃな。それが予防になるのかどうかはわからないけど、予防になると信じて毎日を楽しく過ごしていきたいね。

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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)が10月8日に発売。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

撮影/政川慎治

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