猫が母になつきません 第244話「かぶる」
母は高齢になってからよく帽子をかぶるようになりました。ちょっと外出するときに髪の毛をきれいに整えるより帽子をかぶるほうが楽だからでしょう。母に限らず高齢者の方の帽子率は高い気がします。母が今かぶっているのはすべて普通の帽子ですが、転倒したときに頭を守ってくれる機能がついた《保護帽》というものがあるそうです。見た目は普通の帽子ですが、内側に衝撃吸収材などが入っていてもしものときにダメージを軽減してくれるというもの。以前私が病院のベッドで点滴を受けていたとき、隣のベッドに転倒して頭を切った高齢者の女性が運ばれてきました。幸い怪我は軽く、その女性は治療を受けながら「遊びに来た孫を送りに出たところで転んでしまった。孫に心配をかけてしまった」とほんとうに申し訳なさそうに話されているのがカーテン越しに聞こえてきました。おばあちゃんが頭から流血…たしかにお孫さんはおばあちゃん以上に青ざめたことでしょう。傷が軽いとわかっていたのでその光景を思い浮かべてちょっと笑ってしまいましたが、同時にそのご家族のあたたかさがじんわり伝わってきて勝手にほっこりしんみりしました。帽子、かぶっていたほうがいいかもしれません。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。