有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』7話「世界中が敵でも、俺たちだけは味方だから」姉の幸せを願う弟たち
NHK朝ドラ『ひよっこ』の脚本家・岡田惠和とヒロイン・有村架純がタッグを組んだ話題作『姉ちゃんの恋人』7話。恋人同士となった真人(林遣都)と桃子(有村架純)の幸せを願う人々の感情をこまやかに描いた回。中でも姉思いの弟たちの行動が印象的だった。ドラマを愛するライター・大山くまおさんが振り返ります。
桃子の弟、和輝が大活躍!
「ずっと姉ちゃんが俺たちのこと守ってきてくれた。今度は俺たちが姉ちゃんを守る。何があっても。世界中が敵でも、俺たちだけは味方だから」
コロナ禍の今を生きる若者たちの恋と生活を描く、有村架純、林遣都主演のドラマ『姉ちゃんの恋人』。先週放送された第7話では恋人になった桃子(有村)と真人(林)が投げキッスをしたり、間接キッスでわちゃわちゃしたり、愛おしそうに微笑みあったりと、幸せそうな2人の姿をたっぷりと描きつつ、彼らと彼らを取り巻く人たちのかかわりを描き出した。
これまでのドラマなら、主人公の2人が恋人になったら、そこで話を終わらせるか、新たな障害を与えて話をややこしくするか、どちらかのパターンになることが多かったと思うが『姉ちゃんの恋人』はこのドラマらしいアプローチで話を膨らませてみせた。
冒頭の言葉は、桃子の弟、和輝(高橋海人)のもの。第7話は和輝の存在が大きくクローズアップされた回でもあった。
「あの人を幸せにするし、私もなる」
恋人ができたことを真人は母の貴子(和久井映見)に、桃子は上司の日南子(小池栄子)に報告する。恋人の有無なんて母親や上司には関係ないと考えるのが普通かもしれないが、2人にとってはこうするのが当たり前のよう。
桃子はもちろん、弟の和輝、優輝(日向亘)、朝輝(南出凌嘉)にも報告する。さらに桃子は前科のある真人の過去を包み隠さず打ち明ける。最初は拍手して喜んでいたが、桃子の話を聞いて不安げな表情を浮かべる弟たち。無理もない。朝輝は「姉ちゃんは幸せになれるの?」と率直に問う。桃子の答えはこうだ。
「うん、なる。必ずなる。あの人を幸せにするし、私もなる」
先週のレビューで桃子のことを「自分も幸せになりたいし、相手も幸せにしたいと願い、実行しようとするヒロイン」と記したが、まさにそのとおりの言葉だ。女性だからといって受け身ばかりじゃいられない。愛する者どうしが手をとりあい、一緒に笑ったり、一緒に泣いたりしながら、一緒に幸せをつくっていくのが今の時代にふさわしい。そうしなければいけないぐらい厳しい時代ということでもある。
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』6話。手を繋いで観覧車をもう一周…幸せな未来を願わずにはいられない
桃子は弟たちに自分と真人の味方でいてほしいと頭を下げる。そんな姉の姿を見て、涙を流した和輝が言ったのが、冒頭に挙げた「世界中が敵でも、俺たちだけは味方だから」という言葉だった。和輝はどこまでもピュアで、真っ直ぐで、姉思いの男である。
「恩人」と「味方」がたくさんいる世界
喫茶店でデートをする2人。真人は職場の先輩・悟志(藤木直人)のことを「恩人」と表現する。「そういう先輩と出会えたのって、本当に幸せなことだよね」と返す桃子にとっては日南子が恩人だ。そんな日南子に、真人は自分の過去を打ち明けていた。
「何言ってるの。私は桃子の味方をする。だから桃子が君を好きなら私も好き。応援するよ。それでいいよね」
迷いなく言い切る日南子がカッコいい。そして、桃子と真人にとっての恩人が川上(光石研)だ。「大事な2人が恋人同士になって、俺、嬉しいよ」と破顔するが、ビデオ通話の後に「お願いだから、嫌なこと起きないでくれよ」と手を合わせる川上の姿に胸を打たれる。
真人は母がパートをしている弁当屋の藤吉(やついいちろう)にも桃子を紹介する。藤吉も真人と母にとって恩人だからだ。
ここは「恩人」と「味方」がたくさんいる世界だ。誰かが困っていたら、誰かが手をさしのべる優しい世界。真人も桃子も、人の助けによって生きてきたという思いが強いのだろう。だから、すぐに報告して喜びを分かち合う。あなたのおかげで、恋人ができました、と。
恋人ができたからといって、いちいち紹介するのなんて面倒だし、窮屈だし、重圧もかかる。秘密の恋を楽しむのほうが気ままで気楽かもしれない。だけど、こういう人と人とのかかわり方もあるんだよ、と『姉ちゃんの恋人』は提案してくれている。ソーシャルディスタンスが当たり前になった世界で、せめて人の心と心の距離は近づけておこう、と。
「人として、大事にしてください」
和輝が真人に会いに来た。いつもふにゃふにゃした優しい笑顔の和輝が、厳しい顔で言う。「あなたとの関係」は「あなた次第」だと。
「本当に大切な姉なんです。どうかあなたが傷つけることだけはしないでください。お願いします。もし、あなたが姉を傷つけるなら、僕はあなたを許さない。絶対に許さない。約束してください。この通りです」
和輝たちにとって、桃子はかけがえのない存在だ。気が強そうに見えるが、弱いところがあるのも、人知れず落ち込んでいる姿だってよく知っている。だからこそ、絶対に傷つけたくないと思っている。思いが強すぎてちょっと危うく見えるのだが、真人は全部受け止めてまっすぐ「約束します」と返事する。
「ホントいいヤツなんで、ウチの姉ちゃん。人として、大事にしてください」
いまどき、娘の父親だって恋人にこんなこと言えないだろう。だけど、「人として、大事にしてください」って、恋愛だけじゃなく、あらゆる場面でものすごく当たり前のことだし、ものすごく素敵なことだと思う。
2人の前に現れた元恋人
桃子は親友のみゆき(奈緒)から、和輝に告白されたこと、和輝のことが好きになったことを打ち明けられる。困惑する桃子の想像の中で花婿姿の和輝が映し出されるが、これは高橋海人ファンのためのサービスシーン。
「でっかくなりやがってー!」と和輝の頭を撫でて、2人の交際を認める桃子。エンディングでは和輝がみゆきを思いっきりハグして、ぐるぐる回ってみせた。みゆきはコロナの影響で失業してしまったが、今後どのような道を歩んでいくかに注目したい。それにしても、やっぱり人は辛い境遇にあるとストロング系のお酒を飲むんだね……(前は同じストロング系のお酒を飲んでいた桃子だったが、今回は甘めのカクテルを飲んでいた)。
日南子と悟志もめでたく恋人同士になって、幸せな空気がドラマを満たしつつあったのだが……。桃子と真人の前に偶然現れたのが、真人の元恋人、香里(小林涼子)! 突然、男たちに襲われた彼女を助けようとして真人は暴力をふるったのだが、香里が事実を証言しなかったため、真人は一方的に罪を負わされて服役することになったのだ。
不穏な気配もするが、同時に被害者でもある香里のことを放っておかなかった脚本に安心する。予告を見る限り、香里が大きな禍をもたらす存在ではないと思うが、はたしてどのように決着するのだろうか。
『姉ちゃんの恋人』これまでのレビューを読む
→コロナ禍の家族ドラマ『姉ちゃんの恋人』1話『ひよっこ』脚本家と有村架純の名タッグが嬉しい
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』2話。しゃがみ込む桃子、触れようとした手を下ろす真人。過去に何が?
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』3話。幸せな風景に気後れする人たちを癒やす
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』4話「弱い人に優しい人でいてほしい」…今、当たり前が踏みにじられている
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』5話。背負った十字架…でも誰かが話を聞いてくれる世界は美しいはず
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』6話。手を繋いで観覧車をもう一周…幸せな未来を願わずにはいられない
『姉ちゃんの恋人』番組公式サイト
『姉ちゃんの恋人』は配信サービス「FODプレミアム」で視聴可能(有料)
文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
●『北の国から』は父の視点、子の視点、母の視点…あらゆる視点を内包する傑作である